第9話 一方的な狩り
シゴマカの森
四季がなく、一年中緑が生い茂るこの森はキノコや山菜の宝庫であり多くの冒険者達の人気の狩場となっている。
だが、この森は、雨季が終わると巣の中で大人しくしていた草食系モンスターが活動を活発化させる、と同時にモンスター達の出産ブームも訪れる。
それが大量発生の原因である。
「今回大量発生したフォレストボアは大変気性が荒く、採取クエストをしている初心者冒険者達に牙を剥いています。そのため怪我人が続出しているので討伐をお願いします。」
コウタは森の中を歩きながら依頼内容を読み上げる。
「それにしてもいないですね。アデルさんの話だと群れで行動すると聞いたのですが⋯⋯。」
コウタはギルドでのやりとりを思い出す。
一時間ほど前——
「いきなり討伐クエストだと?辞めておけ、初心者には危険だぞ?」
アデルは依頼内容を見るといきなり否定した。
「ですが、報酬三万ヤードですよ?中々いいではないですか。今日は美味しいご飯が食べれますよ。」
「討伐依頼にしては安い方だ。それにこの時期のフォレストボアは固まって行動するから、普段よりも難易度は高めだぞ。あと、ちゃっかり固パンをバカにするな。」
「ですがもう、受注してしまっていますから、取り消しにはお金がかかりますよ。」
横から、受付の女性がそう口を挟む。
「それにアデルさんも最初の依頼は討伐だったじゃないですか。」
「おい!!それは言うな!!」
アデルが慌てて受付の女性を止める。
「へえ、何のモンスターだったのですか?」
コウタはその言葉が気になって詳しく聞いてみる。
「フォレストボアのボス、グランドボアの討伐ですよ。」
「すごいですね!倒したんですか!?」
「いや、手も足も出ず⋯⋯負けた。」
顔を赤くしながらアデルはそう答える。
「⋯⋯ダメダメじゃないですか。人のこと言えませんね。」
「うぐっ⋯⋯!」
アデルに言葉の刃が突き刺さる。
「はぁ、とりあえず行ってきまーす。」
「おいっ、ちょっと待て、気をつけるのだぞ!!」
「はーい。」
コウタは後ろを振り向かずに手をひらひらと振りそう返した。
「コウタさん、ウチではフォレストボアの素材の買取もしてるので余裕があったら一、二匹持ち帰って来てみて下さ〜い。」
「はーい。」
そして再び森の中——
「十匹討伐で依頼完了、サイズは問わない、討伐の証明として角を2本一セットで持ち帰ること。⋯⋯っといたいた。」
ふと気配のしたろうに意識を向けると、緩めの坂の下でそれらしきモンスターの群れが山菜のようなものを食べていた。
「ひぃふぅみぃ⋯⋯ちょうど十匹、これは運がいいですね。——では、さっさと終わらせてしまいましょうか。」
そう言うとコウタは何もない空間から腰にかけた剣と同じものを二本召喚する。
〝支給品の剣〟ギルドから支給される量産型の安い剣。
二本の剣を両手で持ち、鞘から抜く。
その後ステータスのスキルの欄を見て、〝加速〟とレベルを2に上げた〝脚力上昇〟の他に追加されたスキルがあるのを確認する。
そして、先ほど覚えたばかりの
〝付与・力〟指定した仲間のステータスを一定時間上げる。
〝強化〟三十秒間自身のアクティブスキルの威力を上げる。
コウタはスキルが発動したのを確認すると一度ダランと脱力し、坂に一歩踏み出す。浮遊感がなくなった瞬間一気にスピードを上げて坂を下る。
「加速っ!!」
イノシシがこちらに気づくと〝加速〟のスキルを使いスピードを上げる。
まず、すれ違いざまに二匹の首を飛ばす。
その後急停止し、Uターンしながらもう一度加〝加速〟のスキルを使い、今度は回転を加えながら四匹同時に首を狩る。
木を蹴り、跳ね返りながらもう二匹の脳天に剣を突き刺す。
残った二匹は反撃する事なく逃げる。コウタは落ち着いてもう一度剣を召喚し、一匹を仕留めるがもう一匹を取り逃がす。
「くっ⋯⋯。」
コウタは慌てて抜き身の状態の〝聖騎士の細剣〟を空中に召喚し、その剣に一度も触れる事なく、投げるモーションをとる。
すると細剣は手の動きに連動しながら飛んで行き最後の一匹を串刺しにした。
全てのモンスターのHPが0であることを確認するとコウタは小さく息をつき、召喚した剣は霧散した。
「ふぃ〜⋯⋯。」
コウタのモンスターとの初戦闘は僅か二十秒ほどで幕を閉じた。
討伐証明の角を採取し終わり、コウタは近くの丸太に腰掛けながら、自らのステータスを見て今回の反省をしていた。
今回の戦闘で消費したMPは合計23。全体の約四分の一ほどだった。まず〝
「召喚する武器によって消費するMPは違う?」
そしてもう一つ、気になることがある。それは、最後の一匹を仕留めた時、召喚した剣を触れずに投げることができた。
「つまりは、触れなくても操ることができるのか⋯⋯はぁ⋯⋯結局反則級ですね、コレは。」
「まぁ、とりあえず帰りましょうか。」
そう言ってコウタは立ち上がりギルドへ持ち帰るためのフォレストボアを掴み、帰る方向を向くと、
そこには体長五メートルほどはある巨大イノシシが目の前にいた。
「⋯⋯⋯⋯ははっ。」
つい乾いた笑みが漏れ、頬がひきつる。
夕方ごろ。アデルは鎧を修理に預け、再びギルドでコウタの帰りを待っていた。
「遅いですね。」
受付の女性がテーブルに座るアデルにそう話しかける。
「仕事はいいのか?」
アデルは訝しげに尋ねる。
「この時間帯にクエストを受けに来る人なんかいませんよ。」
そう言うと、アデルの正面に座る。
「そのうち帰って来るさ。」
そう言いながらもアデルは貧乏ゆすりをし、落ち着かない様子だった。
「やっぱりアデルさんも心配なんじゃないですか。」
「う、うるさい!!」
そんなやりとりをしているとギルドの入り口からコウタの声が聞こえた。
「すいませーん。フォレストボアの買取お願いしまーす。」
「あ、帰ってきましたね⋯⋯ってうわぁぁぁぁぁあ!!」
ドアの方を見るとコウタが五メートルほどのイノシシを引きずりながら入ってきていた。
「んしょと、あ、門番さんありがとうございます。」
「いいってことよ!!じゃあな!」
その奥には門番をやっているはずの兵士が台車を引いて帰っていくのが見えた。
「あ、アデルさん、見てくださいよ〜。こんなに大きなフォレストボアがいたんですよ。すごくないですか?」
コウタがペチペチとすでに動かなくなったイノシシを叩く。
「あ⋯⋯あ⋯⋯。」
「いや正直、目の前に出てきた時は死ぬかと思いましたけど持久戦仕掛けたら、思いの外うまくいきまして、ってなんでこんなに注目されてるんですか?」
コウタはキョロキョロと周りを見渡しながら不思議そうな顔をする。
アデルはプルプルとイノシシに指を指し、口を開く。
「それはフォレストボアじゃなくてグランドボアだ!!」
「おお!!どうりで強かったわけですね。それより、いくらくらいで売れますかね。コレ。」
コウタは表情を変えずニコニコ笑いながら受付の女性に尋ねるが受付の女性は地面にへたり込み口をパクパクさせるだけで反応がなかった。
「すげえ!あんなサイズ見たことねぇ!」
「あれを一人で仕留めたのか⋯⋯。」
「何者だあいつ!?」
周りからざわざわとそんな声が上がった。
図らずもコウタは冒険者初日から有名人になってしまった。
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