第4章 王女の物語(1)

それから数日間、牧は頭をひねりながらも、物語の大筋を紙にまとめ上げた。彼女はその紙をスカートのポケットにねじこむと、林の奥のあの白い洋館へと急いで出かけた。林の茂みはマリとの散歩のときに踏みならした草が細い小道になっていて、悪戦苦闘したのが嘘のようにすんなり入ることができた。そうして、元々あった林の小道も抜けると、緑の生け垣と白い洋館が見えてきた。

「やっぱり、幻でもなんでもない……」

牧はそんな言葉を呟きながら、生け垣の木戸を開けて真っすぐ白い洋館へと歩いて行った。家に近づいてみると、中央のガラス張りの両開きの扉が、この間と同じように開け放たれていた。中をのぞき込むと、これまたこの間と同じようにテーブルの上に飲みかけの紅茶とティーポットが置かれていた。それを見た牧は一瞬ぎくりとした。


その紅茶のティーカップとティーポットの位置といい、飲みかけの紅茶の量といい、最初に来た時と全く同じ状態なのだ。あれから数日経っているというのに、紅茶を片づける人は誰もいなかったのだろうか。牧は不審の目でそれらを見つめた。


牧はこの間と同じように、「すみません」と声をかけた。今日もまた返事はなかった。彼女はこっそりと、家の中へと入ると、二階の階段を上り、例の書斎へと足を踏み入れた。果たしてそこには、あの時元通り置いた書きかけの本が机の上に置きっ放しにされていた。書きかけの文章は、やはりあの時のままで止まっていた。


牧は椅子に座ると、ポケットに入れた紙を取り出し、それを元にこんな物語を作り上げた。書き上げるまで牧は幾日かかかったが、その間彼女は、ずっとこの白い洋館に通いつめることとなった。


『ガラルータ国の王女は城の塔に何日も閉じ込められていた。塔には灯りが一つもなく、彼女は今が朝なのか、夜なのか判断することもできなかった。そもそもなぜ、こんなことになってしまったのかというと、話は数週間前までさかのぼる。


ガラルータ国の王、つまり王女の父君は、邪な心を持つ魔法使いから国の富の半分を自分によこさなければ、恐ろしいことを引き起こすぞといった内容の書状を受け取ったのた。それを読んだ王はかんかんになって怒った。

「全くけしからぬ奴だ。このわしを脅そうというのか」

普段は温厚な王が怒るとは珍しいと思った王女は、王に理由を尋ね、送られてきた書状を見せてもらった。

「それで王はこの魔法使いをどうされるつもりなのですか」

王女が訊くと、王はこう言った。

「何、単なる脅しだ。恐ろしいことなど起きるはずもない。放っておくのが一番だ」

「ですが、この魔法使いは結構な力を持つ魔法使いだと聞いたことがあります。本当に良いのでしょうか」

「ははっ。姫は心配者だな。わしはむしろ、そなたがよく分からない呪文書を読みふけっていることの方が心配だ。あまり魔法使いのようなまねごとはやめて欲しいものだ」

王女は一瞬顔を赤らめた。

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