第9話
哲也と鹿島は病院に車で乗り付けた。時刻はそろそろ夕刻を指している。
「ここの病院に入院しているみたいです。」
鹿島が運転席から降りながら話す。
「その被害者の名前は?」
「名前は青葉 隆平(あおは りゅうへい)、年齢は17歳ですね。塾の帰りに何かに襲われて、逃げている最中に車に轢かれたそうです。」
「そうか。何か犯人に繋がる証言があれば良いんだがな。」
2人は病院の受付に行くと、青葉 隆平(あおは りゅうへい)の病室を聞きに行く。
警察手帳を出しながら、「事件の捜査をしているのですが、青葉 隆平(あおは りゅうへい)君の病室はどこでしょうか。」と、哲也は受付の看護婦に確認する。
「事件の捜査ですか?ああ、はい。あの子ですね。ご案内致します。矢島さ~ん、受付を少しお願い。」
看護婦は後ろに居た別の看護婦に声を掛けて、受付から出てくる。
「伊藤と申します。それではご案内致します。」そう言いながら、パタパタとサンダルの音を出して先を歩く。2人はその後ろをのそのそとついて行くのであった。
伊藤は2人を案内しながら話しかける。
「彼、こちらに搬送された時、酷い状態だったんです。」
「酷い状態ですか?」
哲也は聞き返す。
「車に轢かれたので体はもちろんなのですが、それよりか精神状態の方が深刻でした。彼が搬送されてから3日間は、ほぼ錯乱状態でしたの。何でも化け物に襲われる、とか一日中叫んでました。」
「その化け物のことを、”黒男(クロオトコ)”とか言っていませんでしたか?」
「ええ、そんなことも言っていました。ようやく最近になって、かなり安定してきたみたいです。少し前までは、お友達が来てもすぐに錯乱していましたから。」
「大変でしたね。」
「これも仕事ですから。」
伊藤は微笑みながら言葉を返す。
「こちらが彼の病室です。」
伊藤はある個室の前で立ち止まる。
「彼、今は安定していますが、急に錯乱し始めるので、話を聞くのは出来るだけ短くお願いします。」
「ええ、分かりました。」
「では、失礼致します。また何かありましたらナースコールでお呼びください。」
そう伊藤は言うと、来たときと同じように、パタパタとサンダルの音を響かせながら消えていった。
「よし、じゃあ入るぞ。」
哲也が病室の扉に手を掛けた。
扉を開けると、右足が吊られ、腕にギプスをした少年が夕日に照らされながらベットで寝ていた。
「君が青葉 隆平(あおは りゅうへい)君だね?」
そう哲也は優しく話しかけながら、ベットの脇の椅子に座るのであった。
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