12月のダイアリー 2

11月6日(水) 曇り


今日もみっこは学校に来なかった。

顔に怪我もしていたし、来れるわけがないかも。

川島君とみっこと別れたのは、もうずいぶん昔のことのように感じるけど、まだ2日しかたっていない。


夜が長い。


昼間は学校に行ったり、友だちと話をしたりして気が紛れるけど、夜、ひとりで部屋にいると、恐ろしい空虚感に襲われてしまう。

なんだか、自分の心のなかが、空っぽになってしまったみたい。

思いつく友だちに電話をして、空っぽの心を埋めようとするんだけど、埋めても埋めても、満たされることはない。



昨日、みっこにひどいことを言ったことを反省したりもしたけど、どう考えてもやっぱり、あのふたりのしたことを、わたしは許せない。

川島君が東京に行って、みっこと仕事をしたのは、仕方がない。

そのあとふたりで会ったりしたことも、まあ、許せたとしても、ふたりともそれをわたしに言わないってのは、いったいどういうこと?

春にモルティブに行った頃から、みっこは川島君のことが好きだったはずだから、罪悪感があって言わなかったってのも、わからないこともない。

だけど、川島君までわたしに黙っているなんて、みっこに対して、なにか下心があったと思われても、仕方ないじゃない。

それを、『モデル』のひと言で誤魔化そうとするなんて、なんて卑怯なやり方。

思い出すだけで、腹が立ってくる。


川島君は高校時代から、『来るもの拒まず』のところがあったから、みっこみたいなかわいい子が寄って来るのは、大歓迎だったんじゃないの?

わたしがいないのをいいことに、みっこと二股かけて、美味しい思いをしようなんて、なんだか幻滅。

そんないい加減な人とつきあってきたのかと思うと、なんだか虚しくなってくる。






11月7日(木) 晴れ


みっこはやっぱり学校に来ない。

学校では、『文化祭の夜に、みっこが池に落ちた』って話でもちきり。

『ファッションショーの打ち上げに、みっこが出られなくなった』って、ナオミやミキちゃんにことづけを頼んだときには、その理由なんて言わなかったのに、どうしてそんな話が広まってるんだろう?


そう言えば、わたしたちがみっこを駐車場に連れていくとき、数人の知り合いに出くわした。

『どうしたの?』って訊かれて、わたしは『みっこが池に落ちたから、着替えにいくところ』って答えたんだっけ。

たったそれだけだったのに、もうこんなに噂が広がっている。


噂って、怖い。



昨日は川島君のこと、ひどく書いたけど、あれからまた、いろいろ考えてみた。

『来るもの拒まず』ってのも、川島君のやさしさの現れかもしれない。

川島君はとっても社交的だし、人との繋がりを大切にする人。

それでいて、自分の世界を大事にしていて、他の人がそこに踏み込んでくることを、極端に嫌うところがある。例えそれが、恋人のわたしでもだ。

ある一線を越えて、川島君の世界に土足で入ろうとすると、彼はいきなり冷たい態度に出ることが、今まで何度もあった。

東京に行くと言い出したときも、小説コンクールで佳作に入ったときも、わたしたちは激しくケンカした。

『みっこをモデルにして写真を撮りたい』って、もし、事前に川島君が言ったら、わたしは多分、嫌がっただろうと思う。でも川島君は、みっこをモデルにすることを諦めないだろう。だからきっと、ケンカになった。


そういう自分の性分とわたしの性分を、あの人もわかっているから、わたしとのいさかいを避けるために、みっこのことも敢えて言わなかったのかもしれない。

自分の作品づくりとわたしとのつきあいを両立するため、川島君はやむをえず、わたしにないしょにする道を選んだのかもしれない。


それって、善意に解釈しすぎ?


つづく

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