07.偏ってる先輩
***
やっとの思いで本棟に帰還した。ここまでの道のりが酷く長かったように思えて、ぐったりと南雲は溜息を吐く。一体、あとどのくらい経てば学校から出られるのだろうか。憂鬱な気分だ。
しかし、その憂鬱な気分にある意味で拍車を掛けるようにして現れる少女。
「あ! いたいた、みんな変な所に行っちゃうから、どうすればいいのか迷ってたんだよ!」
「アカリちゃん……」
アプリの赤札達から監視するよう仰せつかっている、女子中学生の霊・アカリ。彼女がここにいるという事はミソギ達ではなく自分達と合流したという事であり、職務の都合上助かると言えば助かるが気分は重くなる一方だ。
しかし、トキは監視対象である彼女にしれっと話し掛けた。
「おい、体育館でボールを投げつけてくる霊に襲われた」
「それは体育館で跳ねるボールの七不思議だよ! 夜中の体育館に入ると、ボールで殴り殺されるの」
「何だよその、石投げとかいう刑罰みたいな七不思議は……」
ボールで殴り殺す。この中学校の七不思議を考えついた奴と会ってみたくなる程だ。こう、発案者が絶妙にエグいラインを狙って来ている。
「体育館に結界を張っておいた。あの雑魚共では抜け出す事は出来ないだろう。後で、誰か適当に手配して祓うぞ」
「うぃーっす。つか、七不思議にしては呆気なかったっすね」
「烏合の衆という事だ、所詮は」
あのさ、とアカリがやや表情を曇らせた。今度はどんな爆弾を落としてくるつもりだ、と反射的に南雲は身構える。
「踊り場の大鏡に誰か入って行ったよ」
「何ッ!? まさかミソギではないだろうな!!」
「ち、違うよ! 知らない男の人だった!」
「知らない男? 紫門の事か?」
「ううん。全然知らない人だった」
――誰だろうか。しかし、アプリの情報によるとまだ紛れ込んだかもしれない人物がいるとの事。まだ顔を合わせていない同僚かもしれない。
しかし、トキの方はもう待ったを掛ける事など出来なかった。
明らかにヤバイ事象に巻き込まれているであろう同僚は一旦置いておく事に決めたようだ。
「まあいい、ミソギはどこへ行った。まずは確認出来る連中を回収するぞ」
「ええ? いいんすか、その、大鏡は」
「行きたいのなら一人で行け」
「いやいやいや! 俺にこの寂しい誰もいない廊下を一人で歩く度胸とかねぇっすから!!」
本棟1階の端から端までを歩いた。次は2階へ向かうべく、トキが階段に足を掛ける。
「そういえば、13段あったとか言ってましたけど、特に何も起きてないみたいっすね。先輩」
「そうだったな。もう忘れていた」
「よく忘れられるな、そんな事! まあ、何も無いってんならその方が良いですけど」
「あ……?」
階段を上りきり、廊下を視界に入れたトキが目に見えて困惑するように眉根を寄せた。険しい形相に恐々としつつも、南雲もまた同じ光景を目にする。
廊下で騒いでいる人影2つ。片方は紫門だが、もう片方は知らない女だった。歳なら丁度ミソギと同じくらいだろうか。何度も言うようだが、彼女はミソギではない。何か教室の中へしきりに声を掛けているのが伺える。
どことなく嫌な予感がしたのはトキも同じだったのだろう。廊下を歩きながら、急かすように2人へ声を掛ける。
「おい、そこで何をしている」
「……あ! 久しぶりだね、トキくん。南雲くんはちゃんと連れて来たかい?」
「見れば分かるだろうが。貴様、ミソギはどうしたッ!」
答えが無い。
代わり、名前も知らない同僚が口を開いた。彼女が身体をこちらへ向けた事で気付いたが、彼女は何と白札だ。
「と、トキ……。貴方には謝らなければならない事があるわ」
「ハァ? というか、誰だ……?」
「カミツレよ! 貴方、会わない人間の事はすぐに忘れる癖、どうにかした方が良いんじゃないの!?」
「ああ。浅日の脇に立っている偏型の。ミソギの友人か」
「まあいいわ……。友達の友達だなんて、所詮は他人よね。貴方に悪い報せがあるわ。あたしの監督不行届ね。ミソギが、教室の中に引き摺り込まれてしまったの」
女性――カミツレが指さした先の教室。酷く禍々しい気配に、南雲は息を呑んだ。重苦しいそれは水中で息を止めているような閉塞感すら覚える程だ。
が、それ以上にトキの顔が引き攣る。
「おい……。おい、いい加減にしろよ。お前等何の為に徒党を組んでいた? ミソギの面倒くらい、きちんと見ておけ!!」
「それは無茶ってやつだよね。まあ、ボクは理不尽に罵られるのは好きさ。もっと怒鳴っておくれ!」
話が進まなくなる気配を察知した南雲は、慌てて紫門に苦言を呈した。
「ちょ、アンタはちょっと黙ってろって! 話が進まなくなるじゃないすか!!」
言葉を漏らした事により、存在が認識されたらしい。項垂れていたカミツレがこちらを見る。
「貴方と会うのは多分、初めてね。あたしは偏型白札二種のカミツレよ。よろしく」
「あ、ご丁寧にどーも。南雲っす。偏型? って何?」
「二種は霊感値に値が寄ってる白札の事。あたし、下手な青札より視えるのよ。でも、除霊能力は皆無と言って良いわね。あたしを頼ってくるのは止めた方が良いわよ」
そういう除霊師タイプもいるのか。妙に納得した南雲はしきりに頷いた。確かに、人はたくさんいる訳だしそういうパターンがあってもおかしくはない。
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