ダメ姉は、卒業する(カナカナ編)
(ボタン渡す意味は正直よくわかんなかったけど)後輩のレンちゃんに自分の制服の第二ボタンを無事託したあと。私は学校探索を終え、自分の教室へと戻っていた。
結構時間をかけて学校探索をしていたけれど、まだまだ式まで時間がある。さて今度は何をして時間を潰そうか。そんな事を考えながら教室の前までやってくると……
「「あっ」」
扉の前でバッタリと。我が親友に出くわした。
「マコじゃないの。おはよう。あんた今日はまた随分早いのね」
「うんおはよ。そういうカナカナこそ早いじゃないの」
そう言って一番の親友、叶井かなえ―――カナカナとハイタッチと挨拶をしながら教室へ入る私。
「私は卒業式の答辞の打ち合わせに行ったコマの付き添いで早めに来ただけだよ。コマと分かれてとりあえず暇だったから今ぐるっと学校内を一周してきたところ」
「ああ、なるほどね。わたしは……なんとなく。今日で最後だって思ったら、なんだかいてもたってもいられなくて気づいたらこんな時間に来てたわ」
カナカナはちょっと恥ずかしそうにそんな事を言う。うむ、その気持ちはわかる。今日で卒業と思うと色んな思いが溢れてきて、家にいるのがもったいなく感じちゃうよね。
「ところで……マコ。ちょっと気になってたんだけど聞いても良いかしら?」
「ふぇ?なぁにカナカナ?」
「何であんた第二ボタンが取れてるのよ。そんなんじゃみっともないじゃないの。ちゃんと身だしなみ整えたの?」
不思議そうに私の胸元を指差して問いかけるカナカナ。
「ああ、これ?いや、実はついさっきレンちゃんと会ってさ。よくわかんないけど私のボタンが欲しいっておねだりされたんだよね。まあ、私としては特に断る理由もないしあげてきたってわけなのさ」
「…………へー。そうなの」
「って、あ……あれ?カナカナ?」
そう説明した途端、にこやかに会話をしていたハズのカナカナは目をすっと細め、冷ややかな声をあげる。
な、何故だろう?とても凛々しいお顔をしているんだけど……このお顔のカナカナを見てるとなんだか背中がゾクゾクする……
「…………(ボソッ)あの子もコマちゃんとはまた違った意味で強敵よね……あーあ。先手を打たれちゃったか」
「へ?なんか言ったカナカナ?」
「なんでもないわ。それよりも……まさかとは思うけど、マコ。その恰好のまま卒業式に出るつもりじゃないわよね?」
「え?ダメなの?」
何の問題があるのだろうと首をかしげる私に、カナカナは呆れた顔を見せる。
「ダメに決まっているじゃないの。人生で一度っきりの中学の卒業式でしょう?ちゃんとした格好で出ないと後悔するわよ」
「む……確かに一理あるかも。でも……予備のボタンなんて持ってないし……」
「まったく、マコは最後まで仕方ないわね。……いいわ。わたしに任せなさい。何とかしてあげる」
そんな頼もしいことを言いながら、カナカナはカバンの中からソーイングセットを取り出す。そして自分の胸元の……制服の第二ボタンに手をかけて―――
「えいっ」
「ちょ……か、カナカナ何やってんの!?」
「良いから。ほら、じっとしてなさいマコ」
ついさっき私がレンちゃんの前でやったように。自分の第二ボタンを勢いよく制服から引きちぎった。
呆気にとられる私をよそに、カナカナはソーイングセットの中から糸と針を出し。あっという間にそのボタンを私の制服に縫い付ける。
「はい完成。……うん、大丈夫みたいね。付け心地はどう?違和感とか無い?」
「え、ええっと……うん、大丈夫。でもさカナカナ……そんな事したらカナカナもボタン取れたままになるじゃないのさ……」
「問題ないわ。わたしはちゃんと予備のボタンを用意しているから」
「あ、そうなんだ。なら良かっ―――ん?あれ?」
…………あれ?予備のボタンを持ってるなら、はじめからそれを付けてくれれば良かっただけでは?何故にカナカナはわざわざ自分の制服の第二ボタンを私の制服に付けたのだろうか……?
「ま、まあいいか。ありがとカナカナ。助かったよ」
「いやいや。こちらこそありがとねマコ♪…………(ボソッ)お陰で合法的に、マコに第二ボタンを渡せたわ♡」
「……?」
なんでお礼言われてるんだろう私……?わからん……今日のレンちゃんもカナカナも、ちょっと行動に理解が追い付かなくて困る。なんなの?二人とも卒業式前で浮かれてるの?
「そんな事よりもさ、マコ」
「ふぇ?えと、何かなカナカナ」
「まだ時間もある事だし……マコさえよければちょっと今から屋上に行かない?」
「……屋上に?」
◇ ◇ ◇
「んー……!いい気持ち!」
「だねぇ。ぽかぽか暖かいや。良い卒業式になりそうで何よりだ」
カナカナに誘われて屋上へとやってきた私。屋上にきて改めて感じる。今日はなんて素敵な日だろうか。春の陽気が、澄んだ空気が、咲き乱れる桜が。これから卒業する私たちを温かく見送ってくれているようだ。
「……三年、あっという間だったわね」
「だよね。ついこの間入学したと思ったら、もう卒業だもの。早かったよね」
屋上を見下ろしながら二人並んでしみじみと話をする私とカナカナ。
「光陰矢の如しとはよく言ったものね。……やれやれ。マコと一緒にいると時間がどれだけあっても足りないわ」
「あはは!なにそれ?それは私が忙しない奴だって言いたいのカナカナ?」
「そうじゃなくて。好きな人と一緒に過ごす、楽しくて充実した時間は過ぎるのが速いって言いたいのよ」
「はうっ……!?」
いきなり不意打ちを仕掛けてくる我が親友。か、完全に油断してたからめっちゃクリティカル入った……あ、あかん。ちょっとこれやばい……顔熱い……
「ホント、マコと過ごしたこの三年間は最高だったわ。たくさんの出来事があったわね。マコがわたしに話しかけてくれた入学式。あの時の事は、わたしは一生忘れない。失恋していた、失意のどん底に居たわたしにあなたが光を与えてくれた」
「え、ええっと……」
「幸運にも三年間一緒のクラスで……暴れるマコを止めたり、怒られるマコをフォローして。慌ただしくて呆れちゃう毎日だったけど。日々を積み重ねるうちに……マコに恋心を抱いたわ。恋をする楽しさを実感できたわ」
「ぁぅ……」
「そして積み重ねた想いを胸に抱き。去年ちょうどこの場所で……あなたに告白をしたわね。唇もいただいたわね」
嬉しそうに私との思い出を、私への想いを語るカナカナ。クリティカルを食らい続けている私は何も言えず、ただあわあわとカナカナの語りかけに顔を赤くするしかない。
「結果的にフラれちゃったけど、でもますますマコのことが好きになって。コマちゃんとマコが恋人同士になってもマコを寝取ろうとアタックし続けて。わたしが言うのもなんだけど、それはもう不毛で不誠実な毎日だった。……でも、とても充実した素晴らしき日常だったわ」
「あ、あの……」
「……けれど。そんな毎日も、今日で終わるのね」
「えっ……」
何か言わねばと思った矢先。急にカナカナは沈んだ声で寂し気に呟く。
「これからわたしたちは……違う道を歩むことになる。たぶん一緒に居られる時間は、中学に比べるとずっとずっと減っちゃうでしょうね。……さみしいわ」
「かな、かな……」
「……ねえマコ。卒業して、離れ離れになる前に。この場所から旅立つ前に。最後に一言だけ言わせて頂戴」
私を熱っぽい視線で見つめ、一歩近づきそう言いだすカナカナ。そして……
「もう一度だけ。最後にもう一度だけ言わせてください。立花マコさん―――わたしは、あなたの事が大好きです。愛しています。どうかわたしと……付き合ってください」
そして私に、愛の告白をしてくれた。
「……えっと。あの……」
「……どう、かしら?」
胸に染みる強い思い。熱い告白。ホント、最後までカナカナは……凄いと思う。こんな私に、ここまで情熱的な感情を向けてくれるなんてね。
さて……告白されたからには返事をせねばならないだろう。けれど……その前に、だ。
「……カナカナ。返事の前に私も一言だけ言いたいことがあるの。言っても良いかな?」
「……ええ、どうぞ。マコの言葉なら……どんな言葉でもわたしにとっての宝物よ」
「ありがとう。なら遠慮なく言わせてもらうけど―――
―――何故かカナカナ、いかにも今生の別れっぽい空気を出してるけどさ。私とカナカナ……一緒の高校に進学するよね……?」
『違う道を歩む』だの『一緒に居られる時間が減る』だの『離れ離れになる』だの言ってるけど。私もカナカナも、あとコマもヒメっちも。4月からは同じ学校に進学する事になっている。
一瞬私もカナカナの醸し出す空気に騙されかけたけど。離れ離れになるどころか、少なくともあと3年はこの腐れ縁は続いていくはずだよね……?
「えー?嘘は言って無いわよ?今まで三年間一緒のクラスだったけど、高校はコースが違うから選択授業でバラバラになるわけだし。会える時間は今までよりも減るでしょ?」
「そりゃそうだけどさぁ……なんでわざわざ紛らわしい言い方をしたのさ」
「別に他意はないわよ?…………このいかにもな『卒業式の日に、別れの前に屋上で告白』ってシチュエーションなら必ず落とせるって掲示板に書いてあったとか、そういうアレじゃないからね?『例え一緒の高校に進学するとしても、それっぽい雰囲気を出せば必ず堕とせる』って話を信じたわけじゃないからね?」
なるほどそれが狙いだったか……
「で?返事はどうかしらマコ」
「どうもこうも……ごめん。何度も言うけど私には
「ちぇー……やーっぱ当てにはなんないわね恋愛掲示板なんて」
そもそもそんな胡散臭い掲示板、当てにしないでほしい。
「まあいいわ。これからもマコとまだまだ一緒に過ごせるわけだし。高校生になっても今まで通り―――いいえ、今まで以上に本気でマコを堕としにいくから今日のところはこんなもので勘弁してあげる。高校生になったらより一層覚悟しなさいマコ。必ずあなたをメロメロにしてあげるんだから」
「……あはは。お手柔らかに」
ブレない親友の力強い一言に苦笑いをしながらも私は思う。こんなに私の事を好きになってくれたカナカナと、この学校で出会えた奇跡に感謝を。
「ね、カナカナ」
「ん?何かしらマコ」
「私もカナカナの事大好きだよ」
「んぐっ!?」
「親友として、あくまで親友としての大好きだけどね」
「…………卑怯よマコ。あんた、わたしの心をどれだけ揺さぶれば気が済むの?」
カナカナに手を引かれて教室に戻りながら。4月からの彼女と共に過ごす楽しい日々を期待しつつ、今日さんざん私を揺さぶってくれたお返しとばかりにカナカナに一言私も言ってやることに。
ま、アレだ。これからもよろしくね親友。
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