枯れた花壇
けものフレンズ大好き
前編
これはまだジャパリパークができて間もない頃のお話……。
初めは物珍しさで大勢の人が訪れていましたが、セルリアンの発生で次第に訪れる人も減り、寂れ始めたジャパリパーク。
お役所から出向してやる気の無い角川園長は、上からスタッフに適当に指示を出すけで、具体的には何もしません。
スタッフ達も次第に園長に期待しなくなりました。
そんなとき、今まで見られるだけだったフレンズのヘラジカちゃんがあるスタッフに言いました。
「ここにお花畑を作ってみたらどうだろう? 私はお花を作るのは大好きだし、協力してくれるフレンズもきっといると思う。このまま誰もいなくなったら寂しすぎる……」
ヘラジカちゃんの提案にスタッフ達は賛成しました。
このまま何もしなければ、ただただ廃れていくのは明らかなのですから。
その話を角川園長にしたところ、「好きにしろ」と一応の許可は出ました。
ただし、お金も人も一切出さないと言うことでした。
スタッフはそのことをヘラジカちゃんに伝えましたがヘラジカちゃんは怒りはしませんでした。
ヘラジカちゃんだって、お金がなけれほとんど何もできないことぐらい知っています。
ですが、ヘラジカちゃんには知恵と誰にも負けない情熱がありました。
ヘラジカちゃんはすぐに他のフレンズ達に連絡を取りました
すると、ヘラジカちゃんの考えに賛同したたくさんのフレンズが集まりました。
花壇を作ると言っても、種も花壇の煉瓦を買うお金もありません。そこで種はパークにある植物から、花壇は石や土を自分達で集め、みんなで協力してつくり上げていきます。
しかし、最初にできた花壇は小さく見栄えも悪く、誰も気にも止めませんでした。
けれど、パークでしか見られない花々とフレンズの独特の感性で作られた花壇は、次第に人々の心を捉えるようになりました。
お客さんもぽつぽつ立ち止まるようになり、次第に大勢の人々が集まる広場となりました。
やがて、そこで育てられたお花を欲しがるお客さんも現れ、スタッフと相談して実際に売るようにもなりました。
でもヘラジカちゃんのお財布にはジャパリコインの1枚も入りません。その売り上げは、全てジャパリパークの運営の為に使われていたのです。
それでもヘラジカちゃんは満足そう。
ヘラジカちゃんはただただ多くのお客さんに来て、喜んでもらいたいために、ここまで頑張ったのです。
そしてフレンズ達が交代で花壇の世話をするようになって数日経ったある日、角川園長が花壇の噂を聞きつけてやってきます。
広場の中心にある花壇とその盛況ぶりを見て、角川園長は言いました。
「これほど人が集まれば良い金になる。植える花も高く売れる物で良いだろう。そうなったら専門の業者が必要だな。お前らはもう帰っていいぞ」
なんと、今まで完全に無視をしていたというのに、お金になると分かった途端口を出し、今まで大切に育ててきたヘラジカちゃん達を追い出したのです。
ジャパリパークから集めた種で育ててきた花は抜かれ、後から花屋で売っているような球根が植えられました。
やがて花が咲き、どんな場所でも見られるような何の変哲もない花壇がジャパリパークに誕生しました。その上売っている花は、花屋で買った方が遙かに安いものでした。
今までジャパリパークの珍しい花に興味を持っていたお客さんは、すぐに花壇から離れ、花の売り上げも急降下。
後には誰も手をつけなくなった、枯れた何かがあるだけの花壇が残りました。
こうなると角川園長の興味もなくなり、花壇には二度と来ることがありませんでした。
ヘラジカちゃんはその花壇を、植え替えられた花が枯れるまで、ただじっと見つめていました。
ただただ悲しそうに黙って見ていました……。
(了)
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