前日準備。

 帰宅すると甘い匂いがした。なるほど、そういえば明日はバレンタインか。

 そう思ってリビングの方に出る。彼女がボウルを持って混ぜていた。頬や手先にチョコが付いたままで、本人は気づいていないようだった。


「ただいま」


「おかえりー」


「今年も作るの?」


「うん。今年こそがんばる」


 ケーキを焦がしたことがある彼女はリベンジするようだ。


「がんばれー」


「うん。期待してて」


 彼女の後ろに回り込んでその様子を覗き見る。


「……なに?まだ出来ないよ」


「んー?どうなってるのかなーってちょっと思って」


「……見たって面白くないと思うけど」


 わざと顔を近づけたせいか、彼女はそっぽを向いてしまった。その頬は少し赤い。


「楽しみにしてる」


 ぺろっと頬についたチョコをとり、スタスタとリビングのソファに歩く。


「〜〜〜っ!」


 彼女はこちらを向いてかおを真っ赤にしていた。


 その様子がとても可愛らしく、知らずに頬が緩む。



 口にほんのり残るチョコの香りはとても甘く、癖になりそうだった。

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