ダメ姉は、乱入する

 最愛の妹であるコマのミスコン出場。これを応援しない姉はいないだろう。コマを優勝へと導くためにも、自分なりの全力を見せてみた私だったんだけど……何故かミスコン実行委員・大学職員・警備員・その他諸々の関係者から取り押さえられ、別室でガッツリ説教される羽目になった。


「…………理不尽だ。私が何をしたって言うんだ……」

「そりゃそうなるでしょ……寧ろ学園祭から追い出されなかっただけ大分温情でしょマコ」


 実行委員たちにガチでキレられ散々説教され。どうにかカナカナに口利きして貰い。そして這々の体でミスコン会場へ戻ってきた頃には時すでに遅く、コマの出番は終わっちゃってしまっていた。なんて口惜しい……この立花マコ一生の不覚。練習していたコマへのエールの九割を披露できなかったばかりか、コマの勇姿をこの目に焼き付けることがほとんど出来なかったなんて……


「おうマコ。まーたお前さん大暴れしたんだって?大学生になっても落ち着きないなお前」

「げ……めい子叔母さんじゃんか……」

「あら、コメイ先生お久しぶりです。いらしてたんですね」

「おうよ。と言っても今さっきな。ギリギリまで仕事してたら遅れちまったんだよな。お陰でコマのアピールとお前の奇行は残念ながら見損なっちまったよ」


 ミスコン会場の観客席に戻るとさっきまではいなかっためい子叔母さんが来ていた。どうでもいいけどギリギリまで仕事していたと言う割に、何故か叔母さんから酒の匂いがするんだが……もしかしなくても隠れて飲んでたから遅くなったってオチじゃあるまいな?

 まあ、コマに投票して貰うまでは叔母さんも貴重な投票権を持つ人間なわけだしそれは黙っておいてやるとしよう。投票が終われば叔母さんに用は無いし、あとで容赦なく編集さんにチクれば良いだけの話だし。


「んで?今度はマコは一体何をやらかしたんだい?教えてくれよカナエ」

「そうですね……簡単に言うとコマちゃんのアピールタイム中に、アイドルのオタ芸も真っ青な全力のかけ声とパフォーマンスを披露して。コマちゃん以上にこの子ったら目立ってましたよ。はいコレ。その時の証拠動画です」

「んー?どれどれ?…………ふっ、はははは!なんだこれ!我が姪ながらあいっかわらず酷いな!」

「酷いとは何じゃい。あとカナカナもカナカナで何を撮ってたんだよ……どうせ撮るならコマの勇姿を撮っておいて欲しかったのに」


 ちゃっかりその時の私を動画撮影していたカナカナのスマホを見て叔母さんは大爆笑しやがる。まったく失礼な奴め……


「でもやっと理解したよ。マコが言ってた『対策』ってこのことだったんだねぇ」

「……ん?」


 と、ケラケラ笑いながら叔母さんが不意にそんな事を言い出した。


「コメイ先生?それって何の話ですか?」

「それがよぉ聞いてくれよカナエ。こいつさ、コマがミスコンに出場するのは応援したいけど、それはそれとして男たちに目を付けられるのが嫌だって駄々をこねてたんだよね。色々アドバイスしたらこいつ『ミスコン対策でヘイトを自分に集めれば良い』って言いだしてね」

「……ああ。なるほどです。だからマコあんなに騒いでいたのね。コマちゃんから自分に注目を集めるのが目的だったと」

「はい?」


 勝手に納得した顔を見せている叔母さんとカナカナ。二人とも何を言っているんだ?ミスコン対策?

 少し考えてみて理解する。……ああ、なるほどわかった。やれやれ勘違いにもほどがあるね。


「まったく、何を言っているのさ二人とも。違うよ。さっきのは純粋なコマの応援だったじゃないか」

「えっ?応援?…………応援?」

「おい待てマコ。これ、どう見てもコマの邪魔しているようにしか見えないんだが……?」


 なんて失敬な。私の魂の応援を何だと思っているんだ。


「大体さ、叔母さんもカナカナもよく考えてみなよ。いくら応援で自分に注目を集めたからって……それだけでコマを付け狙うヤロウ共のヘイトを私に集めるなんて出来ないでしょ?」

「それは……まあ、言われてみれば確かにそうね。それだけじゃ弱いかも」

「それじゃあマコ。結局お前は何を企んでいるんだよ。このままだと確実にコマの奴、ナンパとかの餌食になりかねないぞ」

「ああ、それはね——」


『—–大変お待たせいたしました!集計終了です!これより投票結果発表に入ります!』


 決行前に、一応二人にはこれから私が何をするか話をしておこうと思っていたけれど。そのタイミングで司会が結果発表のアナウンスが会場に轟いた。


『皆さん投票のご協力本当にありがとうございました!今回のミスコンは途中多少のトラブルがありましたが……それでも無事にミスコン優勝者を決めることが出来ました!』


「トラブル?ありゃ……知らなかった。カナカナ、叔母さん。何かミスコン中にトラブルがあったらしいよ。コマは大丈夫だったのかな……?心配だわ……」

「いや……マコ……あんたね……」

「恐らく……いいや間違いなく。お前の例の暴走の事だと思うぞマコ」

「えっ!?」


『今回のミスコンテストは例年以上の盛り上がりを見せました。投票者数も過去一番だったとのこと!そんな中……もっとも多くの投票と皆さんの心を鷲掴みにしたお方を……これより発表したいと思います!果たして、栄冠に輝くのは一体どなたなのか!』


 そこまで司会が言い終わると同時に。ステージの照明が忽然と消えどこからともなくドラムロールの音が流れてくる。


『それでは発表いたします!今年度のミスコンテスト、優勝は——』


 そしてドラムロールが鳴り終わり、バンッ!と暗闇から一転……スポットライトの光が一人の女性を照らし出す。煌めく光を浴びるのは……当然、


『優勝は、一年生……立花コマさんです!』

「うぉおおおおおおお!!!コマァぁあああああああああああああ!!!」


 私の半身であり最上の妹、コマだった。

 ミスコン優勝宣言の直後、私を筆頭に会場は大いに沸く。鼓膜が破裂しそうなほどの歓声と漏れ出す感嘆。そして……


『うぉおおおお!立花さんかわいー!』

『ヒュー!俺と付き合ってくれー!』

『今度合コンしようねー!』


 男どもの野太い声とやらしい視線がコマに向けられていた。…………さーてと。それじゃあそろそろ実行するといたしますかね。


『おめでとうございます立花コマさん!どうですか?感想をお聞きしてもよろしいですか?』

「はい。えっと……皆さま本当にありがとうございます。優勝出来たのは……皆さまの応援が、支えがあったからで——」


「うへー……まあ恐らくそうなるだろうなとは思ってたけど。やっぱコマちゃんって凄いわね」

「今夜はパーティーだな。おいマコ、言われるまでもないだろうが今日は豪華に行こうぜ、祝賀会だ。美味いもん作って旨い酒用意して…………って、ん?あれ?……お、おいカナエ?……マコはどこ行った?」

「えっ?」


『素晴らしい一言をありがとうございました!優勝した立花コマさんには賞金が贈られます!さあ立花さん……この喜びを誰に伝えたいですか?』

「そうですね。やはり一番は……この私を一生懸命応援してくれた大好きな姉に——」

「はーい、その姉の立花マコでーす♡」

「え……?ま、マコ姉さま……?」

『ゲッ……さ、さっきの暴走発狂ちび女……!?』


 コマのインタビュー中に、隙を見てステージに上がる私。困惑するコマと司会を横目に。私の今回の目的を果たすためコマからマイクを借りる。


「皆さんこんばんは、ご紹介にあがりました立花コマの姉の……立花マコです。コマに投票してくれた皆、本当にありがとう!皆のお陰でコマは優勝出来ました!」


 これって何かの演出か?あいつなんかさっき暴れてたやつじゃね?そんな声がステージからも観客席からも聞こえてくる。ざわざわと困惑の声が上がる中。皆の注目が十分私に集まったところで……私は本腰を入れて本題に入る。


「さて、ここで水を差すのは本当に心苦しいけれど……実は今回、皆に謝らないといけない事があります。皆のお陰でミスコンに優勝出来たコマなんだけど…………ごめんなさい!実はコマは、ミスコンの応募資格から外れていたんです……!」

「え、ええっ……!?」


 私の衝撃の発言と共に、会場の皆の動揺が見て取れる。そりゃそうだ。ミスコン優勝者がミスコンの応募資格から外れていたなんて前代未聞の話だろう。

 そしてその私の発言に一番驚いていたのはコマだった。


「ね、姉さま!?どういうことですか……!?わ、私……何か悪い事でもしちゃっていたんですか……!?」

「ううん。違うよ。コマは悪くない。不正をしていたとか、そういうものじゃないし……優勝は文句なしのコマの実力だよ。胸を張って良い」

「で、ですが……でしたら……応募資格から外れていたとは……一体……」


 心配そうに私を見つめるコマ。ごめんごめん、急にこんな事言われたらビックリしちゃうよね。それじゃあそろそろ種明かしといきましょうかね。


「ね、コマ。今回のミスコンの応募資格って覚えているかな?」

「は、はい勿論。ええっと……まずこの大学に所属していて」

「うんうん、そうだね」

「……それから年齢は18歳から29歳までで」

「そうそう。それから?」

「あとは……ミスMissコンテストですし対象で…………あ」


 コマに応募資格を再確認して貰ったところで、聡いコマは私の言いたい事に気づいてくれた模様。ふっふっふっ……そうなんだよね。このミスコンって……


「そう、その通り。この大学に所属する、18歳から29歳までの独身の女性が対象なんです。残念ながらうちのコマは……その対象にないんです。なぜなら——」


 そこまで言って、私はマイクを投げ捨てて。背伸びと一緒にコマの頭を自分に寄せて……そして。


「んっ……ちゅ……」

「ね、ねえさま!?なにを——んんっ……ん、ぅ…………あっ……♡」

『『『は……はぁあああああああ!!??』』』

『『『きゃ、きゃぁあああああああああ♡』』』


 皆が見ている前で。皆に見せつけるように。コマの唇にキスをする。瞬間、会場で怒号が(何故か一部からは歓声?が)爆発した。

 興奮さめやらぬ中、たぁっぷりとコマの唇を堪能し。そしてゆっくりと唇を離してあげる。糸がとろりと橋を作り、それを舐め取った私は……にやりと悪女のような笑みを浮かべてこう宣言する。


「なぜなら。コマはもうすでに結婚していますから。この私……立花マコと結婚していますから……!だから残念、コマにはミスコンの出場資格がないんです!ついでにコマを狙う男どももざぁんねん!コマは私のだから、このあと貴様らがコマにナンパとかしても意味なんてありませぇええええん!!!」

『『『ふっざけんなよキサマァアアアアアアアアアアア!!!?』』』


 私の宣言に合わせてさっきとはまた別の意味で会場は大盛り上がり。コマをやらしい目で見ていたヤロウ共の視線は、もう全部私に釘付け。勿論、その視線は殺意に満ちあふれていた。


『う、嘘だろコマちゃん!?そいつが勝手に言ってるだけだろ!?』

『なんで、なんであんな奴と……!』

『○せー!ブチ○せー!!奴を○せばコマちゃんはフリーになるぞー!!!』

『ゆ、由緒あるミスコンを悉くダメにして……!今度という今度は許しません……!』

『おい!奴をステージから叩き出せ!!取り押さえるんだ今すぐに!!!』


 本来ならミスコン優勝が決まった時点でミスコン優勝者の写真撮影が認められていた。けれど……私の乱入でそれどころの騒ぎではなくなった模様。皆我を忘れて私を排除すべく襲いかかってくる。なんかついでに何故か司会やら実行委員の皆々様まで一緒になって私に迫っている気がするけど……ふははははやったぜ!とにかく作戦大成功だ!


「……あー。なるほどヘイトを集めるってそういう……マコの奴、やってることが中学時代から変わってねーな。そう思うよなカナエ…………って、あれ?カナエ?」

「ふっざけんじゃないわよコマちゃん……!よくも、よくもわたしの目の前でマコとキスなんてしてくれたわね……!?羨ましいわよ代わりなさいよ……!!!」

「ちょ……こ、今回は私じゃなくてマコ姉さまがやった事でしょうが……!?何八つ当たりしてるんですかかなえさまは……!?」

「……こっちもこっちで中学時代から何も変わってねーな」


 ちなみにこのミスコンの後、既婚者だと判明したお陰か無事にコマへのナンパは減って。

 そしてその分、ヤロウ共から闇討ちされる機会が増えた。

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