ありふれた日々

夜乃 ユメ

第1日 指輪

 アクセサリーは人類が発明した人間の個性をより顕著に表す古くからの装飾だ。ピアスにネックレス、アンクレット、ブレスレッド…etc。様々なものがあるが、私は指輪が好きだ。一時期アクセサリーに憧れて、全身くまなく試してみたことがある。その経験から出てきた答えとして、自分に一番合っていると思うのが指輪であった。

 ブレスレッドは、手にまとわりついている感覚や、ものを書く際に机と触れてしまうことに対する言い知れ無い不快感が付きまとい、継続することはできなかった。アンクレットは靴を履く際に邪魔になり、胡坐もろくにできなくなった。ピアスは今でもしているが、じゃらじゃらしたものは耳元で音が絶え間なくなり続けるために、苦手としている。ネックレスは首周りに何かがついているという不快感ですべてNGだ。基本的に私は、自分の肌に何かの異物触れていることに我慢ならない。耐え続けていればいずれ慣れるのではないだろうか、という淡い期待も抱いてはいたが、結果としてシャボン玉の如く消えた。そんなアクセサリーダメダメな私でも唯一大丈夫だったのが指輪である。左利きの私は左手でいろいろな動作をするのだが、指輪を左手につけていようとも何の違和感もなく作業を続行できるのである。不思議なものだ。どう見ても指に付きまとう邪魔なもの、という認識が私を支配するのだろう、と思っていたのだが、そうではなかった。

 もともと何もつけなければいいじゃないか、とよく知人に言われたりする。私もアクセサリーなんていらないだろう、と殆ど全てのものがうっとおしいと思っていた時期はそう考えていた。自分に合うアクセサリーなんてこの世に存在しないのだ、とこの世を1%として理解していない私は期待を裏切られた幻滅感情に打ちひしがれていた。そんなときに気づいたのが最後に試した指輪であった。私自身一番邪魔になるだろうとして、敬遠していたのだが、その予想をはるか斜め先を通り越して裏切り、私に喜びを与えてくれた。自分にも合うものがあるとして、責められてもいないのになぜか許された気分になったのだ。あの時の自分を認めてくれたような感覚が私は途方もなく好きであり、それ以来ずっと指輪をつけている。

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