04.突然の悲報
***
昨日――厳密に時間を見れば今日になるが――深夜2時の仕事メンバー、赤札のみが支部の会議室に呼び出されていた。
しかし腑に落ちない事がある。
南雲はゆっくりと室内を見回した。
「――ミソギ先輩、居ないんすか? トキ先輩、何かしってます?」
「……いや」
昨日の2時メンバーにはミソギもいたはずだが、その姿は無い。トキがスマホを弄くっているので、連絡を試みているのは分かるが、結果は芳しくないようだった。
そうこうしている内に、組合長・相楽がゆらりと現れる。何だか少しばかり疲れたような顔をしていた。
「よう、お前等。ちっと時間がねぇから、もう本題に入るな」
「や、相楽さん。ミソギ先輩が来てねぇっす」
「あいつは呼んでない」
相楽から聞かされた事実は少なからず衝撃的なものだった。
ミソギは昨日、センターに行ってから意識不明の昏睡状態。原因不明、蛍火より事情を聞いて来るように言われている状態。この簡潔な説明こそが、今把握している状況の全てだった。
溜息を吐き出したトキの顔色は頗る悪い。それに配慮する事もなく――する余裕も無く、相楽は淡々と必要事項についての聴取を始めた。
「悪いが、聞きたい事が色々とある。協力してくれるな?」
「……ええ」
「おう、ありがとさん。まず、この間除霊した怪異についてだ。ミソギの霊障の原因になった奴な。どうだったのか、おじさんにも説明してくれ」
「どうも何も、変にタフではあったが普通の怪異でしたよ。ただ、そういえば……ミソギを執拗に狙っていたとも、今になれば感じますが」
「――そうか……」
頭を抱えた相楽は首を振って一つの仮説を提唱した。
「すっかり忘れてるかは知らんが、呪詛返しって可能性がある」
「まさか! あんな雑魚霊如きが高等な仇討ち行動など……」
「落ち着けってトキ。あくまで憶測だし、おっさんもこの説が合ってるとは思ってねぇよ。とにかく、お前達の証言だけが頼りだ。今日は一旦、通常業務を止めて情報収集に徹して貰うぜ。うちのエースが不在なのは困る」
ええ、とトキが力なく頷いた。そういえば、彼はこういう状況が苦手だった気がする。
「おう、南雲。じゃあまず、アプリで例の怪異について聞いてくれ。お前さん、そういうの得意だっただろ?」
「え、あ、うっす。了解っす」
相楽に言われるがまま、南雲はスマートフォンの画面を着けた。
***
無臭。固い床で寝ているような、それでいて柔らかいベッドで寝ているような。寒くて熱い、暖かくて肌寒い。必死に何らかの感覚をつかみ取ろうとしているのに、どれも見当違いであるような形容しがたい『何か』を肌で感じる。
時間が停滞していて酷く埃っぽいが、埃っぽいと感じさせる程の洗練された空間では無いような――
取り留めの無い思考を打ち切るように、ミソギはゆっくりを目を開けた。見慣れていながらも、見る角度が違う馴染みのある部屋が視界に入った。
言わずともがな、これはセンターの一室。備品などを見るに301号室だ。
「えぇー……。嘘でしょ、私一人?」
見る限り、自分以外の人影が無い。病院という場所がそもそも何となく怖いのに、ここに一人。完全に罰ゲームの域だ。
明らかに異界。非現実の世界。
――この間の怪異とは……関係無いんじゃないかなあ。
恐る恐る身体を起こす。自身が患者であるかのような配置だが、残念な事にどこにも霊障は見られない。例の女怪異にやられた霊障も、まるで何事も無かったかのように消失している。
この間の夢では一切身動きが取れなかったが、今回はあっさりと起き上がる事に成功した。裸足のまま、ひたひたと冷たい床を踏みしめ、廊下に出る。
廊下に出てざっくりと観察したところ、301号室以外の病室はドアが閉じられている。また、看護師や蛍火の姿は無い。改装したてのセンターであるはずなのに立ち込める重苦しい空気。どことなく息がし辛い。
まずはどうすれば良いのだろうか。エレベーターが動いている様子は無いし、階段の部分は真っ暗だ。センターの職員ではないのでどこに明かりを付ける為のスイッチがあるのかも分からない。
――取り敢えず、病室とかも開けてみようかな。異界の攻略法は基本的に異界の中。最近忘れがちだったけど、ここは原点に戻って考えよう。
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