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「……あの、楓? さっきから猫ちゃんをじっと見つめてるけど、どうしたの?」
(しまった)
こいつと会話が成立していると思っているのは飽くまでも僕だけだ。僕以外の人間にはただの猫にしか――ふと思った。
(いや、ちょっと待て。おい、お前。もしかしてお前、僕にしか話しかけられないのか?)
『うむ。現状そうにゃるにゃ』
(……いや、その、お前、自分で自分のことを位の高い存在とか言ってただろう。それなのになんで話しかけられるのが僕だけなんだ?)
『にゃんでと言われても、位の高い低いと能力の高い低いは関係にゃいにゃ。とはいえ余は自分の地位に見合うだけの能力はきちんとそにゃえているけれども、まぁたまたま人間に話しかけるという大して役にも立たにゃい能力は不得手だったというだけにゃ』
――頭が痛くなってきた。こいつと意思の疎通をするのに言葉を発しなくて済む、というのはまだ救いだが、頭の中のやり取りでも時間は経過するわけで、結局傍から見れば猫をひたすら見つめ続ける怪しい人物になってしまうということだ。
(どうしよう)
できることならこのまま関わらなかったことにして立ち去りたいが、
『ほお~う。人間というのはどこまでもしょうもないことを考える生き物にゃ。偉大なる余を放り出してどこかに行こうにゃどとは無礼千万。猫の姿を取った余はどこまでもお前達を追いかけて――や、やめるにゃ! おにゃかこちょこちょするでにゃい! やめてください! おにゃがいします!』
そろそろこいつの尊大な態度に対する忍耐も限界だったので、お腹を思う存分くすぐってから下ろした。ぐったりと横になって動かないそれを、梓は心配そうに見つめている。
「え、この子、急にどうしたの? 獣医さんに連れてった方が――」
(しまった、余計なことをして梓に心配を、って)
梓が獣医さんと言うや否や、猫の姿をしたトカゲは瞬時にエジプト座りの姿勢に戻った。
(……お前、なんで急に?)
『獣医さんというのは怖いところだと聞いているにゃ。怖いところには行きたくないにゃ』
その回答を聞いて、僕はなんというか、もう色々と馬鹿らしくなってしまった。
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