03.作戦会議
***
その日、支部の会議室にはそれなりの人数の赤札と、支部長である相楽が揃っていた。その面子を見て南雲はやっとか、と内心で溜息を吐く。
恐らくは昏睡状態に陥ったミソギについて、対策を立てる為に呼ばれたのだろう。まさかこのままエース様を放置している訳にもいくまい。遅すぎるくらいだが、文句を言っている場合では無いので胸の内にしまい込む。
室内にいるのは相楽に加え、青い顔をした氷雨、ミソギの同期であるトキ、雨宮、十束という顔触れだ。他の赤札はどうしているのだろうか。昼間とはいえ、これだけの赤札が一堂に会しているのはなかなか見られない光景ではあるが。
全員が揃った事を確認したのか、引率である相楽が口を開く。
「まあ、このメンバーが集まってんだ。何の話題かは分かるよな。お待ちかね、ミソギの救出についての打ち合わせだ。薄々察してるとは思うが、氷雨は今回の件に関わりがあるから呼んだ」
――そうだろうな。
彼の怪しげな行動はずっと前から続いていたし、現にミソギに謎の警告をしたのも事実だ。彼が何も知らないはずがない。
氷雨から得られた情報は以下の通りである。
第一に樋川結芽と彼自身は全くもって他人、血縁関係ですらない事。そして、余所の支部長である緋桜の指示で彼女を監視していた事。
そして――樋川結芽がミソギに酷く執着していた事。詳細は氷雨ですら不明。とにかく出会った当初から、ミソギミソギミソギと耳にたこができる程度には話を聞かされていたらしい。
「ただ……樋川結芽から聞いていたミソギ像と、本物は大分違ったようだが」
最後、言いにくそうに氷雨はそう言った。一体、結芽にはミソギがどのように写っているのだろうか。感情を表に出すのが明らかに苦手な氷雨に、苦虫を噛み潰したような顔をさせる話の内容。逆に聞いてみたいくらいだ。
一方で話を全て聞き終えた雨宮が至極冷静に話を切り出す。いやに真面目な声音に、周囲の視線が彼女へと集まった。
「樋川結芽の部屋は302号室……丁度、私がまだセンターに入院していた頃で言うと、隣室になる訳だね。私は301号室に居たのだから」
「成る程。ミソギは貴様の見舞いと称して、センターに入り浸っていたからな」
トキが吐き捨てるように呟く。確かにそうだったな、と十束がその言葉に同意した。
「週二回くらいの割合で、雨宮に会いに行っていたぞ!」
「何だかミソギには迷惑を掛けたみたいだね……。聞いてはいたけれど、本人以外から話を聞くとミソギは忙しそうな日々を送っていたようだ」
そもそも、とトキの鋭い視線が遅すぎるくらいに今更、氷雨へと向けられる。威圧的なそれを受けて、可哀相に随分と年上の氷雨は肩身を狭くした。
「おい、何故お前は樋川結芽を監視していた。緋桜からは何と聞いている?」
「さあ。詳しい事は殆ど聞かされていない。ただ……怪異を生み出す力のある存在だから、とだけ聞かされたか」
「ならば、ミソギがセンターに泊まる原因となった女の怪異。あれも樋川結芽と関係あるのか?」
「どうだかな。それに関してはあまり……関係が無さそうに見える」
話は変わるけれど、と雨宮は少しだけ声のトーンを明るくする。
「取り敢えず、今日からミソギの入院している301号室の部屋で交代に寝泊まりするのはどうだろうか? 同じ空間で眠ると、同じ夢を視られる事があるだろう? ミソギの手助けになるかもしれない」
一理あるな、と相楽が首を縦に振った。考え込んでいるのか、視線は斜め上を向いている。
「ミソギの視ている夢は間違いなく異界に接続されてるし、霊感のある連中が近くで寝泊まりすりゃ、同じ夢を視られるってのはあり得るな。ただまあ、通常業務もある。どういう風にするかは要検討だな」
「そういや、先輩の件だけじゃねぇんすね……」
「怪異は待っちゃくれねぇからな」
相楽の言葉に南雲は深く溜息を吐いた。
ミソギがどんな夢を視て、どんな夢を彷徨っているのかは分からない。しかし、果たしてビビりの自分が先輩の役に立てるだろうか。出来れば2、3人同時に送り込んで欲しいものだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます