第3話 魔王城突入!
「リック、ドアをぶち破るぞ!」
「ほいきた!」
巨漢で乱暴な男が、小太り体型のリックと丸太を抱え、入口の扉を激しい音を立てて突き破った。
「ホルス、閃光玉を頼む! みんな目をつぶれ!」
ミュータスさんの指示で、ホルスと呼ばれた眼鏡の中年男が、壊れた扉の隙間からボールのような物を投げ入れる。
激しい閃光とともに破裂音が鳴り響く。
ミュータスさんの指示で目を閉じていなかったら、しばらく身動きがとれなかったことだろう。
「よーし、みんな突撃するぞー!」
ミュータスさんの号令で4人が城の中に突入する。
僕も後ろからついて行く。
外の明るさに比べて城の中は薄暗く、目を慣らすのに苦労する。
僕があたふたしているうちに、戦闘はすでに始まっていた。
巨大なホールに陣形をとって構えていた魔王軍の兵士たちは、ミュータスさん達の活躍で次々に倒されていく。
魔王軍の兵士は黒系統の鎧を身につけてはいるが、それをいとも簡単に男達の剣が貫き、引き裂いていく。
血しぶきが飛び散り凄惨な光景なのに、死んでいく相手が魔族というだけで僕は冷静な傍観者と化していた。
「リーダー、こいつら次から次へと湧いて出てきやがるぜぇー!」
「よし、タイミングを見計らって先へ進むぞ! ユーキ、私の後に付いて来るんだ!」
「あっ、はい!」
僕はミュータスさんの後を必死に付いていく。
城の通路は奥に行くほど狭くて、先導するミュータスさんが短剣を振り回していると、その脇を抜けるのがためらわれるぐらいの幅しかない。
ミュータスさんのすぐ脇には小太り体型のリックがサポート役。その後ろに大きなリュックサックを担いだホルスと僕が、その背後で乱暴な巨漢が追ってくる魔王軍の兵隊を切り捨てていく。
ミュータスさんとリックが倒した魔族の兵隊を踏まないように注意しながら、僕は懸命に付いていく。転んだりしたら乱暴な巨漢は容赦なく僕を見捨てて行くに違いない。
しばらく進むと、前方に一際大きな扉が見える。
扉の前には他の兵隊よりも一回り大きくて強うそうな、鋭くとがった角を生やした門番が2体、槍を持って立っている。
僕らの姿を確認した彼らは、槍を構えて、
『ブォォォォォォー!』
といううなり声を上げて威嚇してきた。
ミュータスさんは足を止め、短剣を鞘に収め、ここで初めて聖剣を手に取った。
「あの扉の先に魔王がいる! さあユーキ、見ていてくれ。これが私のスキル『聖剣ミュータスを扱う力』だ!」
と言った次の瞬間、ミュータスさんは聖剣を横になぎ払うような動きを見せる。
すると、2体の門番は断末魔を上げ身体が腰から真っ二つに分離し、その背後の頑丈そうな鉄扉まで破壊した。
乱暴な巨漢が真っ二つになった鉄扉に体当たりし、僕らも部屋の中に侵入する。
魔王がいるという部屋の中は、巨大な空間が広がっていた。
天井から降り注ぐ柔らかな光は、とてつもなく高さのある円筒形の塔の先端に開けられた採光用のまどから乱反射して届いていた。
その光が降り注ぐ中心に、祭壇があり、巨大な玉座に座る魔王がいた。
魔王の身長はおそらく4メートルぐらい。焦げ茶色の顔には深いしわが刻まれ、頭部からは2本の曲がった角が生えている。魔族の王と呼ぶに相応しい重厚感のある黒い鎧を身につけて、僕らを鋭い赤い眼光の目で睨んでいる。
「リック、キミはここで追っ手を防いでいてくれ! 1人でやれるか?」
ミュータスさんが小太り体型のリックに声をかけた。
「これだけ入口を狭くしておけば一匹ずつ退治できるから大丈夫だろうよ!」
リックが扉の残骸を入口に立てて、短剣とナイフを腰に差し、指をポキポキ鳴らしながら答えた。
「では頼んだぞ! 他の者は私に続け、行くぞ!」
「おおう!」
ミュータスさんのかけ声で、僕らは祭壇の階段を駆け上がる。
30段の階段を上りきったとき、先頭を行くミュータスさんと巨漢が立ち止まる。僕とメガネの中年男ホルスは最後の数段をゆっくりと様子を覗いながら上っていく。
「とうとう人間がここまで来てしまったのね。でも魔王はいま病気なの。今日のところは帰ってもらえないかしら?」
女の子の声がする。
声が乱反射して、声の主がどこにいるのか分からない。
僕はきょろきょろ周囲を見回した。
すると、僕らのすぐ脇の丸い柱の陰から、1人の少女が姿を現した。
「誰だお前は!?」
ミュータスさんが問う。
「アタシは魔王の娘、アリシアよ」
「魔王の……娘……だと!?」
アリシアと名乗った少女は、人間の年齢にすると僕と同じ15歳か、もしくはもっと年下……しかし魔族に人間の年齢は当てはまらない。銀色に輝く長い髪を後ろに巻いて銀色の髪飾りでまとめている。魔王軍には珍しく派手な桃色の甲冑の下はカーキ色のロングスカートを身に纏い、両手を後ろに回している。
「私たちに帰れとは、一体どういう了見なんだ? 私たちの目的は魔王の討伐! それ以外にはないのだが……?」
ミュータスさんはそう言い切った。
アリシアは二重まぶたの目を横に流し、ふっと息を吐いた。
長いまつげが女の子らしさを強調している。
そしてキッとミュータスさんを睨むつもりだったようたが――
――ぱっちりとした大きな瞳はミュータスさんではなく背後にいる僕に向けられた。
「な……んで……あなたが……そっちに?」
アリシアは見開いた瞳で僕に向かって、まるで片言の外国人のように話しかけてきた。
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