迷子

 成人式の夜に、静まり返った街を歩く。

 ショーケースに閉ざされた灰色の夢。その硝子に映る自分の姿は、光の悪戯で、首から上が掻き消されて見えなかった。

 永遠に続くシャッター街に閉じ込められたかのような感覚。こんな場所で迷子になったのは母の手を離してしまったたからだろうか。

 もう一人の自分を叩き割るため振り上げた拳は、力無くダラリと垂れ下がる。ショーケースの中と外はどちらが幸せな世界だろうと向こうの彼女に問うてみれば、彼女はニヤリと頬を歪めた。

 見上げれば、点滅する蛍光灯の回りに小蠅が二、三飛んでいる。マゼンダの唇で慣れない煙草を咥え、深紅の爪で着火する。

 酷く苦い紫煙を吐き出すと、ポトリポトリと小蠅が落ちてゆくのだった。

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