第6話 科学部、サバイバる!

 翌日、四人は朝から精力的に働いた。

 教授は夜中のうちに作っておいた『海水から真水を作る装置』とやらを海岸にセットし、みんなの飲料水を確保。

 姐御は海岸沿いのシダ類を集め、その繊維を引っ剥がしては二号に渡す。そして二号はそれを使って地味に籠を編んでいく。

 金太は浅瀬で貝類や棘皮類を採ったり、慣れてくると海に潜って頭足類や節足動物などを捕らえて戻ってきた。もちろんそれが何なのかわかって採っているわけではないのだが。

 そして、金太の採ってきたものを見ては、二号が「おおー、本物のアンモナイト! 生きて動いてるー!」だの「え、オウムガイ、すげー」などといちいち大喜びするのだ。


 太陽が真上に昇るころ、四人は初めて推定古生代の生き物を食べてみることにした。


「まずは安全そうなオウムガイから行きましょう。これは21世紀でもフィリピン辺りでは食べられているらしいので、安全度は高そうです。とりあえずこれをそのままつぼ焼きにしませんか?」

「オウムガイの貝殻ってめっちゃ高く売れるんだぜ。これ焼いちゃうの?」


 そんな金太に冷たい一瞥を投げ、教授が一言。


「この俗物め」

「いやん、毒舌も素敵よ、教授」

「教授、俺に対する態度だけあからさまに違う……」

「それは同級生だからでしょ」

「いえ、違います。僕はツンデレなんです」

「え……」

「教授、昨夜から発言がちょっとアレだねー」

「まさか、・サピエンス?」

「さて、火が点きました。オウムガイ、焼きましょう」


 教授のさりげないスルーに三人はツッコミを入れたい気持ちをぐっとこらえて、つぼ焼の準備に取り掛かる。


「しかしあれだねー、教授は手際がいいねー。ボーイスカウトとかやってたのー?」

「いえ、単なるブッシュクラフターですよ」

「なんなんだよ、俺にわかる言葉で話してくれってば」


 解説しよう。

 ブッシュクラフトとは、主にアウトドアに於いて、文明の利器に頼らず物資を現地調達することにより生活を可能とする技術のことであり、ブッシュクラフターとは、その技術を利用して生活する人のことである。以上!


「ああ、それで教授は火打石なんか持ち歩いてるんだー」

「ファイアスティールと言ってください。金属製ですので」

「さ、オウムガイ、火にかけるわよ~」

「醤油、醤油!」


 四人の見守る中、気の毒なオウムガイはいきなり自分の身に起きた不幸に混乱したまま、そのたくさんの触手をくねくねとさせている。


「ぶっちゃけ、貝に入ったイカっすね」

「そうね」

「ちょっと残酷だねー」

「そう? ちょっとエロくない? 触手が」

「姐御先輩が言うと、いろいろ想像するじゃないすか!」

「何を想像してんのよこの雌雄同体しゆうどうたい

「何故オウムガイにエロを見出せるのか僕には理解不能ですが」


 そんなアホな会話のネタにされているとは露知らず、オウムガイ君は科学部特製醤油に溺れて、美味しそうなつぼ焼きになってしまった。鼻腔を刺激する、実にいい香りである。


「レディファーストで、姐御先輩どうぞ」

「教授、優しいのね」

「つまり毒見ってことっすね」

「これはフィリピンで食用にされてるって言ってたじゃないのよ、いちいちやかましいのよ、このブンブクチャガマ!」

「タヌキじゃない方ですね。恐らく棘皮動物」

「そだねー。ブンブクチャガマはまだこの頃はいないかねー?」

「いても食えたもんじゃないわよ。バフンウニとかならまだしも、ブンブクチャガマよ? 生殖器発達してないでしょ」

「だから、何の話っすか!」


 解説しよう。

 ブンブクチャガマとは棘皮動物門ウニ綱ブンブク目ブンブクチャガマ科に属するウニの仲間で、5cm程度に丸まったタヌキのような外見である。ウニの仲間は主に生殖巣を食用とするが、こいつは生殖器が発達していないため食用には全く適さない。

 が、なんか可愛いから許す。以上!


「ねー、ちょっとこの解説君、主観入り込み過ぎじゃない?」

「まあ、物語に於いて作者は『神』だからねー」


 神である。


「作者ウザイし、ちょっと黙ってて」


 はい。


「あっつ! これどうやって食べようか」

「僕が切りましょう」


 教授は『謎リュック』から万能ナイフを出してきてサクサクと切り分けると、下に軍手を敷いて姐御に手渡した。そんなものを持ってるなら最初から出せ。


「じゃ、お先。いただきまーす」


 みんなの視線が姐御に集まる。


「ああ~ん、何これ凄ぉい、あっ、やん、溢れてきた~」

「たかだか醤油すするのに、艶めかしい声出さないでくださいよっ!」

「先っちょしか入ってないじゃない、もっと奥まで入れてよ~!」

「あーもう俺ダメっす。我慢できないっすぅ!」

「僕には金太が股間を押さえる意味が分からんが」

「なんか貝殻の入り口付近にイカがへばりついてるだけって感じの生き物ね。もっと奥までガッツリ入ってたら食用部分が増えるのに。味噌が美味しいわよ。はい次の人どうぞ」


 姐御が教授にナイフを返すと、次のオウムガイを手早く切り分けた。


「次、金太食べるー? 我慢できないんだろー? オイラは後でもいいよー」

「先輩、そういう意味じゃないと思います。小学生にはわからない大人の事情ですから、原核生物の発言は気にしなくていいです。セレブな先輩はナイフで食べてください。僕と金太は手で食べます」

「じゃあ、そうするねー。サンキュー」

「では二号先輩、食事をしながら現状の確認とこれからに向けての作戦会議をしましょう」

「そうねー。生き延びなきゃならないからねー」


 思い出したように、彼らは次の作戦を練り始めた。

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