3話 アメノミヤ奇譚・下

01.混乱してきたよ、全員集合!

 15分後、散っていたメンバーが広場に集まっていた。まだ探索を開始してから1時間と少ししか経っていないが、心なしか空気には疲れが色濃く滲んでいる。雨のせいで体力も奪われるし、何より片時も気を抜けない緊張感が気疲れを煽るようだ。


 南雲はぐったりと目を伏せた。

 最初は人捜しだったはずなのに、センターの青札が出て来たり、ミソギの目撃情報が挙がったりと酷く大きな事件に発展していっている気がする。


「蛍火さん達は、どうしてここに?」


 口火を切ったのは十束だ。雨で濡れた頭を犬の様に振りながら水滴を落としている。はは、と乾いた笑い声を溢した蛍火は肩を竦めた。


「いやね、狐様のおつげってやつかな。追加の人員だよ、馬車馬のように働くからよろしくね」

「大事になってきているなあ。人が増えたから、一旦集合したのか?」


 おい、と不機嫌そうなトキの声が話の流れなどまるで関係無いと言わんばかりに言葉を遮る。


「ミソギはどうした」

「すまん、逃げられた……。言い訳をするようだが、斧を持っていてな。この面子でミソギを捕まえるのは無理というやつだ」

「貴様ァ……」


 ミソギは、と鵜久森が顎に手を当てて思案するように呟く。


「様子がおかしかったとお前の吹き出しでそう言っていたが、憑かれているのか? だとしたら、あの子の回収は最後がいいかもしれないな」

「後回しだとッ!? そもそも、ルームの主は実在するのか? ミソギのIDだったと聞いたぞ! 時間の無駄だ、ミソギを回収して撤退するべきだ!」

「ああああもう! 落ち着け!」


 ――どっちも落ち着いてくれねぇかな……。

 どうにも鵜久森とトキは折り合いが悪い。彼女も激情型だし、怒鳴り合いになって何の話をしていたのか分からなくなってしまいそうだ。

 話を纏めるぞ、と相楽が手を打つ。


「情報が錯綜してんな。取り敢えず、ミソギは平常じゃなかったってのは確実なんだよな? どっちかって言うとミコちゃんに聞きたいんだけど」

「わたしですかっ? うーん、何とも言えないですけど……ミソギさんは無味無臭、って感じでしたっ! 雰囲気とか気配はいつものミソギさんでしたよっ! 目で見た様子はおかしかったけれど」

「と言うと?」


 流石に意味不明だったのか、詳細を求める相楽にミコは考える素振りを見せた。何と答えれば伝わるのか、言葉を選んでいるようだ。


「う~ん、夢? 夢の中で知り合いに会ったような感覚ですっ! 何だか、そう答えなきゃいけない気がしますっ! ごめんなさい! わたし、この話題にはあまり触りたくないです。怪異とは関係無さそう。深入りしちゃ駄目ですよきっと。これってもしかしたら、人の悪意かも」

「ここに来て、情報を黙秘する気か!?」

「もっと想像すればあらゆる事が分かる気もしますけど、わたしはこれ以上は探りたくないですねっ! ミソギさんは憑かれている、それでいいじゃないですかっ!」


 ただならぬ威圧感を覚えてか、人が多くいる空間なのに時が止まったかのように静寂が満ちた。気まずい空気を吸うのが嫌になったので、南雲は口を開く。


「えーっと、何か先輩達と初めて会った時の事思い出すなあ。あの時もミソギ先輩だけ超大変な目に遭ったんすよね! 何だかお家芸みたいになってきたなあ!」

「……いつもこうなのか?」


 何故か話題に食い付いてきたのはずっと黙っていた氷雨だった。しかも若干驚いたような顔。答えに窮していると、相楽が話を前に押し進めた。


「で、だ。ルーム主のIDはミソギだった。まあ、信じられねぇ話だけどな」

「それなんですが、ルーム主の口調そのものは雨宮っぽくないですか?」

「そうだったか? よく覚えてないが、所詮は文字だからな。言い方なんて幾らでも変えられる。そもそも雨宮は――」

「センターで眠っているよ。僕は朝から検診に行ったから、間違い無く朝の時点では彼女はベッドにいた事になる」


 そう言った蛍火は薄く笑みを浮かべている。愉しそうな顔、とそう言われたって言い訳のしようが無い、そんな顔だ。


「いやあ、意味不明な事になっているよね。ミソギちゃんがここへ一人で来る理由は完全に不明だし、一人でこっそり来たのならルームを立てる意図も分からないって事になる。怪異解析課の人達に意見でも仰いでみるかい?」

「え、何すかそれ。かいいかいせきか?」

「人を呪い殺せる時代になったからね。怪異は自然災害だが、怪異を装った人間犯罪が増えているだろう? という訳で人間管轄の警察にもそういう課が出来たんだよね。かなり前に。呪殺は殺人事件だから、安易な事はしないようにね。君達も」


 というか、とトキが眉間に皺を寄せる。


「来月の怪異課の担当はミソギですよ」

「えー、マジかよ。おっさん不安だわ……調子悪そうだったら交代して貰おう」


 ――え、その担当っていうのは俺にも回ってくるのかな?

 今まで一度もそんな話は聞いた事が無いのだが。恐々としているにも関わらず、話はどんどん流れていく。今は関係の無さそうな怪異課についてそれ以上聞く事は出来なかった。

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