第8話 科学部、家を決める!
十分後、制服を洗って教授の白衣に着替えた姐御も揃って、科学部メンバーはコエラカントゥスのステーキにかぶりついていた。
「まずいねー」
「あたしはこれ、フツーに美味しいと思う。ってゆーより寧ろ好み」
「じゃ、姐御みんな食べちゃっていいよー」
「俺もちょっとアレかなぁ……」
「まあ、決して美味しくはありませんが、食べられないことも無いですね」
「オイラはこれムリー」
二号は地味にセレブのお坊ちゃまなのである。人は見た目によらないとはこのことで、金太も手を出さないコエラカントゥスを姐御は美味しそうにガツガツ食べている。教授は好みではなさそうだが、ブッシュクラフターの性がそうさせるのか、食べられるものは何でも有り難くいただくようである。
「二号先輩、食事が済んだら、この海岸線の先に見える岩場まで行ってみませんか? 運が良ければ洞窟のようなものがあるかもしれません。ここで雨に降られたら悲惨ですから、雨を凌げる場所を探しましょう」
「そだねー。あと、飲料水の確保だねー。教授の作った『真水蒸留器』じゃ四人分にはちょっと難しい量しか取れないからねー」
全く以って、一人分ならまだしもこれで四人は無茶過ぎる。砂浜に穴を掘って真ん中にホットケーキのネタの入っていたボウルを置き、上にはラップを張って重しを乗せ、ラップの中央を窪ませることによって、蒸発した水分を中央のボウルに集めるという方法なのである。とても待っていられたものではない。
「寝床が決まったら川でも探しに行きましょう」
「そうね、教授に任せておけば安心!」
「姐御先輩、そこで干してる制服と下着、忘れないようにしてくださいね」
「えっ? 下着も干してる……だと?」
極めてノーマルな現役男子高校生である二号(見た目は小学4年生)と、エロモード全開の金太の目の色が変わる。
「ふぁっ! 黒ブラと紐パンが……」
ぶしゃあああ!
いちいち鼻血の反動でどこかへ飛んでいくので回収の面倒な男だ。というか、科学部員なんだから少しは物理法則に従った行動をとって欲しいものである。
「つまりー、姐御はー、その白衣の下はー……」
「すっぽんぽんよ!」
ぶしゃあああ!
20mほど先の浅瀬で、ボチャンと大きな水音がしたのは、恐らく二号であろう。
というわけで、食事が済んだ四人は手分けして荷物を持ち(とは言っても、金盥と鉄板と醤油と日傘くらいしかないのだが)岩場へと向かった。
先程金太が採ってきたコエラカントゥスやアカントーデスの残りは、金盥に入れて自分で運んでいる。これを後で姐御が干物にするらしい。古代魚の一夜干し、現代に持ち帰ったら高値で売れそうだ。
「あー、いいねー。この岩場は実にいいねー。ちょうどいい感じの穴があちこちに開いてるねー。どこにするー?」
「焚火は外の砂浜ですることになりますから、砂浜から離れ過ぎずに雨風が入りにくいくらいの深さがあればどこでもいいですよ」
「じゃ、ここにしようよ!」
姐御が勝手に決めて中を覗き込んでいる。
「なんにも住んで無さそうだよ。フンの跡も無い」
「じゃー、ここで決まりねー。荷物置いて、川でも探しに行こうかー」
「ちょーっと待った!」
姐御が両手を広げて仁王立ちする。
「ねえ待って、このお魚、捌いて日干しにしたいの。二組で動かない?」
「では、料理の得意な二号先輩が小魚を捌き、姐御先輩は大物を解体する。僕と金太で森の中を探索するというのでどうですか?」
「どうしても金太と二人っきりになりたいんだねー、教授」
「二号先輩、あまり鋭く図星を突かないでください」
そこ残念そうにするところじゃないぞ、教授。
「でもこっちは地学マニアと生物ヲタク、そっちは物理屋と体育会系でしょ? 大丈夫なの?」
「ちょっと危ない気がするよねー」
「じゃ、俺が姐御先輩と」
金太の立候補が光の速度を超えている。軽く時間が静止したようだ。
「いやー、帰ってきて姐御と金太が交配してたら、生物学的に後世に問題が生じるからー」
明らかにどちらかがホモ・サピエンス扱いされていないようである。
「でも、教授を残して行ったら、姐御先輩と教授が交尾してるかもしれないじゃないすか!」
「うーん、無くはないねー」
「ありえません。僕の恋愛対象は男性です!」
腰に手を当てて言うな。というか腰を前に突き出すな。
「そうじゃなくてねー、姐御が教授に襲い掛かるのは、最早避けられないかなーとねー」
そっちかよ。
「姐御はこう見えても空手有段者だから、教授をねじ伏せるのなんか簡単だよー」
「舐めないでくださいよ、こう見えても僕はブッシュクラフターですよ」
それ、恐らく関係ない。
「じゃあ、大丈夫だねー。教授と姐御はここで魚の干物作っといてねー。オイラは金太と探検してくるねー」
「あれ? 何故こうなった? いつこうなった? またしても人身御供?」
教授は肝心なところで天然なようである。
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