異世界で特撮ヒーローやってます

ナベ奉行

プロローグ

俺が正しいと思う正義は

世間でいう正しさとは違うのかもしれない。




嘘はいけないとかイジメはダメだとか、人に優しくするとか、

誰しも幼い頃はそういった事を教わって育つ。


俺もそうだ。

そしてそれは正しい事だと思う。

誰もが持っている、いや持つべきである正義だ。


なら、何故世の中は美しくないのか?

テレビを付ければイジメで自殺したとか、人の物を盗んだりとか、誰かが誰かを殺したりとかそんな悲しい事件が多い。


俺個人にもそういった違和感を覚える事件があった。





そう、あれは小学生の頃。

その頃の俺は正義の味方に憧れていた。

日曜の朝のヒーロータイムは絶対に見逃さなかったし、

何よりも戦うヒーローのかっこよさと言ったらもう

堪らないものがある。


ちなみに戦隊モノより一人で戦う仮面のヒーロー派だった。

子供心に複数で戦うヒーロー達に何処か狡いと思っていた節がある。

今思うと地球を征服しようとするような規模の組織に

5、6人で戦っているんだから卑怯じゃない。

大事なことだ。



そんな彼らが語る正しさが現実でも当たり前に通用すると思っていた。

故にバカを見る羽目になると知らずに。


ある日のこと、イジメの現場を目撃してしまった。

引っ込み思案で自分の意見をはっきり口にする事が

出来ない男の子を囲ってアレコレと命令している。



宿題、掃除当番、帰りのランドセル持ちと様々だ。

ひとつひとつは軽いものかもしれない。

でも、少しでも嫌がる素振りを見せれば叩かれたり、

トイレに閉じ込めたりと逃げ道をなくし、

親や先生達には仲の良い振る舞いをさせる。



そのやり方は卑劣そのものであった。



周りの子供達も勿論気付いている。

だけど見て見ぬ振りをする。

関わり合いになりたくないし、何よりも自分に要らぬ火の粉が降りかかるのを恐れている。



俺はイジメグループに対して、文句を言った。

その頃の俺は、彼らを論理的に負かすほどの語彙力を

もっていなくて、結局殴り合いの喧嘩に発展した。


正義の味方に憧れていた俺は、体を鍛えることにハマっていたため、複数人相手であるが引き分けまでには持ち込めた。

いや、勝った。そういう事にしたい。



だが、これがいけなかった。

外面だけはいい彼らに一方的に悪者扱いされ、親や教師にも問題児として叱られることとなる。

正しい事をしたのに自分の親が頭を下げて謝る姿を見るのは堪らなかった。



一番キツかったのは、助けたと思っていた男の子に

余計な事をしないでと言われた事だ。

事を荒立てるような真似をして今よりキツイ仕打ちを

受けるようになったらどうしてくれるんだ、と。



イジメた奴らも幼い頃は俺と同じ様な事を言われて

育ったはずなのに‥。

それともこいつらの家では、他人を傷つける事を

正しい事だと教えているのか?



俺にはわからなかった。







中学生の頃、性悪説という言葉に出会った。

人間は、悪として生まれ、善とは後天的に学ぶものだと。



性悪説は俺の心に納得を生んだ。

だから大人たちは幼い頃にあれほど善性を説いてきたのか、と。

つまり小学生の頃のイジメ加害者達は善性を理解できる知能を

有してなかったのだと。

そんな中学生らしい偏った納得をした。



今思うと、すねていたのだ。







性悪説による悪とは人間の本性、利己的欲望のことを指す。

欲望を持つことはいけないことだとは思わない。

テストでみんなよりいい点を取りたいって気持ちだって欲望だ。

だから、俺の正義もきっと欲望なんだろう。

でも、この欲望にもきっといい欲望と悪い欲望がある。

人を救いたいというもの、人を害したいというもの。



考えれば考えるほど難しい。


俺が大人になる頃には答えが見つかるのかな?

それとも死ぬまで分からないのかな?


俺の現実には正義の味方がいない。

いるのは日曜日限定の朝の時間だけだ。

だから誰を見習えばいいのかわからない。



俺が幼い頃に教わった当たり前の正義。

俺はこれを信じてもいいんだろうか・・・。





俺は、轟 大弥。(とどろき だいや)

今はまだ何者でもない、ただの高校生だ。

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