「いらっしゃいませー」

みきちず

0001から0025

0001


「いらっしゃいませー」

「これなんですが……操作の仕方が」

「ではご説明致します」

「すみません」

「購入時のレシートをこちらの機械にこうして読み取らせます」

「はい」

「続いて商品のバーコードを読み取らせます」

「なるほど」

「こうすると蓋が開きますのでゴミを捨てて下さい」


0002


「いらっしゃいませー」

「肉まんひとつ下さい」

「ご一緒におでんはいかがですかー?」

「いーです」

「熱いのでおでん用の容器に入れておきますねー」

「えっ、いや別に肉まん用のやつで……」

「サービスでおツユを多目に入れておきますねー」

「いやいやいやちょっと待っ……あー……」


0003


「カレーまんひとつ」

「ご一緒にチキンはいかがです?」

「いいいい」

「餡をつけて食べるとスパイシーですよ」

「なにその食べ方」

「ではアメリカンドッグはどうです?」

「そういう問題じゃ」

「ならコロッケ」

「何かにつけないと駄目?」

「だって調味料じゃないですか」

「違うわっ!」


0004


「ホットコーヒーのSサイズひとつ下さい」

「ダシはおでんツユで宜しいですか?」

「宜しくないです」

「ではチキンを挽いてドリップ致しますねー」

「コーヒー豆と水でお願いします」

「どの麺に致しますか?」

「要りません」

「蕎麦湯のみですかー」

「茹で汁でドリップしちゃったの?」


0005


「いらっしゃいませー」

「フランクフルトひとつ下さい」

「ドレッシングは焙煎ゴマで宜しいですか?」

「ケチャップとマスタードが宜しいです」

「串はポッキーで宜しいですか?」

「チョコレートは勘弁して下さい」

「ではプリッツなら如何でしょう?」

「重さで折れないなら構いません」


0006


「いらっしゃいませー」

「あんまんひとつ下さい」

「餡は挽き肉で宜しいですね?」

「それじゃ肉まんです」

「豆はコーヒーで宜しいですね?」

「小豆が宜しいです」

「パンで包んで宜しいですね?」

「それじゃあんパンです」

「温泉旅行のお土産に」

「それは饅頭です」

「コンビニ土産?」


0007


「いらっしゃいませー」

「この店ひとつ下さい」

「ご一緒に土地は如何ですかー?」

「それももらいましょう」

「ご一緒に従業員は如何ですかー?」

「それも必要ですねー」

「ご一緒にお客さんは如何ですかー?」

「まとめて頂きましょう」

「ご自分のお買い上げありがとうございますー」


0008


「いらっしゃいませー」

「アイスカフェラテひとつ下さい」

「スチームミルクは自力になりますが宜しいですか?」

「……自力?」

「こちらに専用の細めなストローが御座いますので思い切り息を」

「無理です」

「では私が」

「お断りです」

「ではこの自転車の空気入れで」

「もういいです」


0009


「いらっしゃいませー」

「トイレ貸して下さい」

「取り外しにかなりの時間と手間がかかるので申し訳ありませんが」

「トイレを使ってもいいですか?」

「どの様にお使いになるのか使途が不明ですので申し訳」

「用を足す以外に何が」

「下水を移動して不法侵入するとか」

「できるかっ!」


0010


「いらっしゃいませー」

「コロッケひとつ下さい」

「お誕生日ですか? おめでとうございますー」

「え……と?」

「蝋燭は何本立てたら宜しいですかー?」

「いえ誕生日ではありません」

「上に載せる板チョコにはどのようなメッセージをお入れしますかー?」

「ケーキと同じ扱いなの?」


0011


「いらっしゃいませー」

「ホットコーヒーひとつ下さい」

「すみません、今カップを切らしていて……おでん用の容器ならあるのでこれで宜しければ」

「まあ……仕方ないですね」

「それと今コーヒー豆も切らしていて……おでんのツユならあるのでこれで宜しけ」

「ればおでん買うよね?」


0012


「いらっしゃいませー」

「ドーナツひとつ下さい」

「キーホルダー仕様で宜しいですかー?」

「は?」

「ネックレス仕様の方が宜しいですかー?」

「そんなシャツがベタベタになりそうなネックレスしませんよ」

「では天使の輪仕様ですねー」

「頭に載せろと? ってか食べちゃダメなの?」


0013


「いらっしゃいませー」

「ドーナツひとつ下さい」

「パンクですかー? 大変ですねー」

「はい?」

「空気入れもお貸し致しましょうかー?」

「いえ大丈夫です?」

「交換用の工具はお持ちですかー? お貸し致しますよー?」

「自転車のタイヤがドーナツじゃ走った跡がベトベトですねー」


0014


「いらっしゃいませ」

「おでんの大根と」

「出汁は削り節と昆布で宜しいですか?」

「えっああはい」

「カレールゥを入れるとより一層マイルドな味に」

「カレーうどんが食べたい訳ではないのでいりません」

「大根は面取りした方が宜しいですか?」

「今から作るの? ここにあるのに?」


0015


「ませー」

「あのこれひとつ」

「間違えますといけませんので一部だけでも商品名をお願い致しますー」

「これなんて読むんですか?」

「こちらのナンテヨムンをおひとつですねー」

「いえそうでなくて商品名が読めないだけで」

「こちらのヨメ×ナイのみですねー」

「そんなのもあるの?」


0016


「いらっしゃいませー」

「あっそうだ。それと切手下さい」

「はい。このおにぎりを縦に切れば宜しいですか?」

「違います」

「ではこのカップやきそばを作ってお湯を」

「そうでなくて」

「当店では散髪は承っておりませんが個人的にこの高枝切りバサミでなら」

「首に当てないで下さい」


0017


「いらっしゃいませー」

「1000円のテレホンカード1枚下さい」

「クオカードで宜しいですねー?」

「いやあの」

「ではこの図書カードと交換という事で」

「テレホンカードをですね」

「仕方ありません。特別に両替して差し上げます。この記念硬貨2枚と」

「電話かけられないでしょ」


0018


「いらっしゃいませー」

「豚角煮まんひとつ下さい」

「ナイフとフォークをお付けしておきますねー」

「どうしてですか?」

「それはもちろん皿に置いた豚角煮まんの皮をナイフで切ってから中に入っている豚の角煮をナイフとフォークで優雅に食べないと国際警察に逮捕」

「されませんよ」


0019


「いらっしゃいませー」

「あんまんひとつ下さい」

「ストローをお付けしておきますねー」

「使わないし要りませんよ」

「えっでも熱々のあんまんにストローを突き刺して中のこしあんを吸い尽くすのが一般的な食べ方」

「ではないですね」

「どの女子高生もそう」

「は食べないでしょうね」


0020


「いらっしゃいませー」

「すみませんトイレ貸して下さい」

「旧作ですので七泊八日のご利用でお願い致しますー」

「そんなには貸してくれなくても大丈夫です」

「返却時は延滞がなければレジ横の返却ボックスか閉店時なら入口横の返却ボックスへお願い致しますー」

「運ばなきゃダメ?」


0021


「いらっしゃいませー」

「すみません、トイレ貸して下さい」

「いつ頃お返し願えますかー?」

「えっ用を足したらすぐに」

「消耗した分はいつ頃お返し願えますかー?」

「それは……」

「まずどれだけお貸ししたか判別する為にトイレの現状を記録しておきますねー」

「あの、早めに……」


0022


「ませー」

「ホットコーヒーひとつ下さい」

「いっぱいで宜しいですかー?」

「はい一杯で」

「ではお口をお開き下さいませー」

「……直接!?」

「環境に配慮してゴミの出ない形にしてみましたー」

「やけどするでしょ」

「ではアイスにしますかー?」

「口の中で完成させるのをやめてね」


0023


「ませー」

「肉まんひとつ下さい」

「温めますかー?」

「えっもちろんというかそれ温かいんじゃ?」

「これ冷たいですー」

「什器の意味なくないですか?」

「陳列棚みたいなものですー」

「はあ」

「では蒸しますのでお待ち下さいー」

「そこの電子レンジで」

「これは私物ですー」

「えー」


0024


「いらっしゃいませー」

「おでんの大根とたまごをひとつずつ下さい」

「大根は聖護院大根丸ごとひとつになりますが宜しいですかー?」

「大きすぎ」

「たまごはダチョウのですが宜しいですかー?」

「こっちもか」

「容器の鍋も有料になりますが宜しいですかー?」

「それを売りたいの?」


0025


「ませー」

「おでんの大根ひとつ」

「こちらの味の染みた黄色い大根で宜しいですかー?」

「うーんそれたくあん」

「しっかり漬かっていて美味しいですよー」

「汁にもしっかり漬かっちゃってるねー。これ弁当の?」

「食べてたらポチャってー」

「アンタの仕業かよ。ってかここで食うな」

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