私の妹はやっぱり可愛い
ダメ姉と、エピローグ
私……ダメ姉こと立花マコが、我が妹にして最愛の人である立花コマと晴れて恋人として結ばれてから数日が経ったある日。隣町のとある喫茶店で、私はめい子叔母さんと共にとある人物と対面していた。
「―――というわけで。今話した通り、私とコマは正式にお付き合いする事になったんだー♡」
「…………前々からこの子は色々とダメな子だとは思っていたけど。アンタ、ますますダメさ加減に磨きがかかっているようねマコ」
コマと恋人同士になった経緯を熱っぽく語った私。私の惚気話を最後まで黙って聞いていた私と叔母さんの目の前のその人は、まさにこれが苦虫を噛み潰した顔のお手本だと思える絶妙な表情で吐き捨てるようにそう呟く。
「しかもまともだと思っていた妹のコマまで頭がおかしくなってたとか……悪い冗談過ぎてお母さん全く笑えないわ」
「そう?私は笑えるよHAHAHA!まあそりゃ実の両親が悪い方向でダメ人間筆頭だし?姉妹揃ってダメ人間なのは遺伝なんじゃないかな」
「ッ……!」
私の一言にカッと目を見開き歯ぎしりをする目の前のその人は、今回の……いいや全ての元凶とも言えるあの人―――そうだ、私とコマの実の母親だった。眉間に皺を寄せて憎々し気に私を睨みつけている理由の大半は、多分コマを懐柔失敗してしまい結局例の再婚話が白紙に戻ったからだろう。
ざまぁ見ろ―――じゃなかった。幸せ掴み損ねて残念だったね母さん。ドンマイ。まあ、かく言う私はコマとゴールイン出来て現在進行形で幸せ絶頂中だけどな!
「女同士……しかも双子の姉妹同士で恋人ですって?バッカじゃないの。どうやったらこんな常識外れのバカたちが育つのかしら。……きっと育ての親の教育が悪かったのね。なにせ結婚はおろか、誰とも付き合った事の無いような干物女に育てられたわけだし」
「……さぁて、どうだろうね」
叔母さんを責めるように母さんは嫌味ったらしくそんな事を言い出す。叔母さんは大してダメージを負っていないようだけど……全く。いくら私とコマがラブラブ過ぎて羨ましいからって、今まで私とコマを一生懸命に育ててくれた叔母さんに対してその言い草は酷いじゃないか。
仕方ない、ここは私がガツンと言ってやろうか。
「いやいや母さんや。育ての親に問題はないよ。それよか私もコマも生みの親から碌な教育を受けられてなかったわけじゃない?生みの親が一番に教えるべき常識ってものすら教えて貰えなかったから、だから変態でインモラルな立派な常識外れのダメ人間になったんだよ」
「…………」
「ぷぷっ……!」
満面の笑みを浮かべ皮肉たっぷりに母さんにそう告げると、流石の母さんも気まずそうに目を逸らして口を噤む。そして叔母さんは思わず吹き出しそうになるのを必死に堪えている模様。バカめ。自分の事を棚に上げて余計な事言うからこんな手痛い反撃喰らうんだよ母さん。
「とにかく今言った通り、叔母さんも居るわけだし……それに私とコマは母さん父さんが居なくてもこれから先もずっとずーっとイチャイチャラブラブ幸せに暮らしていけるからどうか安心してほしい。そんなわけで、はいコレ。プレゼントフォーユー」
「……」
「母さん。私とコマの気持ち、もちろん受け取ってくれるよね?」
バンッ、と私とコマの絶縁状をテーブルの上に叩きつけ。笑みを絶やさず暗に『二度とコマに近づくな』という気持ちを目一杯込めて私は言う。まあ、この絶縁状自体に法的拘束力はない。だからこれは最終警告だ。
こんな親でも一応私とコマを産んでくれたっていう唯一の恩もあるわけだし……今回だけはこれで勘弁しておいてやろう。もし次にコマに手を出すようなら……私も容赦するつもりは一切ない。どんな手段を用いてでも、この人に地獄を見せてやる。
「……いいわ。アンタらみたいなアバズレ共なんてこっちから願い下げ。私に迷惑かけないって約束するなら、絶縁だろうが姉妹仲良くレズろうが好きにすればいい」
「そりゃどーも。んじゃこれから先も好きにさせて貰うよー」
「どうぞご勝手に。じゃあねマコ、めい子。それからここには居ないコマ。二度とそのバカ面を見せないで頂戴」
眉間に皺を寄せたまま絶縁状を握りしめて席を立ち、さっさとこの喫茶店から出ようとする母さん。
「あ。ちょい待ち母さん。最後に貴女の娘として渡すものがあるんだけど……貰ってくれないかな」
そんな母さんを私は慌てて呼び止める。いかんいかん。もう一つの大事なものを渡しそびれるところだった。
「……?渡すもの?マコが私に?……どうせ大したものじゃないのでしょうけど、貰えるものなら貰ってやってもいいわ」
そう言って振り返った母さんを前に、私は右手を強く握りしめ。そして……
「ありがとう。なら遠慮なく―――歯ァ喰いしばれ」
◇ ◇ ◇
「てなわけで。あの人にはお姉ちゃん渾身の右ストレートをプレゼントしてやったよコマ」
そんな一幕があった翌日。愛するコマと今日も仲良く登校していた私は、身振り手振りを交えてちょっと誇らしげに喫茶店でのやり取りについてコマに説明していた。
「み、右ストレートとは……思い切りましたね姉さま。母さまは……その、やはり怒ったのではないですか?大丈夫でしたか?何か嫌な事をされたりしませんでしたか?」
「んーん。周りの目とかあったし、それに何より叔母さんが牽制しててくれたからさ。結局何も言わずに涙目で逃げるように出て行ったよ」
そもそもあれでもあの人一応非は自分にあるって内心理解はしてたっぽいし……怒ろうにも怒れないって感じだったもんね。寧ろ今までの仕打ちを考えたら右ストレート程度安いもんだろう。ま、遅めの反抗期を迎えた娘によるささやかな一発って事でどうか許してほしい。
「そ、そんな事よりもさコマ。今朝は結局いつものやつを全然しなかったけど……コマこそ本当に大丈夫なの?」
母さんの事はぶっちゃけどうでも良い。それより心配な事がある私は、恐る恐るコマに問いかけてみる。
実は私とコマが恋人になった事で、コマの身にある重大な変化が起こった。それは―――
「ええ、大丈夫です問題ありません。姉さまの口づけがなくとも、私の舌は正常に機能していますよ」
―――付き合い始めたその日から。まるで最初からそんなものは存在しなかったように6年もの間ずっとコマを苦しめ続けていた味覚障害が、嘘のように消え去っていたのである。
「昨日念のためもう一度ちゆり先生の元で診て貰いました。私の舌は、もう普通の人のそれと何も変わらないと。……完治しているとちゆり先生からお墨付きを頂きました」
「そっか。それは本当に喜ばしいね。おめでとうコマ。……それにしても。どうしてまた急に味覚障害が治ったんだろうね?」
治った事自体はたいへん喜ばしい事だけど、やっぱり不思議だ。あれだけ長い時間コマと二人で治す為に悩んで色々試行錯誤を繰り返して早6年。全く治る気配がなかったあの味覚障害が、何故こんなにもあっさりと完治したのだろうか?
「……私、証が欲しかったんだと思います。姉さまとの確かな絆が」
「ふぇ?証?絆?」
と、首を傾げながら疑問を口にしていた私の隣で。コマはポツリと呟きだす。
「私の味覚障害は……ちゆり先生がずっと仰っていた通り、心因的な理由による疾患だったと思います。6年前姉さまに命を救われた時。私は姉さまに恋をしました。そして恋をすることと同時に……私は恐怖しました。もしもこんなにも大好きな姉さまと離れ離れになってしまったら、私はきっと生きていくことが出来ないと……確信しました」
「そう、だったの……?」
「はい。マコ姉さまを絶対に手放したくない。だけど当時の私と姉さまを繋ぐのは、所詮は血の繋がりだけ。……実の肉親に存在を忘れ去られ、生死の境を彷徨った私だから言えます。血の繋がりなんて、絶対的なものじゃないんですよ」
「……そうかもね」
内心コマの双子として生まれた事を誇っていて血の繋がりも重要な要素だと思っている私からすると、それはちょっとだけ寂しい考え方だと思うけど。でもコマがそう考えてしまうのは無理ない事だろう。
「血の繋がりよりも何よりも。姉さまとの繋がりをより強く感じられるのが、私にとってはあの甘酸っぱい姉さまとの口づけでした。味覚障害で居続ければ、姉さまは負い目やトラウマから私と必ず口づけを交わしてくださります。私と口づけする為に、姉さまは私の元から絶対に離れる事は無いんです。……口づけを交わす度に、私はそう確信しました。だから心の奥底では、味覚障害を治す気がなかった。いいえ、治したくなかったんでしょうね」
そう言って自嘲気味にコマが笑う。……今更だけど、こんなにコマから好かれてたんだね私。死ぬほど嬉しいような、そのコマの気持ちに長いこと気付けなかった自分の鈍感さに死んでしまえと言いたくなるやら……
「ですが今回、晴れて姉さまと……その。こ、恋人同士になれましたし。姉さまから熱い想いを打ち明けて頂いて両想いだとわかったので……あの口づけは必要ないと私の心と体が理解して……それで」
「それで、恋人同士になった瞬間に味覚障害も克服出来たって事?」
「……はい」
なるほどね。だから6年間も治ることがなかったのか。お姉ちゃん納得したよ。…………アレ?でも待てよ……?
「ねえコマ?その理屈で行くとさ。コマが私の事好きだったように私もずっとコマの事が好きで好きで大好きで、二人は両片想いだったわけじゃない?」
「あ、はいそうですね」
「それってさ、つまり……私かコマがもっと早く勇気を出して告って恋人同士になっていれば、コマの味覚障害ももっと早く治ってたって事なんじゃ……」
「……だと、思います。昨日ちゆり先生も―――」
『味覚障害も、それから一日限定の相貌失認も。どちらもマコちゃんとの繋がりをコマちゃんが欲したから発症したわけだし。恋人同士になればそりゃ簡単に治るわよ。それこそ6年前から二人ともラブラブだったわけだし。あの時マコちゃんかコマちゃんが『すきです!つきあって!』って言ってれば、ここまで長引く事なんてなかったんじゃないかしら』
「―――と、仰っていましたし」
……流石ちゆり先生。そこまで見抜いていたんですね。出来ればそういう事はもっと早く……それこそ6年前にでも言ってくれてたら良かったのに、とちょっと思う私であった。
「……ははっ。そっか。それはまた、私たち随分と遠回りをしてきたんだね」
「……ふふっ。ですね」
コマと二人、苦笑気味に小さく笑う。ああ、ホント。6年間も回りくどく遠回りし続けて、やっとここまで辿り着いたのか。不器用にも程があるよね私たち……
…………まあでも。その遠回りがあったからこそ。両想いになれたんじゃないかなって私は思ってる。長い時間をかけて、時には失敗して、この間みたいに二人すれ違って。そういう経験を積み重ねたからこそ、コマの言う二人を結んできた口づけ以上の繋がりを作れたんじゃないかな。
「……コホン。それじゃあ改めて。コマの事が大好きで、でも大好き過ぎて変態で、それでいてヘタレで告白もまともに出来ない不器用なこんなダメお姉ちゃんだけどさ。これから先もよろしくねコマ」
「姉さまの事が大好きで。ですが独占欲と性欲が強すぎて物理的にも精神的にも縛り付けようとしていた、そんな病み気味のダメ妹ですが。こちらこそどうかよろしくお願いしますマコ姉さま」
そう言って私たちは恋人として手を取り合う。恋人繋ぎでコマと二人歩き出しながら、私はある未来を確信していた。……私たちがこうして好きあっている限り。きっともう二度と味覚戻しの口づけをすることはないだろう、と。
…………ああ、ところで話は大きく変わるけど。ちょっと不思議には思わなかっただろうか?『以前あれ程コマと口づけする機会が減った事を悔しがっていたダメ姉が、何故味覚戻しの口づけが必要なくなったのに全然残念がっていないのか』と。
いやね、私もコマと付き合い始めてコマの味覚障害がすっかり完治した直後は、流石にキスする機会もかなり減るだろうなーって残念に思ったさ。でも……すぐにその考えは改められることになったのである。
「あら?マコ姉さまマコ姉さま。お顔にまつげが付いていますよ」
「はぇ?まつげ?えっと……どこかな?ここ?」
「いえ、そちらではありません。……ちょっとそこの路地裏まで来てください。私が取ってあげますから」
そう言ってコマは私の手を引いて、人目につかない路地裏まで足を運ぶ。手を引かれながらも、ハテ?何故にまつげを取るのにわざわざこんなところで行く必要があるのだろうか?と思った―――次の瞬間。
「姉さま、ゴメンなさい―――イタダキマス」
「え……んぐぅっ!?」
急に謝りながらも私の背を路地裏の壁に押し付けて、コマは自分の唇と私の唇を強引に重ね合わせた。
味覚障害がなくなって、コマとちゅーする機会が減ったと思ったかな?残念!寧ろ味覚障害があった時よりも、キスする頻度は高くなっているわ!
「こ、ま……まっ……て!ここ、一応そと……」
「大丈夫。誰も来ませんよ。誰にも見られませんよ。だから……ね?」
「い、いや……『ね?』っていわれても―――んーっ!!?」
…………コマと付き合いだして分かった事がある。自他共に認める立派な変態である私は……いざ本番になると『コマを愛でたい!コマを大事にしたい!』という気持ちが先に来てしまい、上手く主導権を握れなくなってしまう。……はいそこ。それはお前がヘタレなだけだろとか言わないように。
一方のコマはと言うと……本人も言っていた通り私並みに―――いいや、ひょっとすると私以上に私とえっちい事がするのが大好きらしく……昨日も何処から仕入れてきたのやら。中学女子が入手するのは色々と憚れるような本を片手に、
『今日はこれを試してみましょう姉さま♡』
と、ノリノリで私をえっちい行為に誘っては……今やっているようにガンガン私を攻め立ててくる。
お、おかしい……
「こ、コマ……いい加減、お姉ちゃん怒る―――んンンッ!?」
「だーめ。姉さま、逃げないで」
路地裏とは言え通学路。コマのキスに酔いしれる前に慌ててコマを引き剥がそうとしたけれど、私の抵抗など意に介さず。私の手首を片手で捕まえて(外せないけど痛くないように絶妙な力加減)、そして私の内股に片足を押し付けて(いわゆる股ドンってやつ)コマは私が逃げられないようにした上で……おでこに、目に、鼻に、耳に、頬に、喉に、唇に。キスの雨を降り注がせる。
「や……も、ダメ……ひんっ!?」
「ダメって言いながら、とても素敵なお顔になってきましたね姉さま。ホント……かわいい。大好きです」
「ふぁぁんッ!?」
キスだけでなく、時折ねっとりと舐めあげられ。くすぐったさと舌の熱さと湿り気にドロドロに溶けそうになる。甘い吐息と喘ぐ声、そして『ねえさま、すき。だいすきです』という甘い言葉が耳を犯し、何か私が言葉を発する前に再びキスでその言葉を塞いでしまう。私の手首を封じていない方の手で私の胸元を撫で上げて、股ドンしているコマの膝と太ももがゆっくりと上下に動く度、静電気が走り私の身体がビクンと跳ね上がって―――
そんなこんなで10分程コマになすがままにされてから、コマは私を解放してくれた。
「ふぅ……ご馳走様でした姉さま。名残惜しいですがそろそろ登校しないと遅刻しちゃいますのでこの辺で止めておきますね」
「…………」
場所が場所だっただけに、コマに無言のジト目で抗議する私。そんな私の視線を受けたコマはというと、何故かポッと頬を染めてこう告げる。
「ああ、そんな可愛いお顔で私を見つめないでください姉さま……ごめんなさい、怒らないで」
「べ、別に怒ってはないけど…………(ボソッ)その……気持ち良かったし…………で、でもねコマ!さっきも言った通りここは通学路だから―――」
「大丈夫です。中途半端に焦らされちゃって不満なんですよね?明日はお休みですから、学校が終わったら全力で姉さまを満足させてあげますからねっ!」
「ちがう、そうじゃない」
純粋な……欲望に純粋な綺麗な瞳を輝かせ、天下の往来で爆弾発言をするコマにツッコむ私。やだ、うちの可愛い恋人兼妹……超肉食獣だわ。アニマルだわ……
つーかおかしいな。何故この私が常識人ポジションになっているんだ……?
「こ、こんなにコマがエッチだなんて思わなかったよ私……」
「まあ、今までは姉さまに嫌われたくない一心で猫をかぶってきましたからね。言ったでしょう?本当の私は姉さまとヤる事しか考えていない、ただのスケベなシスコン娘なんです」
「や、ヤる事って……」
「…………ねえ、マコ姉さま?やっぱり、こんなダメな妹はお嫌いですか……?」
コマの(色んな意味での)ポテンシャルの高さに圧倒されていると、コマは不安そうに私にそう問いかける。そんなコマの一言を受け、私はやれやれとため息を吐いてから。
「―――そんなの、大好きに決まってるでしょ」
仕返しと言わんばかりに。コマの唇を今度は私が奪い取る。コマがダメ人間だというのなら、私も同じくダメ人間。なにせ私たち双子のシスコンシスターズですし?
私はもう一つ未来を確信している。これから先も未来永劫ダメな
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます