英雄が現れると悪を作る


――――♠


さて、白い箱だ

可愛い装いの、可愛さの欠片もない奇襲。

衝撃で、周りの壁も倒れていく。



蹴った本人はと言うと、

箱の内側にいた少年だろう。


ただ邪魔だから蹴ったという様だ。




気怠げに着崩された服からは

滑らかで愁いを帯びた肩が見える。






少年は、粗暴な振舞いを見せるものの

彫刻家が作った白き彫像のように、

一点の曇りもない美しさがあった。



口に手を抑えずに小さな欠伸を零し、

箱の中にあった椅子に、腰をかける。






周りを見渡す



その際、黒の青年と眼が合い、

唇を三日月にして哂う。




黒の青年は、眉を顰める。



「進化の邪魔を

しないで頂けないか、始祖殿」



「人の進化は、

退化にもなりえるんだよ傲慢」






――始祖殿、

その言葉に察しの良い国民は騒めきだす。



「貴方は、ノア様……ですか?」


一人が彼に問いかけた。




「様付けされると、なんか違う気が…」


一斉に、人々の曇った眼球が動く。

目線はノアに集中する。

穴が開く程の視線、抉られる感覚がする




「まあ言うなら、ノア、で違いない」


偶像を崇拝する眼には

何時までも慣れない癖に笑った。


犬歯を見せ、はにかむ声は明るい。




「ノア様、もうこの国は終わるのですか」


「そのお力で、この者を追い払ってください。」


「この国を救ってください」




彼らは、ノアを崇めて、

侵略者である黒船の青年を突き刺す。


「……わっ、」


有象無象の手に

突き飛ばされる黒の青年、


崩れ落ちそうになりながらも

ノアが座る椅子の背へ追いやられる。


黒の青年は少しだけ動じるも、

寂しい憐みの笑みを浮かべ、


静かに周りを

見つめ続けるのみだ。




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