第八話 ブタっぽい俺の大皿葉っぱとポテチとの別れ
首尾よく六体のオークを手に入れた俺は、ほくほく顔で焚火に使う小枝を拾いながら、自転車を残してきた少し開けた草原へと、昨日焼いておいしくいただいたオークのお肉の匂いを辿りながら戻ってきていた。
「オークの肉も手に入ったし、これから丸焼きパーティだ!」
俺は気合の掛け声を一人で上げると、拾ってきた小枝を集めて昨日オークを焼いたのと同じやり方で、オークを木の枝で串刺しにして、焚火を起こし、モンスターンターのハンターのように、焚火の上でまんべんなく火が通るように、ゆっくりと丸焼き機を回しながら焼き始めた。
「でっきるっかなっでっきるっかなっオークの丸焼き~」
俺は鼻歌を歌いながら上機嫌でオークを焼き続ける。
しばらくすると、オークが焼きあがったのか、こんがりとお肉の焼けるいい匂いが辺りに立ち込めた。
「もういいかな?」
俺はそう呟きながら、昨日と同じように焚火に足で土をかけて消そうとするが、まだ焼いていない五体のオーク肉に視線を向けて、ふと思いとどまった。
「う~ん。一体焼いただけで火を消しちまったら、また火を起こすのに時間がかかるからなぁ。何とか火を消さずに丸焼きオーク肉を食べられないか?」
俺は火を消さずに丸焼きにしたオーク肉を、何とか食べる方法を考え始めて、ふとあることに気が付いた。
「なるほどな。こういう時のために、お皿があるのか」
俺は今まで何気なく使っていたお皿たちが、事ここに至っていかに重要だったのかに思い至った。
そう、普段何気なく使っていたお皿たちは、調理器具に乗りきらない調理した食材を、地面に置かずにおいしく食べるために必要だったのだ。
其のことに今更ながらに気が付いた俺は、なにかオーク肉を置いておくことのできるお皿の代わりになるものはないかと、自分のいる草原を見渡すが、草原は草原以外の何物でもなかった。
「う~ん。やっぱり草原だから草以外なんもないのな。森に入って木を切って削って木の皿を作るってのもありだと思うが、今は時間も道具もないからなぁ。どうすっかなぁ?」
悩みながら俺は、草原を囲む木々に生い茂る葉っぱを何気なく見つめていると、ある考えが俺の脳裏に閃いていった。
「そうだっ葉っぱだ! 葉っぱは皿になるんだ!」
俺は昔見た何かの番組で、大昔は葉っぱを皿にしていたことを思い出すと、大急ぎで、草原に隣接している木々に生い茂る大きめの葉っぱを何枚も摘むと、大急ぎで丸焼き機の近くに敷き始める。
そして、四方を風で飛ばされないように、石の重さで固定した。
「よしっこれでいい! これなら土にも触れないし、火も消さないで済む!」
即席の大皿葉っぱを作った俺は、満足げに声を上げると、早速丸焼き機で丸焼きにして、少し時間がたってしまったせいで所々焦げが入り始めたオーク肉の丸焼きに突き刺さっている串を片方づつ、丸焼き機から外して、大皿葉っぱに乗せる。
どこかの部族がお祭り用のメインディッシュのように調理した。大皿葉っぱに乗せられた豚の丸焼きのようなオークの丸焼きを見た俺は、舌なめずりをしながら感想を漏らした。
「おおっこれはっ中々うまそうでいいんじゃね?」
大皿葉っぱに乗せたオーク肉に、塩コショウを振りかけながらもう我慢の限界だった俺は、大口を開けてかぶりついた。
「う~んっやっぱりうめえぇぇぇえっ!!」
俺は丸焼きにしたオークのあふれる肉汁をかみしめながら、喜びの声を上げると、あっという間にオーク一体を軽く平らげて、二体目を丸焼き機にセットして、焼き始める。
「やっけるっかなっやっけるっかなっオークの丸焼き~」
俺は上機嫌で鼻歌を歌い二体目のオークを焼きながら、リュックへと手を伸ばして、ポテチを漁る。
「ん?」
俺は、ポテチ袋を漁っているというのに、いつもの油にまみれたポテチの感触がないことを怪訝に思いながら、ポテチ袋の中を覗き込んだ。
「ポテチが……ねぇ」
ガーンッと効果音が鳴るほどにショックを受けた俺は、すぐさまリュックを手元に手繰り寄せて中を漁りほかのポテチ袋を探した。
「おっ見っけ見っけ」
俺はホクホク顔で新たに見つけたポテチ袋へと手を伸ばすが、案の定ポテチ袋の中には、ただの一枚もポテチがなかった。
「ぬぅっ俺のポテチッ!」
俺はポテチが食いたいがために、リュックをひっくり返した。
ドサドサドサッとひっくり返したリュックから出てきたのは、五袋ほどのポテチ袋と、リュックのわきに差していた水筒だった。
「ポテチッ!」
死ぬほどポテチが食べたかった俺は、リュックから転げ落ちてきたポテチ袋に次々と手を突っ込み、一心不乱にポテチ漁りを開始し次の瞬間、俺の絶望の絶叫がヒステリア森林に木霊したのは言うまでもない。
「ノーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー―――――――――――――――――――――――ーーッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
なぜなら、俺がリュックから取り出したポテチ袋の中には、ポテチの欠片すら入っていなかったからだ。
「なんでポテチがねぇんだよぉぉぉぉぉーーーーーーーーっっっっ!!!!!!」
まぁポテチがなかったのには明確な理由があった。
そう、太田太志は歩きながら、時にオークや灰色狼たちと戦いながら、オークを焼きながら、無意識のうちにポテチへと手を伸ばし、いつの間にか無意識のうちにすべてのポテチを食べて完食していたからだった。
俺は絶望に打ちひしがれながら、ポテチのない絶望とたまらないイライラ感を払しょくするために、先ほどリュックを逆さまにしたせいで、地面に落ちていた水筒の蓋を開けて口元へもっていくと、一気にあおった。
「ゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴク。ぷはぁぁぁぁっっ!! やっぱカレーはうめえええええええええええっっっ!!」
そう俺の水筒にはカレーが入っている。
なぜ? と言われれば答えよう! デブにとってカレーは高カロリージュースにも匹敵する飲み物だからだ!
ポテチが底をつき、絶望とイライラ感を募らせていた俺は、カレーを一気飲みしたことによって、冷静さを取り戻していた。
「食っちまったもんは仕方がねぇ。それより今はオークの肉に全身全霊を傾けよう」
俺は力強く頷きながら、先ほどから少し焦げてしまったが、いい匂いをさせている二体目のオーク肉を大皿葉っぱに乗せると、一体目のオークと同じように塩コショウを振ると、大口開けてかぶりついたのだった。
それから、体長二メートル前後、体重百キロオーバーのオーク肉六体分を平らげた俺は、ランニングからはみ出た下っ腹を撫でながら満足げな声を出していた。
「ふ~食った食った。さておつまみにポテチを~」
俺が食休みがてらポテチ袋へと手を伸ばして、ポテチを食べようとするが、当然ないポテチはつかめなかった。
「そうだった。そういやもう、ポテチがないんだった……」
俺は絶望感に襲われながら、声を大にして叫んだ。
「俺のポテーッチッ! カンバーックッ!!」
当然叫び声をあげた程度で、空になったポテチ袋の中のポテチが復活しているはずもなく、ポテチをなくした俺の絶叫は、ヒステリア森林に響き渡ったのだった。
そのあと俺がもう二度と食べることのできないポテチを想って、泣きながら眠りについたのは言うまでもない。
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