第61話 ダメ姉は、殴りかかる

「―――さて。次で連絡事項は最後になる」


 私のコマを守るために必要な私物を無慈悲に取りあげ持ち物検査を済ませた私たちの担任の先生が、没収品を収めた箱を片手にこう告げる。


「……さっきそこの立花ダメ姉が『最近女性や子供を狙った犯罪が増えている』などとほざいていたが……実際のところその話もバカには出来なくてな。実は一週間前、二人組の不審者がこの付近に住む帰宅途中の中学生に対して声をかけ車に乗せようとする事件があったんだ」


 全く嘆かわしいと言わんばかりに溜息を吐いて先生は話を続ける。


「その様子を偶々見ていた近所の方が慌てて叫んだのが幸いして、何もせずにその不審者共は逃げ出したそうだが……未だにそいつらは捕まっていないらしい。九月に入り、段々と暗くなるのが早くなりつつある。だから皆、帰宅の際は気を付けて帰って欲しい。特に部活で遅くなりそうな生徒たちは極力複数人で帰ったり、防犯ブザー等の対策をするんだぞ」

「んな……!?」


 皆に向かってそんな事を言い出す先生。なん……だと……?ちょ、ちょい待ち……防犯グッズ持ち込みOKだと……!?


「だ、だったら没収品返してください先生!あれは防犯グッズ!防犯グッズです!ですので没収する必要は全く無いと思います先生ッ!」

「やかましい立花。どう考えてもあれは防犯グッズの域を超えておるわ。寧ろ貴様がストーカーと化しておるわバカ者め。―――コホン。とにかくだ。皆はくれぐれも帰り道などには気を付けるように。以上でホームルームを終了する。解散」


 最後まで諦めずに先生の元に駆け寄って何とか食い下がろうとした私だけれど、聞く耳持たんと言いたげに先生は私を振り切りさっさと教室を後にする。

 後に残った私はへなへなとその場に崩れ落ちてしまう。く、くそぉおおおお……!


「(ダァンッ!)ぬぉおおおお……いかない……納得、いかない……!何故に没収されたのさ……っ!?」


 鞄に入っていたありとあらゆる私物を没収され、うずくまり床を叩いて涙を流す私。何故……何故だ……!全部妹のコマの為に必要な物だとあれだけ力説したのに、なぜ理解をしてくれないのですか先生……!

 大体そんなヤバい事件があったのなら、尚の事と没収される理由がわかりませんよ先生……!?つーか、あれ全部死ぬほど高かったのにィ……!


「何故にって……没収されて当たり前じゃないの。アンタって子はホントにダメよねマコ……反省しなさい反省」

「そりゃ先生も問答無用で没収するに決まってるよね……見方によっては盗撮に盗聴、それから拉致監禁グッズがてんこ盛りなんだもん……」

「お前さぁ……仮にも風紀委員みたいな役職してんだしさぁ……ちょっとは風紀を守れよな立花」


 崩れ落ちた私の周りを友人たちが取り囲んで、慰めるどころか私に追い打ちまで駆ける始末。おのれ……私の味方はコマだけだとでもいうのか……!


「失礼な!妹の貞操ふうきは私が守ってるもん!没収された物は全部コマの貞操ふうきを守るための物だったのにィ……!」

「「「お前が一番妹の風紀を乱しているわ、このダメ姉が」」」


 久しぶりに会ったのにゴミを見る目で私に冷たく言い放つ友人たち。……どうして君たちも私のこの熱き想いをわかってくれないんだ畜生め……!


「……ぐぬぬ……ま、まあ仕方ない。没収されたものは潔く諦めよう。また今度買い直せば済むだけだもんね!…………デジカメのメモリーカードだけは何とか回収しなきゃだけど……」

「ダメだコイツ……全然潔く諦めてないぞ……つーか全然反省しちゃいねぇぞ……」

「まー、マコらしいといえばらしいけどね」

「そうね。夏休みが明けてもダメ姉はダメ姉で……なんかある意味安心したわ」


 他は買い直せば良いだけだから替えが効くわけだし……せめて……せめてデジカメの内部データだけは返してもらえないか帰りにもう一度先生と交渉してみるとしよう。

 今朝撮ったばかりのコマの美しくも愛らしい一枚が収められているわけだし、あれだけは何としてでも奪還せねば。交渉が上手くいかなければ最悪こっそり職員室に忍び込むとして……


「あ、あの……突然申し訳ございませんAクラスの皆さん。2-Bクラスの立花コマです。マコ姉さまはいらっしゃいますでしょうか……?」

「っ!」


 そんな事を目論んでいた私の耳に、天使の声が聞こえてきた。見上げてみると教室の扉の前に、我が最愛の妹であるコマが佇んでいるではないか。


「はぁいコマ、いらっしゃーい!遠慮せずに中にお入り♡」

「あ……姉さま♪」

「「「は、はや……っ!?」」」


 一秒でもコマを待たせるわけにはいくまい。コマを視認した瞬間床にうずくまっていた私は即立ち上がりコマの元へと馳せ参じる。


「え、ちょ……速すぎない!?い、いつの間に一瞬で妹ちゃんのところまで移動したのマコ……!?」

「み、見えなかった……移動したの全然見えなかったわよ!?人間なのあの子!?夏休み前よりも速くなってない……!?」

「待て待て待て……!?それ以前に俺ら立花を取り囲んでたのに一体どうやったらこの包囲網を通り抜けて妹のところまで移動出来るんだよ!?瞬間移動か何かか!?」


 そんな私のさらに洗練された動きに驚愕する友人たち。ふふん……これも妹への愛の為せる業よ。


「まあ、それは置いておくとして……お疲れコマ。どうかしたの?」

「姉さまもお疲れ様です。いえ、何だかさっきのホームルームの時間に姉さまの悲痛な叫び声が聞こえた気がしたので。……大丈夫ですか?何かありました?」

「…………あ、ああうん……特に何にもなかったよ。ゴメンね、ちょっとお姉ちゃん騒いじゃって担任の先生に怒られちゃっただけなんだよ。だからコマは気にしないで。大丈夫大丈夫」

「そう……ですか?なら良いのですが」


 心配そうに私に対してさっきの騒動について尋ねるコマ。……流石に『いやぁ、実はコマの為に用意してた防犯グッズを先生に没収されちゃってさー』なんて正直に白状して、コマに(色んな意味で)心配をかけるわけにはいくまい。そう思って爽やかな笑顔で誤魔化す事に。


『……何にもなかったとかよくもまぁ、あんなに平然と言えるよな立花の奴……』

『……コマちゃんの身の安全は全然大丈夫じゃないのにね……主にマコが大丈夫じゃないのにね』

『……実の姉が変態で盗撮&盗聴の常習犯だってコマさんが知ったら一体どうなるんだろうな……』


 シャラップ外野共。コマに聞かれたらどうしてくれるんだ。


「と、ところでコマ?何か私に用でもあるのかな?もしかして騒いでた事を心配して来てくれただけだったりする?」


 周りの連中のひそひそ話を何が何でもコマに聞かれないように大きな声で話を逸らす私。

 するとコマはちょっぴり申し訳なさそうにしながらも、おずおずと私にこんな事を告げ始めた。


「あ……えっと……勿論その事も少々心配で様子を見に来たわけですが……それだけじゃなくて……」

「ん?それだけじゃない?」

「は、はい……その……姉さまに少し相談したいことがあってですね……」

「へ……?」


 ……相談……?コマがこの私に……?それはまた珍しい。基本的に何でもできるコマだし、多少の困難も普段なら私に相談するまでも無く自己解決出来ちゃう子だから相談事なんてあんまりしないもんね。

 私としては普段からどんな些細な事でも遠慮せずに姉である私にいっぱい相談してくれると嬉しいんだけど。……ダメな私が、コマでも解決できない問題の力添えが出来るかどうかはちょっと怪しいところだけれど。ま、まあそれはともかくとしてだ。


「うんいいよー、何でも言ってねコマ。どんな相談があるのかな?」

「ありがとうございます姉さま。……その、実はですね―――」

「待ちたまえ。そこから先はこの私が話そうじゃないか、立花コマ君」

「……ん?」


 と、コマが私に相談内容を話そうとした矢先。コマをフルネームで呼びながらコマの背後からぬっと唐突に人影が現る。現れたその人は他の人と比べて背の高いコマよりも頭一つ大きなスラリとした女生徒。

 声は全然聞き慣れてない声だし……ましてはあまり見慣れた顔でもない。……いや、多分どっかで見たことある気はするんだけど……誰だこの人?少なくとも同学年の子じゃないと思うんだけど……


「姉さま。こちら、三年生の陸上部の部長さまです」

「あ、ああそう……陸上部の部長さんね……」


 と、怪訝そうな顔をしていた私に気付いたコマが真っ先にその人の紹介してくれる。……そっか、陸上部の部長か。そういや各部活の協議会とかでこの人を見かけたことがあったっけ。

 ……それにしてもわからん。運動神経抜群なコマならともかく、何故陸上部の部長がこの私に話があるんだろう……?部費関連の話とかか……?


「立花マコ君だね。こうして面と向かって話をするのは初めてだろう。よろしく頼むよ。やはり噂通り双子なだけあってよく似ているな君たちは」

「は、はぁ……あ、立花マコです。こちらこそよろしくお願いします。……えっと。それで?その陸上部の部長さんが私に何の御用ですか?」


 求められるままその部長さんと握手をする私。とにもかくにも話を進めるために、部長さんに何の用があってコマと一緒に来たのかを尋ねる事に。


「うむ。話が早くて助かる。実は一つ君に頼みがあって立花コマ君と共に来たのだよ」

「頼み……ですか?私に?それって一体……?」

「いや何。それ程大した話では無いから、そう緊張せずに安心して聞いてくれたまえ立花マコ君」


 あまり交流の無い一学年上の先輩直々の相談なだけあって少し硬くなっていた私だけれど、陸上部部長は堂々とした態度で私にそう告げてくる。

 ふむ……大した話じゃない、か……なら気楽な気持ちで聞いてみるとしようかな。


「わかりました。それで……その頼みって何ですか部長さん?」

「それなんだがね立花マコ君。お願いだ―――






「戦争じゃゴラァあああああああああッ!!!」


 その一言に、思わず近くにあった椅子を持ち上げて殴りかかる私。何が大した話じゃないだコラ。


「ねっ、姉さま!?ど、どうなさったんですか姉さま!?」

「バ、バカ!?落ち付きなさいマコ!?いくら何でも椅子はマズいってば!?」

「ヤベーぞ、ダメ姉が発狂した!だ、誰かロープ持ってこいロープ!」

「ぶ、部長!ちょっとそいつから離れて!?危険ですので早くっ!!」

「……?立花マコ君も諸君らも、一体どうしたんだい?」


 そしてその私を懸命に止めるコマ&クラスメイト達と、きょとんとした顔の爆弾発言をした張本人である陸上部部長。えぇい……離せ……離せェ!

 コマを嫁にくださいとか……いくら一学年先輩といえど、お姉ちゃん絶対許しませんよ……!せめてその台詞、この私を倒してから言って貰いたい……!


「あ、あの姉さま……何かとんでもない誤解を招いていると思うのですが、ご安心ください。恐らく姉さまが考えているような事では無いのです」

「…………本当に?」

「はい本当です。……部長さまの言い回しは紛らわしいですし、ここは私が最初からきちんと説明しますので。どうか落ち着いて話を聞いてくださいませ姉さま」

「…………ぐぅ……こ、コマがそこまで言うなら話は聞くけど……」

「ふむ?待ちたまえ立花コマ君。私が何か可笑しな事でも言ったかね?私はただ単に―――立花コマ君が欲しいと言っただけで」

「フシャァアアアアアアアアッ!」


 こ、こここ……コマが欲しいだとォ……!?この人、やはり私の敵だ……!


「だから落ち着きなさいってマコ!?」

「いかん……立花のヤツ、人語が話せなくなるほどブチ切れてやがる……」

「ちょ、ちょっと!?ロープ千切れる!千切れちゃうわ!?皆、もっとしっかりこの子の事取り押さえて!後、誰か追加のロープ持って来て!もっと頑丈な奴!」

「…………部長さま。話がややこしくなるので、お願いですから私が良いと言うまではしばらく黙っていてください……」

「ふむ?それはまた何故かね立花コマ君?」

「フーッ!フーッ!!…………フシャァアアアアアアッ!!!」



 ◇ ◇ ◇



 数分後。クラスメイト全員に取り押さえられ、どこから持ってきたのかロープや鎖でぐるぐる巻きにされ無力化させられた私。

 その状態でコマがここに陸上部部長と来た経緯をゆっくり丁寧に私でもわかりやすいように説明してくれた。


「…………陸上部の……助っ人……?コマが……?」

「は、はい。そうなのです。それをこちらの部長さまと陸上部顧問の先生に頼まれまして……」


 コマから聞いた話をまとめてみると……こういう事だそうだ。今月の半ば、我が校の陸上部は陸上競技大会に出場する予定らしい。その大会に向け、夏休みの間も一生懸命練習を重ねてきたそうだが……張り切り過ぎたのかその練習中に部員の一人が足首を捻挫してしまったとか。

 幸いにも軽い捻挫でニ,三週間安静にしておけば完治できるそうだけれど……それじゃあ大会には間に合わない。その捻挫した部員の出場予定だった競技は個人100mと4×100mリレーで、個人の100mはともかくリレーに出場できないという事は他三人の出場予定選手もリレーに出場出来なくなってしまうという事で……


「そこで白羽の矢が立ったのが……コマだったと?」

「ええ。そのようですね」


 折角の大会に出場できないのは勿体ないと判断した陸上部顧問&ここにいる部長さん。その捻挫した生徒並みに足の速い、代わりに出場できる者は居ないのかと部内外を問わず探していたところ―――目をつけられたのがこのコマだった。

 陸上部に所属しているわけじゃないけれど、うちのコマはいくつかの大会で賞を取っているだけあって文句無しに足が速い。そりゃ目もつけられるよね……


「しかも捻挫された方は私のクラスメイトで二年生でして……『私は二年生だし、今年がダメでも来年出場すれば良いけれど……それよりも今年引退のリレーに出る三年生の皆さんに迷惑をかけられないの。だから出来れば私並み―――いいえ、私以上に足が速い立花さんに出場して欲しいの!この通りよ、お願いっ!』という、強い後押しがあったのです。……他の陸上部の皆様も、満場一致で私に出て欲しいと……」

「な、なるほど……」


 少し困った表情でコマがそう続ける。まあ私も捻挫した子と同じ立場だったら、迷わずコマを助っ人に推薦するわな。

 …………ふむふむ。大体分かった。……でも、だったら―――


「じゃ、じゃあついさっきそこの部長さんが言った『妹の立花コマ君を、私にくれないか?』とか『立花コマ君が欲しい』って発言の意味って一体……?」

「む?意味とな?それは勿論―――『妹の立花コマ君を、私にくれないか?』『立花コマ君が欲しい』という意味だが……それが何か?」

「紛らわしいですよ!?」


 部長さんがしれっとした顔でそう宣う。な、なんだそんな意味かい……てっきりコマを嫁にくれ的な意味かと思ったじゃないか。

 ……部長さんや、肝心な部分の言葉が足りなさすぎると思うのですがね。


「っていうか良いんですか部長さん?コマ、生助会役員で陸上部部員じゃないんですよ?大会規定とかその他諸々でダメ出しされたりとかは……」

「何も問題ないのだよ立花マコ君。陸上競技大会とはいえ、必ずしも陸上部の部員である必要はないんだ。大会出場前に出場選手の登録さえしておけばね」


 へぇ……結構ゆるゆるなのか。大会の規定ってもっと厳しいのかと思ってたよ。ま、問題にならないなら良いや。


「ええっと……まあ事情は大体わかったよ。……それで?どうしてコマはその事を私に相談しに来たのかな?こういうのは本人の意思が一番大事だろうし……コマが自由に出るか出ないか決めて良いんじゃない?」

「ぅ……え、ええっと……それはそうなのですが……」


 話自体はわかったけれど、すると今度はどうしてコマが私に相談しに来たのかがわからない。

 陸上の事は私にはさっぱりだし……そもそもこういうのは別に私の許可が必要ってわけでも無いと思うんだけど……


「いえ……その……も、もしも大会に出るのであればですね、朝練や夕方も練習しなきゃならないじゃないですか」

「うん、まあそうだろうね。それが?」

「そうなったら……生助会のお仕事をあまり出来なくなってしまいますし、姉さまに迷惑かかると思って……」


 ……ああなるほど。私を思っての相談だったのか。これはまた優しいコマらしい行動でお姉ちゃん嬉しいなぁ……


「そういうわけでして、一度姉さまに相談しなきゃと考えてこちらに伺った次第です。……それで、どうでしょうか姉さま。私、どうすれば良いと思いますか?」

「そっかそっか、そう言う事だったんだね。気を遣ってくれてありがとコマ。……でも、生助会の―――というか、私の事なら心配いらないよ。九月は別段忙しいわけじゃないからね。……私の事よりもさ、さっきも言った通り大事なのはコマがどうしたいかだよ。大会、コマは出たいの?それとも出たくないの?」


 けれどそれとこれとはまた別問題。私なんか気にせず自由に出る出ないは決めて良いと思う。そのように助言すると、コマは少し難しそうな顔で考え始める。


「…………正直迷っています。走る事自体は嫌いじゃありませんし、顧問の先生にも部長さまにも……捻挫をされた方にもあれほど真摯に頼まれた手前、力添えしたい気持ちは勿論あります。ですがいくら推薦されたとはいえ、陸上部部員でもない者が他の皆様を差し置いて出場するのは些か抵抗がありますし…………(ボソッ)それに何より、姉さまと一緒にいられる時間が減るのはちょっと……いいえ、凄く嫌だなって思っていますし……」

「……?ゴメン、最後の方聞き取れなかったんだけど……今なんて?」

「い、いえ……独り言ですので、お気になさらず……」


 (ちょっと色っぽい)悩まし気な顔で、コマはブツブツと何やら呟きつつ考え込んでいる。まあ『出る出ないは自分で自由に決めなよ』とは言ったものの、いきなり『大会に出てくれ』なんて頼まれたらそりゃコマも悩むよなぁ……何か他に私にアドバイスできる事があれば良いんだけれど……


「…………あのぅ……姉さま。参考までに一つ聞いても良いですか?」

「おっ?なになに?一つ二つと言わずに、遠慮せずじゃんじゃかお姉ちゃんに聞いてね!」


 と、ちょうどそんな事を考えていた私にコマが質問をしてくれる。さあ来たまえコマ。参考になるかはわからないけれど、私に答えられる事なら何でも答えて差し上げようじゃないか。


「姉さまは……その。私の走る姿、見たいですか……?」

「へ?コマの……走る姿……?」


 コマに言われて想像もうそうしてみる。コマの走る姿……か。んーと……そうだねぇ……


 陸上の大会に出るのであれば、きっとユニフォームを着ることになるのであろう。陸上のユニフォームといえば……特筆すべきはセパレートタイプでへそ出しだという事実だ。一秒でも早いタイムを出すためにお腹を出し、更に空気抵抗が少しでも少ないように薄くピッタリと身体にフィットするように作られたトップスとボトムスはほとんど水着といっても過言ではない。

 そんな傍から見たらちょっとエッチで過激なユニフォームを着て、汗だくになりながらも一生懸命ゴールへコマが走るのだ。へそ出しだからこそ見えるコマの引き締まった腹筋……生で拝められる鍛えられた脚・太もも……汗で張り付くユニフォームの下で自己主張するコマの美乳……それはきっとキラキラと眩しく輝いて見えることだろう。


 そんなコマの走る姿を見たいのかだって……?そんなの―――


「―――見たい。そんなんめっちゃ見たいに決まってるじゃないの……」

「部長さま!私、出場します!リレーも、それから100mの方も!」

「……へっ?」


 と、ポツリと私がそう呟いた瞬間。あれほど悩んでいたハズのコマは大会出場を決めた。あ、あれ?良いのコマ……?そんなにあっさり出る事を決めても……


「おぉ……!それはありがたい。助かるよ立花コマ君」

「いえいえ。やはり人助けは大事ですものね!お任せくださいませ!…………それから姉さま!」

「う、うん?何かなコマ?」

「見ていてくださいね……私の勇姿を……!出場するからには必ず……必ずや勝利を姉さまに捧げますので……!」


 急にどうしたことだろう。珍しく目に見えてコマの瞳が燃えあがっているではないか。そ、そんなに走りたかったのかな……?


「そ、そっか。うん、わかった。コマが出るからには私も全力でコマを応援するからね」

「はいっ!ありがとうございますっ!」


 何が切っ掛けになったのかはよくわからんけど……まあともあれこんなにコマがやる気を出しているんだ。私も姉として応援やバックアップをするとしようじゃないか。

 そんなわけで。スポーツの秋に相応しく、陸上競技会に出場する事になったコマ。この日から大会に向けコマの猛特訓が始まったのであった。

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