剣戟の付与術師

八映たすく

第1話 落ちてゆく




 真っ黒な夜の海に灯台の光が一定のリズムで差し込む。

 刑事ドラマに出てくる様な崖の上でフラフラと遠くの波に向かう人影があった。


 買い与えられた最新の携帯電話の画面は家族からと思われる着信履歴で埋め尽くされていた。


(ああ、寒いな⋯⋯)


 いつもの時間に。

 いつもの塾帰り。

 いつもの様につまらなそうな表情で歩く。


(どうしてこうなったんだろう)


 ただいつもと違ったのは向かう先だった。

 いつもと違う道を歩き。

 いつもと違う景色を眺め。

 ふらふらとあてもなくたどり着いたのは、幼き日の思い出の場所。


(僕が悪かったのかな)


 他人の努力など関係なく何の気なしに大した努力もせずに人の上に立つことができだ。


 人が十回やって覚えることを彼は一度見ればすぐに真似できてしまった。


 そうやって生きているうちに周りからの視線は徐々に賞賛から嫉妬や羨望に変わっていった。


 そうやって生きづらくなった世界から逃げる様に新たな道を探しては他人の努力を無意識に踏みにじっていった。


そんな毎日の繰り返しだった。


(ああ、この世界は退屈だ⋯⋯)


 崖の先にまでたどり着くと持っていた携帯を投げ捨て小さくこう呟く。













「⋯⋯⋯⋯死のう。」





彼の人生はその日、終わりを告げた。



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