元気が有れば何でも出来る!
妻曰く「元気が有れば何でもできる!」らしい。元気と努力で解決するなら某国の軍事侵攻は止められるし、「もう、スーパーカブで通勤しようかって思うわ」となるほどの石油価格の高騰も解決できると思う。元気と努力、あとは筋肉で物事を解決できるってのは無茶な考えだと思う。
「おじさん、オイル交換お願い。レイちゃんと遊ぶからゆっくりでお願い」
だが、頑張ってみたら出来てしまったことはある。若い頃の病が原因で子供を授かり難いはずだったのに、まさか四十代半ばで親になると思わなかった。連日のおねだりに応えてよく頑張った。
「
「レイちゃん、大きくなったねぇ」
どこかの誰かが言っていたが、男装の麗人が嫌いな女子が居るだろうか? いや、居ない。別に男装をしているわけじゃないけれど、悲しいかな晶さんは無自覚天然ジゴロで男装の麗人だ。下はゼロ歳児から上は九十代までとスーパーカブのエンジン回転数の如くスタートからトップエンドまでカバーしてしまう恐ろしい女性だ。お願いだからレイを魅了するのは止めて、マジで。
「晶さんはお姉ちゃんなんやけどなぁ……ごめんな」
「子供が言う事だもんね~レイちゃん」
「にーに、
晶さんに抱っこされるのは幼児の特権。いや、もう一人抱かれる人が居るんやった。旦那さんの薫ちゃんだ。天然ジゴロな晶さんの夫が無自覚男の娘な薫さんなもんで、二人が買い物をしようと商店街を訪れた途端にスゴイことになる。特に奥様方の反応がとんでもない事になる。婆ちゃんの腰が伸びて腐ったお姉さま方は鼻血を出して倒れるといえばわかるだろうか?
「子供ってイイね、ウチもそろそろかな?」
「お? 妊活するん?」
マタニティ姿の薫さんが思い浮かんでしまった。だが妊娠するのは晶さんだ。
「積極的に何かするってわけじゃないけど、自然に任せようかなって」
「そうやね、二人とも若いし健康やから大丈夫やろ」
そういえばリツコさんに「晶ちゃんに渡して♡」って頼まれ物をしてたんやった。
「リツコさんから預かってるんやけど」
「ああ、チャイナドレスとナース服ね」
袋を開けた晶さんが「ほら、可愛いでしょ?」と見せてきたけれど、どちらも晶さんのサイズではない。リツコさんのサイズ……つまり薫君に着せて仲良しするつもりに違いない。
「これをね、薫さんに着せて『いやらしい
レイを抱っこしながら夜の夫婦生活を熱く語るのは止めて欲しい。そもそも「凄く汚すって言ったらリツコちゃんがあげるって」って何やねん。何で汚れるかは怖くて聞けない。
「ところで、最近バイクの盗難がチョコチョコあるみたいなんだけど」
「ウチのお客さんは今のところ大丈夫みたいやで」
淫らな人妻(?)と『高嶋署の白き鷹』との振れ幅が有りすぎる。
「春はバイクの需要がある時期やからね、毎年盗難は増えるで」
「盗んだバイクで走り出したら行き先は警察なのにね」
車輪の会の加盟店はオートバイ購入時に必ず防犯登録と保険の加入を進めている。そのせいか高嶋市南部地域で盗難被害に遭ったオートバイが走っていれば即通報となり持ち主の元へ戻ることが多かった。
「最近は部品単位にしてネットで売りさばく輩が居るみたいやからな、今では持ち主にオートバイの形で戻ることが減ってしもた。困ったことやで……レイ、こっちへおいで」
「イヤっ!」
夜のお楽しみ用の衣装を抱えて「フフフ……今日は……」と、とんでもないオーラを漂わせる『高嶋署の白き鷹』からソッとレイを引き離すのだった。
◆ ◆ ◆
レイを寝かしつけて居間に戻ると、リツコさんがウイスキーをロックで呑んでいた。洗濯物はすでに畳んであり、あとは寝るだけといったところ。
「今日は晶さんが来たで。アレを渡しといた」
「ありがと、中さんも呑まない?」
せっかくのお誘いだが、お酒は止めておこうと思う。「やめとく」と答えると妻は「ふ~ん」とつまらなそうに返事をした。
「晶ちゃんね、子作りに励むんだって」
「らしいな、あの二人の子供やったら美男美女間違いなしやな」
天然男の娘な薫君と無自覚イケメンジゴロな晶さんなら、男であろうが女であろうが天下無双な可愛らしい子供が生まれるに違いない。ただ、残念だが我が家のレイには負けるだろう。
「男の子やったら母親に、女の子やったら父親に似るっていうもんな。晶さんそっくりな男の子、薫君そっくりな女の子か……想像するだけで恐ろしいな」
「晶ちゃんそっくりな男の子なら『ムッハー(;゚∀゚)=3』ね」
説明しよう『ムッハー(;゚∀゚)=3』とは性的に大興奮した状態である。かつてリツコさんは晶さんに『ムッハー(;゚∀゚)=3』したことがあり告白をしている。レイも晶さんが店や家に来ると『ムッハー(;゚∀゚)=3』しながら抱っこをせがむ。ただし男性が『ムッハー(;゚∀゚)=3』すると変態扱いされかねないので要注意。女性だから許されると言っても過言ではない。
「縦書きで読んでる人はわからんやろうな」
「縦書きで読んでる人にはごめんなさいって事で……ムッハー♡」
酔いが回ったからか、リツコさんのエンジンがかかり始めた様だ。某飛行艇が出てくるアニメで主人公がエンジンに付いているハンドルをグルグル回しているシーンを思い浮かべてほしい。圧縮を抜いてエンジンを回し、勢いが付いたところでデコンプレバーを蹴って圧縮を入れればエンジンがかかる。リツコさんは始動直前の状態である。
「寝室はレイが寝てるからね、私の部屋に行こっか?」
じりじり近づいてきたリツコさんは俺のω(直接的な表現はできませんのでニュアンス的な記号を用いております)を刺激(以下カクヨム規定に抵触につき略)
「晶ちゃんたちには負けないぞっと♡」
―――――
この夜、リツコさんは「元気が有れば何でもできる。
この夜、俺の元気が全て搾り取られたのは言うまでもない。
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