11.1章で仲間になる彼女

 ***


 トキが乱入した事により部屋へ連れ戻されたミソギは、ゲームを再開していた。人に強要されるゲームって何となく気が重い。


「トキ、私がゲームを進めようか? 何か慣れてないし」

「……いや、いい――」

「良くないって! トキにやらせてたら日が暮れちゃうよ!!」


 心当たりがあったのか、正直者のトキは黙り込んでしまった。しかし、釈然としないような顔をしている。それはこっちの態度だと思わなくも無いが、ぐっと言葉を呑込む。ここで下手に喧嘩のような口論になってしまってはゲームが進められない。


「じゃあ、はい。トキはこれ持って、こっちのモニターで画面監視しておいてね」

「何だこの紙の束は」

「アリスの台詞集。その中に無い台詞は収録されてないやつだから、教えてよ」

「成る程な。こんなものを集計したところで、除霊出来るとは思えないが」


 ――そりゃそうだわ、このUSBでしか除霊出来ないらしいんだから。

 不毛だな、と心中で呟いたミソギはそれ以上の思考を打ち切った。今やるべき事は、アリスという怪異を引き摺り出し、助っ人の敷島が戻ってくるのを待つ事だ。


「……あの、コントローラーを貸して頂けないでしょうか」

「台詞集なぞ眺めていたら確実に寝る。お前が見ていろ」


 コントローラーをパスしてくれない。これは1章が終わるまではトキにやらせて、満足して来た頃合いを見計らってスマホを返して貰う他ないのか。

 これ以上揉めるのは色々と面倒だ。

 仕方なく、ミソギは台詞集を手に持ち直した。


 1章の内容をざっくり説明すると下記の通りになる。

 魔王戦から開始し、急に力を失った主人公がヒロインであるアリスと共に魔王のお膝元から離脱。アリスも力の使いすぎで半ば役に立たず、とにかく仲間が必要だという事でギルドにて募集を掛ける事に。

 ただ、ここでこれまた唐突にゴロツキから絡まれ、戦闘フェーズへ移り変わった。何だか若干面白そうになってきたのを感じ、ミソギはぼんやりと画面を眺めている。

 それを見ていたトキが一言。


「何故、こいつらは急に暴力沙汰を始めるんだ?」

「それは……ゲームだからとしか……」


 ボタンを押していただけだが、トキは思いの外あっさりとエネミーを倒してしまった。やはり元の頭が良いからか、戦闘のシステムを既に理解しているらしい。物覚えは本当に良いのに、性格だけが残念である。


「おい、今何か失礼な事を考えていただろう」

「やっば、悟りの妖怪なんじゃない? トキ」

「何年連んでいると思ってる。黙り込むタイミングが唐突過ぎるんだ」


 ストーリーに戻ったところで、スキル発動のチュートリアルが始まった。というか、勝手に第二ラウンドに入った。ゴロツキが仲間を呼んだからだ。

 スキルをタップするだけ、という簡素な説明をすぐに呑込んだトキは淡々とアリスの指示する通りにスキルを使用。ここで、最初から仲間として存在しているアリスのスキルが開示される。

 非常にヒロイン力高め。パーティ全体の体力を回復させたり、状態異常を治したりと、とにかく補助系スキルが揃っているのが見て取れた。詰み防止なのは明白である。


 更にこちらのアバターである主人公もゴロツキという一般人よりずっと強いらしい。力を失っているという設定だったが、攻撃1回で一人を撃破している。

 最早、「攻撃」を押すだけで勝利を収めた主人公に対し、アリスの感激したようなスチルが挟まれる。


『流石は私の勇者さま!』


「んん!?」


 ――今の台詞、載って無かったわ……。

 凄く自然なタイミングで挟み込まれた違和感の無い台詞だったが、台詞集には無いボイス入りの台詞だった。背筋を冷やしているミソギの傍ら、リアクションらしいリアクションを見せないトキは淡々とゲームを進めている。やはり彼の心臓は鋼で出来ているに違いない。


 更にストーリーを進める事、5分。この後も数度の戦闘を経て、ようやく目的のギルド内部へ入る事が出来た。酒場のような背景だ。


「……おい、いつになったら話は進むんだ」

「も、もう少しの辛抱だから」


 ギルドに入ってすぐ、今度は柄の悪そうなギルド構成員に絡まれている女性キャラを助ける事になった。このキャラクターの名前はリシティア。立ち絵があり、当然のようにストーリー加入するキャラである。

 案の定、クソ弱いエネミーを撃破後、リシティアが話掛けてきた。


『ありがとうございます。私、リシティアと言うのですが……何か、お礼を。そうだ! ギルドの使い方について私が教えますよ』


 その後、複数の会話を終え、リシティアがメンバー入りする。途端、走る画面のノイズ。今までそれなりのソシャゲをやって来たが、テレビの砂嵐じみたバグは見た事が無い。

 ざざっ、と耳障りなノイズ。その隙間から抑揚を失ったかのような聞き覚えのある声が小さく響く。


『こんな人、本当に必要ですか? 牛みたいで品が無いと思いません?』


 女子会でモテる女をディスるかのような台詞と、本来あり得ない言葉の羅列に二重の意味で肝が冷えた。これは間違いなくアリスの声だ。

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