フレア・オン・ユア・リメインズ
蟻は潰される
テントウムシは飛んでいく
蝶は捕まった
カマキリは威嚇を続けている
たくさんの蟻を捕まえて
虫かごにたくさんの土と一緒に入れて待った
蟻の巣穴が広がっていくのを
まだ、女王蟻がいないと巣はつくられないのだということを知らない頃
まだ、働き蟻は冬を越せないのだということを、知らない頃
蟻は潰されて
テントウムシは羽をひろげる
千切られた蟻が、それでも走っていくのは
ひかりの、あるほう
テントウムシが不格好に、それでも軽やかに
飛んでいくよ
オールライト、ねえ、オールライト?
オールライト?
(そうさ)
(そうだろう)
オールライト?
(答えてくれよ)
(絶望した僕らに一番ふさわしい言葉だろう?)
All Right?
Are you all right?
yes, i'm all right.
オールライト、ねえ、オールライト?
春が来て
いつの間にか同居人になっていた一匹の小さな蛾に別れを告げて
アーユーオーライ?
僕はちょっと出かけてくるよ
自転車に乗って駆け出すのは
僕らの街で一番長い坂
下って、下って、下って、そのまま
どこへ行こうか
行く場所なんてないよ
ここに彼女はもういない
テントウムシの向こう側に行っちゃったから
行く場所も、いるべき場所も、叫ぶ言葉も、理由も、拘りも、涙も、愛も、
そんなものは最初からなかったさ
そうさ
オールライト
yes, i'm all right.
今から帰れば、またあの蛾が僕を迎えてくれるだろう
(このまま進めば、もう生きた蛾には会えないだろう)
帰りたいよ
進みたいよ
伝えたいよ
いつか越せない冬が来る前に
越せない冬のその前に
蛾は閉じられた部屋で光を失って
迷子になってしまっている
帰ってやらなくちゃ
蛍光灯の光を灯して
あいつをみちびいてやらなくちゃ
帰ってやらなくちゃ
帰って、そして
いつか誰かが通るだろうか
僕の代わりに、あの坂の向こうへ行くだろうか
伝えるだろうか
僕は待っている
カーテンを閉めて
蛍光灯の明かりだけをつけた部屋で
いつかきみの亡骸から
小さな炎が灯るのを
ひかりが、うまれて
太陽風が
僕の体を焼くことを
僕は待っている
オールライト、ねえ、オールライト?
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