22 《ゲート》の先へ
『バルゥ星系に抜ける《ゲート》前には障害物は見当たりません』
「わかりました。準備ができ次第、次の《ゲート》に向けてジャンプしてください」
「了解しました!」
障害物、つまり《ミーバ・ナゴス》の《ゲート》侵入を阻止するような勢力は見つからないということだ。あくまで現時点で観測できる範囲においては、の話だが。
観測は光学計測および重力子測定によって行われる。しかし、光子や重力子であっても何百億キロメートルも離れた場所から届くまでには時間がかかる。すでに《ゲート》前に何かが存在したとしても、その情報が今いる場所に伝わるまでには、光の速さであっても何時間、何日もかかってしまう。まさに天文学的な数字が踊る世界なのだ、宇宙は。
太陽系のお隣であるこのリーナス星系は、さしたる資源もないために小規模な探索が行われているだけで完全に放置されている状態だ。ちなみに銀河世界における中心、辺境という区分は、その星系が持つ《ゲート》の数と主星系からどれだけ《ゲート》を通過しなければならないかが、判断材料になる。つまり、主星系から何度も跳躍しなければならないここは辺境星系となる。要するに、資源も乏しく主星系からも遠いこのリーナス星系は、開発する価値もない辺境星系ということになる。では、太陽系は?
「辺境の太陽系に、エルナたちは何で来たの?」
タケルは思いついた疑問を口にした。
「太陽系は将来、私の領地になる予定なの。今回は、観光を兼ねた下見というところかしら」
地球に生まれたものとして、地球が誰か個人の所有物になることは想像がつかない。タケルが反応に困っていると、エルナは(もっと詳しく知りたいのだ)と判断し、話を続けた。
「帝国が太陽系を発見したのは約200年前。リーナス星系の調査団が、太陽系に繋がる《ゲート》を偶然発見しました。調査団はそのまま太陽系も調査、当時も文明化されていなかったことから、太陽系はトワ帝国の観察保護下に置かれました。
最近になってようやく宇宙への進出が成功したようなので、私の領地にしようということになったのです。太陽系のような辺境の星系が新しく見つかった時には、王家の者が領地として支配することが決められているのです」
王家以外の貴族が発見されたばかりの星系を支配してしまうと、他の貴族に不公平感が生まれてしまう。しばらくは王家が支配し、安定したところでそのまま直轄領とする、あるいは近隣貴族の領地に組み込むことが一般的だという。
「太陽系の場合、200年経っても文明化の兆しがなくて、帝国内でも対処に困っているのです」
そんな問題のある星系を領地にしようとするエルナは、ある意味奇特、悪く言えば物好きと言えるだろう。
「そう……なんだ……」
なんとなく太陽系=地球の悪口を言われたような気がしたタケルだが、銀河の標準からすればエルナの言葉は間違っていない、むしろ情けを掛けているのだ。
◇
「カイレル・エンジン臨界、
スリングショット航法に伴う軽い浮遊感。船外モニターが一瞬、暗転する。
「ジャンプ成功、《ゲート》まで126キロメートル」
「カイレル・エンジン停止!」
「船体チェック!」
艦橋内が再び騒がしくなる。
《ゲート》の(天文学的に見れば)近傍に位置する《ミーバ・ナゴス》のモニターには、その姿が映っているはずだが、タケルには見つけることができなかった。
「《ゲート》って見えないんですね」
「《ゲート》の厚さは数ミリだからね、ここからだと確認しにくい。少し黄道面を離れて角度を付ければ、孔のような黒い《ゲート》が見えるはずだよ」
「
「
これでしばらくは、待機だ。
タケルのイメージでは、もっとパパッと移動できるかと思っていたが、現実の宇宙航行は手間が多い。星系内での移動はスリングショット航法があるから比較的容易だが、星系間の行き来にこれだけ時間も労力も掛かるのであれば、巨大な帝国を維持していくのも大変だろう。故に、皇女暗殺などという物騒な事件も起きるわけだ。
(ちょっと先入観を捨てていかないといけないかも)
タケルは小さく呟いたが、対応に追われるドナリエルはそれに構うことはなかった。
この《ゲート》の先はバルゥ星系、そして、ナリュー、ギムナス、セル・トワと通過して、トワ帝国主星系トワへと至る。皇帝直轄領のセル・トワ星系まで辿り着くことができれば一応のゴールだが、まだ先は長い。
◇
問題は、ナリュー星系からギムナス星系へ繋がる《ゲート》で起きた。ナリュー星系の《ゲート》から出た直後に行った観測では、ギムナス星系への《ゲート》付近には何もなかったのだが、スリングショット航法で
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