第四十五話 ブタっぽい俺のクッキングレシピ6ヒドラの蒲焼(かばやき)

 何とかヒドラに勝利して、高級鶏肉のようなヒドラ肉を手に入れた俺は、俺の百裂張り手(肉叩き)によって、いい感じにほぐされたヒドラ肉を前に悩んでいた。


「う~ん。さすがにこのでかさだと丸焼きは無理か?」


 俺は地面に横たわる首や尻尾まで入れたら全長八メートル体重八百キロを優に超す巨大ヒドラと、リュックから取り出したいつもオークの丸焼きに使っている二メートルほどの串を見比べながら疑問の言葉を口にした。


 そう、俺の仕留めたヒドラ肉が規格外にでかすぎるせいで、いつもの丸焼きに使う串では小さすぎたのだ。


「かといって、せっかく手に入れたお肉を小さく切り分けて焼くのは丸焼き職人としての俺のプライドが許さない」


 そう俺は異世界に来てから数多の強敵を打ち倒し、強敵たちを丸焼きにして食べてきたプライドから、ヒドラ肉がいくらでかかろうと、小分けにして焼いていくという選択肢を選ぶ気にはなれなかったのだ。


 それに男(ブタ)の料理(丸焼き)は、豪快にが俺のモットーだからだ。


 とは言っても、今の手持ちの装備(丸焼きセット)では、料理できないほどにヒドラ肉がでかすぎたために、これからどうやってヒドラ肉を丸焼きにするべきかと、俺が子ブタのように小さな脳味噌を使って悩んでいると、ふと俺の視界に俺とヒドラの死闘に巻き込まれたにも関わらず、今も青々とした青葉を繁らせる森の木々が目に入ってきた。


「そうだっヒドラに合うサイズの丸焼き串がないならっヒドラサイズの丸焼き串を作れば良いんじゃねぇか!」


 自分のやるべきことを見いだした俺は、直ぐ様行動を開始した。


 まず俺は、ヒドラ肉の体重とガタイを支えられる長くて丈夫な串を作るために、森の中に生えている真っ直ぐ伸びていて背が高く、丸焼き串に向いていそうな、できるだけぶっとい木を張り手で張り倒して、鉈で枝葉を削いだあとに先端を尖らせた。


「う~ん。悪くはねぇんだけど、ちっとばっか細すぎねぇか?」


 そうなのだ。俺の視界の森に自生していた木の中で一番長くてぶっとい木を選んだのだが、どう見ても長さ五メートル、胴回りが三十センチほどで、とても一本ではヒドラのガタイを支えられそうになかったのだ。


「う~ん。どうすっかなぁ? とりあえず、丸焼きにするにしても何にしても、さすがに長すぎるし、ヒドラの首と胴体をバラしてから考えるか」

 

 俺は鉈を使ってヒドラの解体を始めた。


「にしてもヒドラの首って胴体と切り離すと蛇みてぇだよな」


 何本目かのヒドラの首を胴体から切り離して、口から串を刺しこんで地面に置きながら呟いた。


「これが巨大ウナギだったらなぁでっけぇうな重が食えたのによぉ」


 俺は蛇から連想した鰻に思いを馳せる。


「脂ぎってて、うまいよなぁ鰻。そう言えばもうずいぶん食ってねぇなぁ。食いてぇなぁ鰻……と、やべえやべえっ今は鰻より、ヒドラだぜ!」


 俺は鰻に思いを馳せすぎて危うく飛びそうになった意識を思い止まらせる。

 

「ん? 待てよ。うな重? うな重と言えば串焼きか?」

 

 ふと俺は自分の呟きであることを閃いた。


「あっそうだ! 一本で支えられねぇならウナギを焼くときみてぇに何本も串を打てばいいんじゃねぇか!」


 ようやく巨大ヒドラを効率よく焼く方法を思いついた俺は、もう何本か森の木を張り倒して鉈で枝葉を削いで急いで五メートルほどの長串を合計三本用意した。


「串を用意したのはいいがこの大量の串を乗せる土台も作らねぇとな」


 俺はいつものように慣れた手つきで丸焼き機の土台を串の数分三つ用意する。


「うしっできた! あとは串打ちして焼くだけだ!」


 それから俺は、首を切り離したヒドラの胴体に、ウナギのかば焼きを作る要領で串打ちを終えると、ヒドラ肉(胴体)を串焼き用丸焼き機にセットした。


「この焼き方だとデカすぎて、ひっくり返せねえのが難点だが、ヒドラには火に強い鱗もあるし、焦げ付くこともねえだろ」


 そう結論付けた俺は、ウナギの蒲焼きの様に串打ちしたヒドラ肉の下にしこたま積んだ薪に百円ライターで火をつけてから、火に炙られているヒドラ肉の回りに、焚き火で焼く小魚のようにヒドラの首を地面に突き立てて、じっくりと焼き始めたのだった。

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