第97話 ロイド達の賭け
食事を終え、休憩がてらロイド達と雑談をしていると昼の鐘が鳴った、そろそろいい時間だろうとギルドに向かう、ロイド達の今日の問題行動の報告も兼ねてギルドまで一緒に行く事にする、ロイド達は冒険者を続けるかどうかはその後話し合って決めるようだ。
ギルドに向かって歩いていると昼時という事もあり多くの人に声をかけられる、ロイド達も一ヶ月以上ラザで活動しているのである程度顔を覚えてもらえてるようだ、町の人に声をかけられる度にロイド達の顔も明るくなる。
そんな感じで歩いているとテオが声をかけてきた。
「なぁなぁ兄ちゃん、決闘するなら俺も戦っていいか?」
ワクワクと楽しそうに話すテオ、俺はギルドでまた視線が集まるんだと思うと少し緊張するのに本当に大物だよな、それに好戦的だ、そう思いながらリズと相談し、俺達以外のメンバーと戦ういい機会だし俺が真眼で相手を見て、さらに決闘の条件次第でテオにも出てもらう事にした。
どういう形で戦うかはまだ決まってないが一発勝負じゃないのならテオを出しても大丈夫だろう、リズとレイナも決闘は見た事が無いらしいが聞いた話では当事者同士で勝利条件を決めるようだ、自惚れではなく、昨日までにギルドで鑑定した冒険者には俺とリズが敵わない様な相手はいなかったから出来れば勝ち残り方式にしたい所だ。
相手が勝ち残り方式を嫌う可能性もあるのでどういう対戦方式がいいか皆で話をしながら歩き、ギルド前の噴水のある広場まで来た所で、広場に沢山の人がいるのが見えた。
噴水はラザの名物で、広場には屋台も沢山出ているので昼時は噴水の周りで食事をする人が多いのだが流石に多すぎる、しかもいつもは町の人が殆どなのだが今日は冒険者風の人が半数以上だ、その全員の視線が広場の中心、噴水の方に集まっている。
「トーマ、これ多分観客だよ。訓練所だと入りきらなくてここで決闘する事にしたんじゃないかな」
人の群れを見てリズが言ったので、まさかと思いながら群衆に近づいていくと群衆から声があがる。
「おっおい、来たぞ」「主役が来たぞ」「兎の前足が来たぞ〜」
誰かが声をあげ、それが広場全体に広がっていく、そして俺達の前の人の群れが割れ、噴水の所まで道が出来る。
ここまで大事になるとは思わなかった俺は、群衆が割れて出来た道をおずおずと歩く。
これは、冒険者だけでも百人近くいるんじゃないか?こんなに集まって依頼は大丈夫なんだろうかと心配しながら噴水に辿り着く、そこにはギルド長のハミルと二人の職員、それと三十人近くの冒険者がいた、その中には見た事が無い冒険者もいるので鑑定をかける、大抵が魔力強度30から40だが四人だけ70を越える冒険者がいた。
マイオ:33
人間:冒険者
魔力強度:75
スキル:[体術] [身体強化] [炎魔法]
スキンヘッドに口髭を蓄え、冬なのに半袖の服をつけ、その上から胸当てと腰周りだけの革鎧をつけた筋骨隆々な男性。
パット:38
人間:冒険者
魔力強度:77
スキル:[剣術] [槍術] [弓矢] [身体強化]
肩まで伸ばした金髪、麻布のシャツ、その上から動物の革で出来たベストを羽織り、背中には弓と槍を背負って腰には長剣を提げた男性。
ナンシー:28
人間:冒険者
魔力強度:73
スキル:[身体強化] [風魔法] [氷魔法] [魔力操作] [魔力感知]
肩を越える程まで伸びた茶髪の上からテンガロン型の帽子を被り、麻布のシャツの上から動物の革で出来た、少し小さめのベストを羽織った女性。
ドルント:40
人間:冒険者
魔力強度:86
スキル:[剣術] [体術] [身体強化:特大]
こちらもテンガロン型の帽子を被り、ベストを羽織った渋い男性、マイオ以外は西部劇に出てきそうな服装だ、もしかしたらアメリカから落ちてきた異邦人がいたのかもな。
全員魔力の流れも悪くない、それに魔法系のスキルしか無いナンシーでも身体強化を覚えている、そしてドルントはテオ、セオでは確実に敵わないだろう、魔法無しだとレイナも無理そうだ。
魔力の流れが淀みない事からも真面目に鍛えているのだろうと思う、そんな実力のある冒険者でも採取や町の手伝いをする冒険者を兎野郎と蔑むのかと思うと、落胆と少しの怒りが湧いてきた。
ドルント達は予想外の実力者だが鑑定で見える力、それに加えて真眼で見える魔力の流れを総合しても俺達には届かないと言える、魔力強度も俺達より低いし脅威的なスキルも無い、魔力の流れも綺麗だが俺の真眼で見るとまだ指摘出来る部分もある、獅子の鬣、リストルの子供達、他にも色々な人や自分達を鍛える時に見続けた真眼は相手の力量をかなり正確に測る事が出来る様になってきた、負ける事は無いはずだ。
「おいおい、どこを見てるんだ。お前らの相手は俺達だろ」
俺がドルントを見ているとその隣にいる男が笑いながら喋りかけてきた、朝、俺達に絡んだ五人組だ。
確か…えっと…、名前を忘れてしまったので鑑定で確認する。
ニル:28
人間:冒険者
魔力強度:35
スキル:[剣術] [体術] [身体強化]
長い金髪に軽薄そうな笑みを浮かべた男だ、冒険者らしい動きやすい革鎧には傷一つない。
ジーザ:26
人間:冒険者
魔力強度:37
スキル:[剣術] [身体強化] [風魔法]
焦げ茶色の髪を目にかかるくらいに伸ばした、所謂オカッパ頭の男だ、目がギラギラとしていて正直気味が悪いな。
ゲイラン:28
人間:冒険者
魔力強度:36
スキル:[剣術] [身体強化]
短い黒髪に、顎に沿って伸ばした髭が特徴的な男だ、俺も髭を伸ばしてみたいな。
クズノス:24
人間:冒険者
魔力強度:34
スキル:[槍術] [身体強化]
サラサラの金髪を肩まで伸ばした気障な笑顔の男だ。
オーラ:26
人間:冒険者
魔力強度:35
スキル:[剣術] [身体強化]
少し長めの茶髪を真ん中分けした、なんだか気弱そうな男だな。
うん、身体強化を覚えているといってもギリギリといった感じだな、魔力の流れも所々淀みがある、テオなら大丈夫だろう。
そして他にも目を向ける、するとその中にロイド達をニヤニヤと見ている冒険者がいた、ロイド達に絡んでいた冒険者だ。
バッゲ:32
人間:冒険者
魔力強度:42
スキル:[矛術] [楯術] [身体強化]
スキンヘッドに頬を斜めに走る大きな傷、この世界に来て色々な経験をしていなかったら目も合わせられない程に怖い顔だな。
ダイマン:31
人間:冒険者
魔力強度:37
スキル:[鞭術] [身体強化]
茶色い髪を刈り上げた、お腹がぽっちゃりとした男だ、手にした武器がかなり珍しい。
モストール:33
人間:冒険者
魔力強度:40
スキル:[蹴術] [身体強化]
モヒカン頭で、目がギラギラした男だ、ミーヤに執着してるのはコイツだったな。
バッゲ達三人はニル達五人組よりは強いな、それに三人ともスキルが面白い、ダイマンが持つ、太い鎖の先に刺々しい鉄球がついた武器はモーニングスターっていうんだったかな、かなり凶悪な見た目だ、コイツらもかなりマナーが悪いからな、相手に入ってるなら丁度いい、痛い目にあってもらおう。
俺が標的を確認しているとハミルが俺達と冒険者達の間に立ち、俺達の方を向く。
「トーマ、私が聞いた話ではお前らがここにいる冒険者全員に決闘を申し込んだと聞いているが本当か?」
正確にはドルント達には言ってないし、文句があるなら言ってこいって事だったんだが元々話し合いで解決するとも思ってなかったし俺達も決闘する気でいたんだ、俺はハミルに頷く、すると周りの観衆から野次や歓声があがる、まるで見せ物だな。
この世界には娯楽が少ないのでこういうのは滅多に無い娯楽になるんだろう、串焼きや酒を片手に見ている人も多い。
「お前らこの人数だけでも大変なのにドルントさん達が帰って来るなんて運が悪かったな、これでお前らには万が一の可能性も無くなっちまったな。まぁ俺達がぶっ壊すんだけどな。へへっ、無事に済むと思うなよ、謝っても許さねぇからな。当分は冒険者活動が出来ない様にしてやる」
視界の端でニルが何か言っているが無視だ、それよりどういう風に戦うのかをハミルに確認しないとな。
「ギルド長、決闘の方法と条件を聞きたいんですが」
無視されたニルが喚いている、煩いな、ハミルもそう思うのかさっさと先に進めてくれる、ハミルに呼ばれてそれぞれのパーティーから代表者が集まる。
「ではこれから決闘の方式、条件を決める。まず方式だな、これは向こう側からは勝ち抜き方式の提案があった、そっちはどうだ?」
そう言ってハミルが俺を見る、勝ち抜きは願ってもないのだが、途中交代は認めないようだ、出来れば途中交代を自由にして欲しかったな、向こうは人数の少ない俺達に連戦させて疲れさせるつもりなんだろう。
交代出来ないのはちょっとマズイ、ドルントにはテオでは絶対に勝てない、そこに疲れも加わるならドルントの仲間にも勝てないだろう、俺が少し悩む素振りを見せた所で後ろからテオに声をかけられた。
「兄ちゃん、俺なら大丈夫だ。だから勝ち抜きでいい、お願いだぜ」
ドルント達の強さは感じているだろう、それでも笑顔で言うテオ、リズを見るとリズも頷く、そうだな、自分より強い相手と戦う事も必要だよな、少し過保護だったかなと考え直し、テオとリズに頷き返す、そしてハミルに返事をする。
「方式はそれでいいです、その代わり条件は俺達が決めてもいいですか?」
それに対してハミルはニル達を見る、ニル達も頷いたので条件を言う。
「命を奪う事は無し、仲間が負けると思ったら途中で止めに入る事を許可してほしい。それと先にコイツら、次にアイツらを出してほしい。後は審判の判断に任せます」
そう言ってニル、次にバッゲ達を指差す。
「命を奪う事は無しだぁ?ビビりやがって、死ぬのが怖えぇのか?それに最初に出ろなんて舐めやがって、ボコボコにしてやるぜ」
死ぬのが怖いのかと言うニル、そうだなとても怖い、テオがなまじ強いだけにドルント達も手加減は出来ないだろう、それが怖い、俺は我が儘だからな、敵は殺すけど仲間が殺されるのは許せないんだ、もし負け濃厚になったら間に入ってでも止めるつもりだ。
それにニル達やバッゲ達を最初に指名したのは、煩いから黙らせるのと、テオの練習に丁度いいからだ、最初からドルント達が出てきたらテオの対人の練習にならないからな、やる気になっているテオにはなるべく多くの経験を積んでほしい。
俺の出した条件には剣や槍等の武器はギルドから刃引きのされた物を貸し出すという事で話がついた、特殊な武器はしょうがないのでそのままだが俺は止めに入ってもいいという許可さえあればいい、条件が纏まった所で次は報酬だ、ハミルが相手に何を望むのかを問いかける。
「では最後に報酬だな、双方の望む物を言ってほしい」
報酬と聞いてニルが嫌らしい笑みを浮かべる。
「勿論全てだ、お前らの持ち物を全て賭けてもらうぜ。ギルドに預けている預金があるならそれもだ。英雄なんて呼ばれる程の冒険者だ、俺達三十人を満足させられる程に溜め込んでいるんだろうな」
全てか、強欲だな、だが別に構わない、俺が頷こうとするとモヒカンの冒険者、モストールが集団の中から声をあげる。
「それと俺達は仲間が欲しい、お前らと一緒に来たって事はあの四人も仲間なんだろう?ならお前らが負けたらあの四人は俺らの仲間にする、なんなら女二人だけでもいいんだけどな」
ミーヤを指差しながら言うモストール、一緒に来たから仲間ってのは少し強引だろう、それに代表者でも無いくせに条件を勝手に決めるなんてどんだけ執着してるんだよ。
勝てると思っているが流石にロイド達を景品にするのも気分が悪い、なので断ろうとするとミーヤが声をあげる。
「私はそれでいいの、兎の前足に賭けます」
その声に周りから歓声が上がり、指笛が鳴る、そしてロイドが歩いてくる。
「トーマさん、どうせここでトーマさん達が負けたら俺達は冒険者を続ける事が出来ません。なので俺達が冒険者を続けるかどうかは勝手ですがトーマさん達に賭けました。俺達全員覚悟は出来てます、だから、お願いします」
悲壮な顔でロイドに言われ、困ってしまった俺は皆を見る、するとミーヤ達が真剣な顔で頷き、リズ達が少し怖い笑顔で頷いた、これは責任重大だな。
頭を下げているロイドの肩を掴み顔を上げさせ、わかった、任せろと返事をしてハミルに頷く。
「いいんだな?それではトーマ達の望む物を」
ロイドを皆の所に戻してからハミルに条件を言う。
「向こうにいる冒険者全員、町に迷惑をかけない事、下の級の冒険者に絡まない事を徹底してもらう。守れない場合、一度目は警告、二度目は冒険者資格の一時停止、三度目は町からの追放をギルドと約束してほしい」
俺が条件を言うとそれを馬鹿にするニル達、冒険者が増えた事で町が潤っているというのでマナーさえ正せばいいかと思ったが最初から追放にした方がよかったかな、でも他の連中は笑ってないしそこまで悪い連中では無さそうだ、マナーさえ守ってくれるならギルドの役に立つだろうからこの条件でいいよな。
それにニル達の様な奴は俺達に負けたら勝手に町を出ていくだろう、それか多分…まぁそれは後だ。
「よし、では代表者はこの紙に指を」
ハミルが差し出した紙に指を触れるとぼんやりと赤く光る、俺達の魔力を認識したのだろう。
「これで契約成立だ、契約を守らない場合は犯罪者となるから気をつけてくれ。ではこれよりラザの町、冒険者ギルドの長、ハミル立ち会いの元に決闘を始める。双方一人目、前に」
ハミルの宣言に一際大きな歓声が上がる、広場の周りの建物には二階や屋上から見ている人もいる、本当にお祭りだな。
「テオ、最初から全力でいい、思う存分好き勝手にやってこい。俺達が後ろにいるからな」
「兄ちゃん任せとけ」
テオはそう言って元気よく出ていった。
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