エチュード
長芦ゆう
白衣の男
「ようこそ、おいでくださいました。どうぞ、ご着席ください。」
何の建物かわからなかったが、ふらりと入ってしまった私を出迎えたのは、白衣の男だった。
私が椅子に座ると、男は箱から何かを取り出した。
「ここに、電池があります。そして、こちらに電気回路と、電池ボックスがありますね。プラスとマイナスの向きに気を付けて、電池を入れてみます…。すると、ほら!回路に電流が流れて、豆電球に明かりがつきました。実験は成功です!」
なんの変哲もない、電池の実験。
ただそれだけだったが、男は満足げに笑みを浮かべていた。
もちろん、私がお金を要求されるようなことはなかったが、こちらは特に何も得るものが無かったことを思うと、どこかやるせない気持ちになってしまった。
「ありがとうございました。」
男は、私に向かって感謝の意を述べたが、何に対して言われたのかはわからなかった。
私は何も言わないまま、その建物を出て行った。
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