残念な彼ら
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第1話 東雲遼が好きなんです
『俺を選ぶよね? ヒロキ』
弘樹は豪邸をバックに、こちらに向けて手を伸ばしている三次元では見られないような輝きを放つこの男性を見ながら考えあぐねていた。もし今この俺様×年上の
「くっそー、俺はどうしたらいいんだ!!」
弘樹がコントローラーを握ったままカーペットに倒れこむ。
「親が旅行でいないからって堂々とリビングで乙女ゲームする友達を持つ俺は、もっとどうしたらいいんだよ……」
隣でぼそっとつぶやく
外はまだほんのりと赤みが残っているが、時計の針がもうすぐ7時をさす。どうりで今何にも熱中していない克穂はお腹が空き始め、他人の家の冷蔵庫を勝手に漁りだすのか。
「そんなことより晩飯はどうするんだ?」
「親友がこんなに悩んでるのにそんなことだとー!?」
克穂はすぐそこまで来ている変顔をした弘樹の顔面を右手で邪魔そうにあしらう。
「落ち着け。聞いてやるからその顔で迫ってくるのはやめろ」
その言葉を言ってから克穂はひどく後悔することになる。
「東雲遼は東雲家の長男で、父親は……」
長くなりそうなので割愛する。
要するに、弘樹は東雲遼が嫌いらしい。金持ちで、容姿端麗、スポーツも出来てファンもたくさんいる東雲遼が気に食わない、と。しかし最後の一言で解釈が一変する。
「そんな完璧なやつがただ隠れて見ているだけの俺に惚れるわけがない! きっと遊びで面白がっているんだ。ちくしょう」
これを踏まえたうえで考察すると、弘樹は東雲遼を遊び相手としてみていない。どうやら本気で東雲遼に惚れていて、遊びで付き合うなんて嫌だというわけである。
「えっと……つまり弘樹は東雲遼を選択したいが彼に弄ばれるのではないか、という心配をしてこっちの温厚で包容力のありそうな
克穂は弘樹が今やっている恋愛シミュレーションゲーム、いわゆる乙女ゲームの攻略本を見ながらその天城陽向という人物と東雲遼を見比べた。天城陽向は優しそうな笑いながら、隣にいるゴールデンレトリバーと同じ高さまでしゃがんで仲良く写っている写真だ。一方、東雲遼は高級そうなふかふかとしたソファに足を組んで腰掛け、さらに肘掛けに頬杖をついて薄ら笑いを浮かべている。
「お前、将来苦労するぞ」
この比べることすら間違っていそうな両者の差に、克穂は弘樹の将来の嫁を想像し彼を哀れに感じた。
「それにしても、このタイトルの『空との恋』ってどういう意味だ? 空なんてどこにも出てきていないみたいが……」
「ここの名前見てみて」
弘樹が登場人物一覧のページを広げた。そこには紹介の写真と名前、誕生日、好きなものと一言が書かれていた。
「
克穂は書かれている顔や名前をざっと見る。こういうものに苦手意識を持つことはないし、姉も妹もいない克穂にとってむしろ新鮮で、興味深いものだった。
「それで、お前は結局どっちを選ぶんだ?」
克穂が攻略本から顔をあげると、弘樹は真剣に東雲遼のプロマイドブックを見つめているところだった。
「そんなに好きなら迷うこともないだろう。東雲遼を選べばいいじゃないか」
「そんな簡単に言うなよ! それに俺はこいつが嫌いなんだ! 俺を愛人の一人くらいにしか思ってないのに俺の気持ちを……くっそー!」
ここで余談だが、乙女ゲームとはたいてい、シンデレラストーリーだ。主人公であるプレーヤーが何もしなくても男たちはプレーヤーを奪い合ってくれる。そして最後は誰かと幸せになってエンドを迎えるという仕組みだ。
つまり、弘樹の考えはこの乙女ゲームの仕組みを全く信頼していなく、まさに本気で誰かに恋する乙女と同じ心理で東雲遼のことを考えている。
「えっと……お前は東雲凛にも興味があるようだがそれはどういうことだ?」
「凛ルートには遼くんのパジャマ姿も出てくるらしいんだ!!」
弘樹は東雲遼の私生活を知りたいがために弟に手を出そうということだ。
好きな人のプライベートを覗きたいという乙女心はとても分かるが、程度を過ぎるとストーカーになるためほどほどにするのがよいだろう。
2日後……
「東雲遼はあの美容を保つために寝る前に……きゅ、きゅうりパック……」
というように、知らない方がいいことも多い。
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