第11話 科学部、二人の天才を残して寝る!

 2日目の夜である。夜中に何が来るかわからないので、昨夜と同じく焚火は一晩中焚いておくこととして、今日は早速岩場の洞穴の中で交代で寝ることにした。

 起きている二人は焚火の番、残る二人は洞穴で……の予定だったが、ごつごつしてとても寝られたものではない。幸い雨も降っていなかったので結局昨夜と同じく、焚火のそばで寝ることになった。


「二号先輩、明日はベッド代わりになるようなものを僕が作ります。しばらくの間はシダの葉をたくさん重ねただけのものになると思いますが、無いよりはマシでしょう。長期戦になりそうであれば、また考え直しましょう」

「そだねー。そうなったら本格的に機織りを始めないといけないかもしれないねー」

「ですが、優先順位から考えて、今は生活用品が先です。生き延びなくてはならないので、籠だのザルだのといったものが先決です。」

「その辺はブッシュクラフターの意見を最優先するよー。いやー、教授がいて助かったわー」

「いえ、地質学と古代生物の専門家である二号先輩のお陰ですよ。僕だけでは時代特定さえできませんでしたから」


 二人がもぞもぞと話す横で、金太と姐御は既に夢の中である。

 確かに今日の金太はよく働いた。物干し台を5つも作り、それぞれに竿を5本ずつ掛けられるように作ったのだ。作るのは教授も手伝ったが、竿だけで25本、一人で全部集めてきて、捌いた魚を片っ端から干していったのである。

 その後、自分の服を洗濯し、岩場に干しておいて自分は海に潜り、カイメンと貝類をたくさん採ってきたのだ、それは疲れるわけである。今はとりあえず乾いたパンツ1枚でグースカと寝ている。

 姐御の方も今日は疲れた筈である。あのコエラカントゥスを女の細腕で(嬉々として)捌き、干物にできる状態まで一匹全部スライスしたのだ。疲れない方がおかしい。よほど気に入ったのか、教授の白衣を未だに着ているところがちょっと可愛らしい。


「明日は寝床を作って、あと、ろうそく代わりになるようなものを考えます。今のところ魚の脂を貝殻に入れて、芯に火をつける方法を考えてますが。それがあれば焚火から離れても懐中電灯代わりにできますし、洞穴の中でも使えます。雨が降る前に、雨の日の対策を取っておくに越したことはありません」

「入れ物があればいいけどねー」

「それなんですよね。ビーカーでもあればいいんですが」

「それより、水をどうやって持って来るかだねー」

「それは大丈夫です。僕のリュックに10ℓのロンテナーが入ってますから。明日明るくなってから、僕のリュックの中身を検証して、みんなで情報を共有しておきましょう」

「そだねー」


 焚火の明かりがゆらゆらと揺らめいて、金太でさえも幻想的に見える。姐御に至っては女神のようだ。


「姐御先輩、こうして見ると美人ですね」

「それ、起きてるときに言ってあげたらいいのにー」

「そういうのを『地雷を踏む』って言うんですよ」

「あー、それもそうだねー」

「こんなに美人なのに、なんで彼氏いないんでしょうね?」

「んー。そだねー、物理屋が好きらしいからねー」

「なんか今、僕、地雷踏みました?」

「うん、そだねー」


 こうしていても二号の手は止まることなく籠を編んでいる。ただお喋りしているだけの時間など、彼には一秒たりとも無いのだ。

 姐御がむにゃむにゃ言いながら寝返りを打つ。白衣の裾がはだけて、金太が見たら鼻血で行方不明になれそうな太ももが姿を現す。


「ああもう」


 まるで兄か父かのように教授がその裾を直してやると、二号がふと疑問を口にした。


「教授ってさー。ほんとに女子に興味ないのー?」

「は?」

「あー、だから、ほら、恋愛対象は男子ですって言ってたよねー?」

「ええ、そうですよ。女子に興味はありません。女子のこの無駄につるんとした肌、柔らかい肉、凹凸の激しい体つき、全く興味ありません」

「姐御が裸で抱きついてもー?」

「ええ姐御先輩なら問題ありません。金太だったらかなりヤバいです。フル勃――」

「ああああ、それ以上言わなくていいからー」


 二号はうんうんと大きく頷くと、「これはこの四人の関係を維持するのに最適な状況かもしれないねー」などと一人ブツブツ言っている。


「あー、もしかしてオイラもやばいー?」

「子供には手を出さない主義です」

「コロスよー」


 どこまで本気なのかわからない二人である。


「オイラ、こう見えても4月2日生まれなんだよねー」

「え、僕は3月31日生まれです」

「ほぼ2年違うんだねー」

「2歳も年上でしたか。てっきり小学生かと」

「コロスよー」

「あ、すいません、つい本音が」


 漫才なのか、この二人。


「二号先輩は姐御先輩のことはどう思ってるんですか?」

「なんかねー、やんちゃな姉みたいな、それでいて手に負えない妹みたいな感じでねー」

「確かにそんな感じですよね」

「でもさー」

「はい」


 ふと、二号が優しい目で、幸せそうに爆睡する姐御を見やった。


「姐御はオイラたちで何が何でも守ろうなー」

「先輩……男前ですね」


 教授が「見た目は残念ですが」を辛うじて呑み込んだのは、言うまでもない。

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