第73話 ダメ姉は、ドロップキックする
「……くそぅ。あの防犯グッズ、ついこの間新調したばっかりなのに酷い……あんまりだ……これでまた買い直さなきゃなんないじゃないの……」
『学校にこんな危険物を持ち込むなバカ者』と我が担任の先生に雷を落とされて、こってりコトコト絞られた私。
しかもただ怒られるだけじゃなく、拳骨も食らわせられた上に……二度にわたり大事なコマを守護る為の防犯グッズを一つ残らず没収されるとか酷すぎる……!あの防犯グッズって、一体いくらしたと思ってんですかマイティーチャー……!?
「買い直すって……あれ程先生に叱られたのに、マコはまだ懲りていないのね……」
「俺さー、お前のそのゴキブリ以上の精神的なタフさとしぶとさと諦めの悪さには、一周回って感心しちゃうわ立花」
「まぁどーせ買い直したところで、次も先生に没収されるのがオチでしょうけどね!賭けてもいいわ、来月もマコはまた先生にバレた後に没収されてから説教フルコースと見た」
「つ、次はちゃんとバレないように慎重に持ち込むもん。…………つーかさぁ、おかしくないかな!?先月に引き続き、またもや近くで不審者が出たんでしょ!?だったらなおさら、あの防犯グッズを没収される謂れはないと思うんだけど!?」
「「「アレは防犯グッズの域を超え過ぎだし、そりゃ没収されるに決まってんだろ……」」」
魂の訴えをぶつけるも、白けた目で冷静に私にツッコミを入れるフレンズたち。はー?防犯グッズの域を超えてるだぁ……?
わかってない、わかってないぞキサマら……!大事な大事なかわゆい
「ぐぬぬ……ま、まあいいさ。とりあえず持っていかれた中で特に優先度の高い奴から順にリストアップしとこう。…………まずトランシーバーは最優先に……催涙スプレーは予備がまだ家に残ってるから良いとして……余裕があればスタンガンを……」
嘆いていてもクラスメイト達に愚痴っても、没収されてしまったものは戻ってこないし仕方がない。泣く泣くお財布の中身と相談しながら、一体何が必要なのかをブツブツ呟きつつ手帳に書きなぐってみる私。
ええっと……先月防犯グッズを購入した時に使った商品リストを照らし合わせると……合計金額は―――
「うぅん……困ったなぁ……」
想像以上の出費になるとわかり、思わず頭を抱えて唸り声を上げてしまう私。おにょれ……これ来月どころか3か月以上は金欠確定じゃないですか……
でも例の不審者騒動は無視できないし、コマの安全が何より大事だから背に腹は代えられない。こうなりゃ貯めてる貯金もちょっとだけ下ろすしかないか……
「うぅん……困ったわ……」
「……ん?」
と、眉間に皺を寄せて唸り声を上げながらお財布と睨めっこしている私の隣で、私と同じように唸る声が響いてくる。
どうした事かとお隣さんを見てみると、そこには難しい顔をした私の親友……カナカナの姿が。
「カナカナ?どしたのそんな難しい顔して。何かあった?もしかしてカナカナも金欠なの?」
「え?あ、ああマコ。……いや別に金欠じゃないし、大したことでもないんだけどさ。……これをどうしようか迷っててね」
「これ?」
そう言ってカナカナは私に一枚の紙を見せてくる。その紙をよく見てみると……えーっと、なになに?進路希望調査……?
「……って、これって確かこの前配られたやつじゃないの。これがどうかしたの?」
「ホラ、さっき朝礼中に先生が言ってたじゃない。『進路希望調査は明日までに書いて提出するように』って。わたしまだ全然書けてないからさ、ちょっと焦っててね……」
「……え?先生そんな事言ってたっけ……?」
「…………マコ。あんたさては先生の話、全く聞いてなかったわね?」
「うむす」
聞いてたのは不審者情報くらいで……残りの時間は全てコマの衣替えに関する事だけを真剣に考えてて、先生の話なんかまったく頭に入っていませんがそれが何か?
「…………自分の事以上に、マコの事が心配になって来たわ……ね、ねえマコ。あんたってちゃんと希望調査は書いたの?来週の三者面談に使うらしいし……きちんと書いて提出しないときっとまた先生に説教されちゃうわよ?」
「あ、それに関しては心配しなくていいよカナカナ。だって私、先生に配られたその日のうちに提出しといたもん」
「と、当日に!?…………そ、そっか。あんたって見かけによらず意外としっかりしてるのね……」
「まあね!」
自分の事そっちのけで私を案じるカナカナに、もうすでに提出したことを胸張って伝えてあげる。私の希望する進路なんてとっくの昔に決まってる。だから迷わず提出できたよ。
「それはそれとしてカナカナは一体何を迷ってるのさ?通いたい学校とかが特に思いつかないなら、そこまで深刻に悩まずに適当に書けばいいんじゃないの?」
そうだ。確かこの進路希望調査って、
『あくまで現段階で皆の希望がどんな感じかを、参考までに知りたいだけだ。だから無理に第三希望まで書かなくても良いし、もし何も思いつかなければ将来やってみたい職業等を書いてくれても何も問題ないぞ。気楽に赴くままに、今の素直な希望を書いてくれ』
とか配布する時に先生は言っていた。だからもっと気楽に考えても、問題ないハズ。
「……うん、まあそれはそうなんだけどさ」
けれどきっとカナカナは根がとても真面目なのだろう。私がそんな助言をしてやっても、思い悩んだ表情を崩してくれない。
まあいくら気楽に書けって言われても本来進路希望調査といえば卒業後の自分の将来を左右しかねないとても重要なものだ。カナカナがこんなに真剣に悩むのも無理はないよね。
「…………(ボソッ)通いたい学校っていうか……い、一緒に通いたい奴なら……いるけどね。……どこかの誰かさんが……一体どこを進路希望しているのかさえわかれば……わたしだってここまで悩んだりしないわよ……もう」
「……?カナカナ、今何か言った?」
「な、なんでもないわ……ただの独り言よ……」
「そう?なら良いけど。……まあ、とにかくさ。その進路希望調査は後でまた考える事にして、そろそろ移動しよっかカナカナ。一限目って移動教室だし、そろそろ行かないと遅れちゃうよ」
今ここで一生懸命悩んでいても早々に書けるものでも無いだろう。何よりモタモタしていると授業が始まってしまう。とりあえずそれは後回しにして貰う事にして、カナカナに移動を促す私。
「え、移動……?あ、ああそういえばそうだった。……そうね。マコの言う通り、進路希望は後に回すことにするわ。今は急いで移動しなきゃね」
「うん、その方が良いよ。んじゃ早速行きますか。ほらほらー。他の皆も駄弁ってないでそろそろ行くよー」
「「「はーい」」」
そんなわけで。カナカナや教室でお喋りしていた他の友人達を引き連れて教室を出る事に。
「それにしても正直めんどくさいよね。アタシも実はかなえと一緒で進路希望調査はまだ書けてないわ」
「ウチも面倒だったし、希望なんて特に無いからさ。希望調査にはこの周辺の高校を適当に書いておいたわ。……だいたいさぁ、まだ2年生なんだよ?将来の事なんて今すぐ考えなくて良いんじゃないかなーって思うんだけど」
「そうだよねぇ。やりたい職業とかなりたいものとかなんて今必死に考えても……ねぇ?疲れるだけっていうかさー」
移動の途中。さっきの私とカナカナの話を聞いていたのか、友人たちも進路について語り出す。カナカナのように真剣に思い悩む人もいれば、私のようにやりたいことが決まっている人もいるように……彼女たちのように今はまだ特に考えていない人もいて、ホント人それぞれみたいだね。
「皆のその気持ちはわからなくもないけどね、でもこういう事はしっかりと考えて書いた方が良いと思うわよ」
「だねー。私もカナカナに同感かな。もし適当に高校とかを選んで、後になって悔やむことになったら大変だもんね」
「えぇー、そうかなぁ……先生もかなえもマコも気が早くない?そんなの3年生になって考えればいいじゃないの」
「3年生になって慌てて進路を考えるよりも、今の内から考えておけば余裕も生まれるし選択肢も増えるでしょう?少なくとも漠然とした目標だけでも今決めておいても損はないんじゃないかしら。…………まあ、そんな事を言ってるわたし自身が、まだ全然将来の目標も通いたい学校も決め兼ねてて偉そうな事を言えた義理は無いんだけどね」
そう苦笑い気味に皆に向かってカナカナは話す。いやいや。真剣に悩んで考えている人だからこそ、とても説得力のある話だと思うよカナカナ。
「…………と、ところでさマコ」
「ん?なーにカナカナ?」
「急で悪いんだけど…………た、確かあんた『もう進路希望調査を提出した』って言ってたわよね?」
「うん、そだよー。私、将来やりたい事はすでに決まってるからね!……で?それがどうかしたん?」
「そ、そうなんだ。…………じゃ、じゃあ……参考までにさ。……将来やってみたい事とか……マコが通いたい学校とか……お、教えてくれると……嬉しいんだ……けど……」
「へ?私の?」
そのカナカナは何故だかちょっぴり頬を赤くしていきなり私にそう尋ねてくる。私の進路……か。
……ふむ。カナカナの参考になるかはちょっとわかんないけど……でも別に隠しているってわけでもないし、悩みまくっていた親友の何かしらの助けになる可能性があるなら教えない手は無いか。
「勿論いいよー。私の希望進路はね―――」
そう考えて快くカナカナに自分の希望進路について語ろうとした私…………なんだけど。
「……って、あれ……?コマ……?」
話す直前、視界の端で我が最愛の人であり私を導く輝ける星である実の妹……立花コマの姿を捕える私。
「……?マコ?どうかしたの?」
「あ……いや。コマが……」
「コマちゃん?……あらホントだ」
キョロキョロと周囲の様子を伺い、抜き足差し足で慎重に階段を上っていくコマ。……どうやら人目を気にしてコマはそんな事をしているようだけど、却って目立っているところがカワイイ―――じゃなくて、だ。
「コマ……何処に行ってるんだろ……?そろそろ授業始まるってのに……」
コマの行動に疑問を持つ私。いつもの真面目で優等生で模範生なコマならば、授業の10分前には必ず席について授業の準備を終えているハズ。
おまけに誰にも見られたくないようにこそこそと移動するなんて……なんか、コマらしくない気がする。
「さぁ?よく知らないけど、コマちゃんのクラスも一限目が移動教室なんじゃないの?」
「いや、それは無い。コマのクラスの一限目は数学だもの。そもそも今日のコマのクラスで移動教室のある科目は一つもないし、時間割変更があったって話も聞いてないよ」
「…………あんた、なんでコマちゃんのクラスの時間割を完璧に把握してるのよ……?」
姉としての当然の義務よ。
「じゃあ普通にお花を摘みにでも行ってるんじゃないの?」
「それも違うと思う。トイレならすぐ傍にあるのに、それを利用せずにわざわざ上の階に上がるなんておかしいじゃない。それに……」
「「「それに?」」」
「今朝起きて一回、学校に着いてから一回。コマはすでにトイレを済ませているし……何よりもコマの生活リズム、トイレの頻度、現在の体調等を考慮すると今お手洗いに行くのはおかしいもの」
「「「だからあんたなんで妹のそういうところまで完璧に把握してんのよ!?キモチわるっ!?」」」
姉としての当然の義務よ。
まあそれは置いておくとしてだ。……本当にコマはどうしたんだろうか?もうちょっとで授業も始まるしこのままじゃ遅刻しちゃうってのに。
授業をそっちのけにしてまで行かなきゃならないところなんてあるのか……?それに……なんかコマ、ちょっと困ってた顔をしてたような……?
「…………ちょっと行ってくる」
「は?」
「ちょっと、コマの様子を見に行ってくる」
「い、いやいや……待ちなさいマコ。わたしたちもそろそろ行かないと授業に遅刻しちゃうわよ」
何だか嫌な予感がする。こうしちゃおれんとコマの後を追おうとする私を、カナカナが肩を掴んで止める。
「は、離してカナカナ。このままじゃコマを見失っちゃうじゃないの」
「いや、だからねマコ。授業が……」
「授業と妹、どっちが大事だと思ってんの!?」
「「「あんたの場合は、もっと授業を大事にしなさいよマコ!?」」」
カナカナも友人たちも口を揃えてそんな酷いことを言う。ええぃこの分からずや共め……
「もういい!こうなりゃ強行突破ァ!」
「あ、ちょ…………ま、待ちなさいマコっ!」
「待たぬ!さらばだ!」
このままでは埒が明かないと判断した私は、友人たちを振り切ってコマを追う事に。
私の
「(……今私も屋上に出たら……コマに気付かれちゃうか)」
理由はわかんないけれど、人目を避けるように移動していたコマ。もしかしたらここに来ることを他の誰かに知られたくないのかもしれない。もしそうなら……この場に私が居ると分かったらコマを嫌な気持ちにさせちゃうかも……?
コマがここに来た意図を少しでも把握する為にも、とりあえず今すぐ突入はせずに扉を少しだけ開けて屋上の様子を伺う事に。
『やあ。待っていたよコマちゃん』
『……どうもです先輩』
どうやら屋上には二人の人間がいるようだ。一人は勿論私のコマ。そしてもう一人は………
「…………誰だあの男……?」
「……んー?どれどれ?アタシにも見せなさいマコ。…………あっ!あの人アタシ知ってるわ!サッカー部のキャプテンよ」
「……ああ、あの人か……ええっと、わたしはあんまり知らないけど……確かイケメンでサッカーも上手くて優しくてかっこいいって噂の先輩……だったかしら?」
「そうよかなえ。後輩とかにモテモテだって。ウチの部活の後輩たちも憧れてるって言ってたもん」
へぇ……それなりに有名人なのか。私は全然知らんかったけどね。でも……そんな人が一体コマに何の用―――
「って、ちょっと待てい」
「「「……?何よマコ」」」
「……何故キミたちもここにいるんだい?」
いつの間に来たのやら、私と一緒に屋上の様子を出歯亀しているカナカナや友人たち。私が言えた事じゃないけど、授業はどうした授業は。
「へ?いや何故って……そりゃわたしはマコが心配で―――コホン。いや、マコがまた暴走しないか心配で仕方なくついてきてやったのよ。感謝なさいマコ」
「アタシは何だか面白そうだったから来ちゃった♡」
「右に同じく。ま、例えウチらが授業に遅れても『マコがおかしな行動していて、それを止めるのに遅くなりました』って言えば、きっと先生もわかってくれるだろうし問題ないから安心してねマコ」
「…………キミたちはさぁ」
カナカナはともかく……人には授業が大事だとかなんとか言って注意してたくせに、こいつらは……
まあ、こいつらの事はどうでも良い。今はそんな事よりも、屋上の様子を探る方が先だ。再び扉の隙間からコマたちの様子を眺めつつ聞き耳を立てる私。
『悪いね、こんな時間に呼び出してしまって。お昼や放課後だと君のお姉さんが邪魔―――もとい、君のお姉さんの監視の目が光っているからどうしても今じゃなきゃ落ち着いてコマちゃんと話せなくてね』
『は、はぁ……』
コマに対してそんな事を言う名も知らぬ先輩。何の話かわからんが……お昼や放課後に私の監視の目が光ってるだって?
ハハハ、どうか安心してほしい。今この時だってちゃーんと目ェ光らせてますよ先輩。
『…………さて。前置きはこのくらいにして本題に移ろうか』
と、一度大きく深呼吸した後にそう切り出す先輩さん。
『君の机の中に入れておいた手紙は……ちゃんと読んでくれたかな?』
『あー……はい。一応……』
「(…………手紙?)」
……コマに、手紙……だと?なんだそれは……?初耳だぞ……!?
「(いや待てよ……?机の中に入れておいた手紙……(本来なら)私の監視の目が届かない時間と場所。そしてこの如何にもなシチュエーション…………まさか……まさか!?)」
今になってふと、ある事を連想してしまう私。その私の連想を裏付けるように、その先輩はこう続ける。
『……手紙に書いていた通りだよ。改めて言わせて欲しい。立花コマちゃん―――俺は、君の事が好きだ。どうか付き合って欲しい』
『…………』
「(こ、これってやっぱり…………)」
「「「(告白……っ!?)」」」
外野で聞いていた私たち全員に、衝撃走る。こ、こここ……コマに、告白だぁ…………っ!?
「や、やだ……アタシ人が直に誰かに告白してるところなんて始めて見ちゃったわ……」
「しかも美男子が美少女に告白って…………凄い、絵的にめっちゃ映えるわぁ。……や、ヤバい照れる……全然自分には関係ないハズなのに、見てるこっちまでドキドキしてきた……」
先輩のその告白に、友人たちは興奮しながら囁き合い。
「…………(ギリィ)」
「……ちょ、マコ……落ち着いて。冷静になりなさい。間違っても怒りで我を忘れてあの場に乱入とかしないでよね……」
「…………ハハハ。ダイジョウブ………そんなこと、するはず、ないじゃない。………コマのお返事を……邪魔するわけには、いかないでしょう?…………そう、ダイジョウブ……私は、とても冷静だよ、カナカナ……」
「本当に冷静な奴は憎々し気にあの先輩を睨んだり、唇を噛みしめすぎて血をダラダラと流すほど怒り狂ったりはしないわよ……良いからちょっと深呼吸なさいマコ……」
この私は何とか飛び出さないように自分で自分に『ビークール』と言い聞かせ、そしてカナカナは飛び出しそうな私を宥めつつ抑えつけてくれる。
が、我慢だ……我慢しろ立花マコ。……せめてコマからのお返事を聞くまでは冷静さを保て……
『……ありがとうございます、先輩。こんな私の事を好きになってくださって……とても嬉しく思います』
『!そ、そうか!なら―――』
扉を挟んだその先の私たちのそんなドタバタ騒ぎなど知る由もないコマは、静かにその先輩に対してハッキリ一言こう告げる。
『ですがごめんなさい。お断りします』
『…………え』
「っしゃあ!ザマァあああああああ!!!」
「「「バッ!?……ま、マコ声大き過ぎ……!き、聞こえたらどうすんのよおバカ!?」」」
慌てた友人たちに口を押えられながらも、思わず叫びガッツポーズしちゃう私。ふ、フハハハハ!よーしよし!よくはっきり断ったコマ!そして…………残念だったな名も知らぬ先輩よ!高嶺の花だったと諦めな!
『…………え、ええっと。こ、コマちゃん?それは……それは、どうしてなのかな……?俺って……そんなに魅力ないかな……?』
こっそりと歓喜の舞を踊る私をよそに、断られた先輩は未練がましく断られた理由をコマに問う。
『いえ、先輩のお噂は聞いています。サッカー部の優秀なキャプテンで、部の皆さんからの信頼も厚く……明るくてカッコいいとても魅力的なお方だそうですね』
『そ、そうかい……?だったらどうして……』
『…………(ボソッ)でも……私には、先輩以上に。いえ、世界中の誰よりも……魅力的だと思える人が……傍にいますから……』
こちらからは聞こえない小声で、コマが先輩に何やら呟く。その呟きに目を丸くして動揺する名無し先輩。
『そ、そんな奴が……いるの……!?こ、コマちゃんがそこまで言う程の奴が……!?い、一体誰なんだそいつは……!?』
『……えと。それは、そのぅ……』
『…………いや、良いさ!誰だろうと関係ない!コマちゃん、俺は諦めない……!この俺がそんな奴の事忘れさせてあげるよ……!』
『ちょ、ちょっと先輩…………だ、ダメですって……ゃ、やぁ……』
「~~~~~~っ!!?!!!」
「「「な……っ!?」」」
断られて業を煮やしたのか。その先輩は腕力に物を言わせ、一方の手でコマの手首を掴み取り……そしてもう一方の手を壁に押し当てコマに無理やり迫る。…………ほう。
『わ、わわわ……こ、これ……これは……!いわゆる壁ドンってやつじゃなの!?』
『うわー……うわー……!凄い、凄い!な、生の壁ドンなんてアタシ初めて見ちゃった……!先輩ったらちょーダイタン……』
『な、なんて強引な。あの先輩、命が惜しくないのかしら……?そんな事をしたら当然マコが黙ってな―――って。あ、あれ?ちょ、ちょっと待って?ま、マコ?マコ……っ!?ねぇちょっと二人とも!?マコはどこ行った!?』
『『え?』』
その光景を見た次の瞬間。抑え込んでいた抑制が見事に吹き飛んで、本能の赴くままに突入する私。先に手を出したのは、向こうの方。ならば遠慮も加減も必要ないだろう。
今まさにコマの唇を狙おうとするヤロウのわき腹にロック・オン。力強く地面を蹴り、高く飛び上がり……空中で両足を揃え……そして。
「クタバレぇええええええええ!!!」
「グボホォ……!!?」
「っ!?え、ええ!?ね、ねねね……姉さま!?」
その先輩に、気合を入れた渾身のドロップキックをプレゼント♡強烈な私の不意打ちを喰らった先輩は、ゴロゴロ転がってからその場で悶絶する。そんな先輩をスルーして、コマに駆け寄る私。
「コマ!ああコマ……ゴメンね!お姉ちゃんが近くに居ながら、こんなに怖い思いをさせちゃって……!大丈夫!?酷い事されてない!?」
「え、あ……はい。わ、私は大丈夫なのですが……それよりも何故姉さまがここに―――」
「って……ぬ、ぬぁあああああああああ!!?ちょ、ちょっとコマ!?て、手首……手首が赤くなってる!?掴まれたところが赤くなってるじゃないの!?」
慌ててコマが無事なのかを確認すると……コマの雪のように真っ白で美しい球の肌が赤くなっている。こ、これ……そこで転がっている奴に掴まれた時に内出血を起こしたのか……!
「へ……?あ、はい。そうですね……で、ですがこれくらいなら大したことはないですし、心配せずともすぐ治るかと……」
「お、おのれ見知らぬ男…………やりやがったな畜生め……!クタバレ!あの世で詫びろキサマぁあああああああ!!!」
「ちょ、姉さま!?」
ヤロウ……超えてはならぬ一線を越えやがった……!完全にプッツンした私は、未だわき腹を押さえて悶絶しているヤロウに組み伏せてマウントを取り、力いっぱいぶん殴る。
これはコマの分……!これもコマの分……!!そしてこれも全部コマの分だ……っ!!!
「ま、マズい……案の定こうなった……!?ふ、二人とも!わたしがマコを止めるから、二人は急いで先生たちを呼んできて!このままじゃあの先輩、マコに殴り殺されかねないわ!?」
「「わ、わかった!すぐ呼んで来るわ!!」」
「ね、姉さまおやめください……!大丈夫!私はこの通り大丈夫ですので!これ以上はマズいですって!?」
「コマちゃん!このバカ止めるよ!そっちの腕押さえといて!わたしはこっちを押さえておくから!」
「あ……はいっ!わかりました!」
「ぬぁ!?は、離してコマ!それにカナカナも離せ!こ、この罰当たりにはきつく裁きの鉄拳を喰らわせないと……」
「も、もう充分!充分です姉さま!わ、私の事なら心配いりませんから!ね!ねっ!」
「コマちゃんもこう言ってるんだし、いい加減落ち着きなさいってマコ!」
「はなせ……離せぇええええええええ!!!」
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