第15話
いつもよりも一時間も早く起きてしまった。
他の二人は━━、相変わらず僕の近くで寝ている。
ただいつもと違うのは僕の体はベッドで寝ていることだ、まあ二人が僕の隣で寝ているのは変わらないが。
まだ二人は熟睡している、今ここで僕が動いたら二人は起きてしまうだろう。
「……どうしたもんか」
僕の小声にも全く反応しない、可愛い寝息をたて丸まって寝ている。
二人を見ていたらなんだか和む、ただそれだけだったのだが、
「……えい……えい」
プニッという効果音を発しながら、僕の体は二人の頬を突っついていた、触り心地は悪魔のような感覚だ、勝手に笑顔になる━━。
そんな時、感覚は囁きへと変化した。
『そのまま違う所も触っちゃいなよ?』
「えっ!?」
急に脳裏に聞こえる少女のような悪魔の囁き、だが他の二人に起きている様子は無い━━妄想か。
確かに興味が無いわけではない、小さいけど元は大人の女性、エンリヒートは中学生くらいの体だ、少しくらい━━。僕は唾を飲んで頭の中で葛藤していると、
『ほらっ、こんなに可愛いらしい女の子が寝てるんだよ、触らないなんて勿体無いよ?』
「それはそうだけど……でもさすがに、ってまた?」
『大丈夫だって、ばれやしないよ』
今度は普通に会話している僕の妄想。
触るべきか? 触らないべきか?
起きないのなら触っても━━。
気付いたら僕はアグニルの胸元へ手を伸ばし、今にも触れられる距離に胸元がある。
「……クシュン」
「……ッ!!」
不意に右側からくしゃみが聞こえた、くしゃみが聞こえた方を見ると、エンリヒートがじっとこちらを見ている、もしかして、
「もしかして……起きてた?」
「えーっと、すまん主様。起きてた」
「……いつから?」
「━━主様が起きた頃から……かな?」
僕を見ながら「申し訳ない」といった表情を見せながら笑うエンリヒート。
だがまだ未遂だ、エンリヒートだけなら誤魔化せる。
「……エンリヒート!! 後少しだったのに」
「えっ、アグニルも起きてたの?」
「はい、主様が発情していた頃から」
アグニルは僕に笑顔を向け答える。
最悪だ━━、この状況を見られてたのならどんな言い訳も通用しない。
アグニルとエンリヒートはむくりと体をおこし、わざとらしくパジャマのボタンを一つずつ開け、
「邪魔が入りましたけど……続き、します?」
「━━!! しないよ!! 早く準備して行くよ!!」
「あっもう、主様は照れ屋だな!!」
アグニルははだけたパジャマ姿で誘惑してくる、そんな姿を見て理性を保つのは難しい、慌てて目を離しベッドから離れる。
そんな僕を見て「へたれ」や「意気地無し」等、二人はブーブー文句を言っていたが、まあなんとか誤魔化す事に成功した、だが気になるのは、
「ねぇ……僕の頭の中に語りかけてきた?」
「え!? そんな能力はないですが、何か聞こえたんですか?」
「えっと、いやなんでもないよ!!」
さすがに内容までは言えないし、もしかしたら妄想かもしれない。
どちらにしろ、これ以上恥は晒せない。
アグニルとエンリヒートは、頭の上に疑問符を浮かべている表情だったが、「気にしないで」と言葉を付け加えると、なんとか納得してくれたのか、「わかりました」とだけ言って準備を始めた。
朝から少し慌ただしかったが、なんとか解決して精霊舞術祭の会場である、学校へと向かった。
* ** ** ** ** ** **
学校には制服を着た生徒達で一杯だった。
見学者は学校の中へ、参加者は広い精霊召喚を行ったグラウンドに集合している。
人数は昨日よりも多く、これが全員参加者とは、この先の戦いを想像しただけで憂鬱だ。
そんな中、白髪のご老人が壇上に上がってマイクの前に立つ。
「それではこれより、精霊舞術祭を開催します!!」
理事長の言葉を聞いて、会場も学校の中も大歓声が沸き上がる。
学校の中には妹の柚葉の姿と恵斗の姿が、会場の中には雅と雅の肩や頭に乗る小人の精霊の姿が見える。
その後は淡々と昨日伝えられたルールを読み進められ、
「━━以上がルール説明です、それではこの敷地内に散らばってください!! 開始の合図は放送によって行います」
敷地内には様々なエリアが存在する。
沢山の木で囲まれた【森エリア】。
川と石で囲まれた【川エリア】。
見晴らしが良く、障害物が何も無い【高原エリア】
理事長の言葉を聞き終わった途端、エリア目掛けて走って散らばる生徒達。
始まるのは約一時間後くらいだろう。何故こんなに急ぐのか、僕は右往左往していると、
「主様!! 早く行きますよ!!」
「何をボケッとしてんだよ、主様」
二人に腕を掴まれ走り出す。
完全に主従関係が逆転したような姿、二人についていくと、周りが木で囲まれた森エリアまで走ってきた。
森エリアの奥地まで走った僕達三人には、少し汗が流れていた。息も荒々しくなっている二人が僕を見上げ、
「ここまで来れば……大丈夫でしょう」
「そうだな……もう追っては来てないみたいだ」
「えっと、なんのこと?」
「おそらくですが、主様は狙われていました」
「えっ!?」
急に物騒な話をするアグニル、だがその表情は真剣でエンリヒートも何度も頷く。
「主様は戦闘経験が少ない、そう思った上級生達が狙おうとしたんだと思います」
「そういう事か……だから周りも一斉に走ってたんだね?」
「ああ、一対一の戦闘なら楽だが、一対多の戦闘じゃあ、実力があっても勝てないからな」
この予選では先に二つのバッチを獲得した生徒から勝ち抜けというルールだ。当然協力して一人の生徒を狙うという行為も可能で、賢い作戦と言えるだろう。
そこまで頭が回らなく、ただボケッとしていた自分が恥ずかしい━━、そんな自分の無能さを嘆いていた時、
『それではこれより、予選一日目を開催します!!』
アナウンスが敷地内に鳴り響くと同時に、周りからは精霊を召喚する声や物騒な音が響き渡った。
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