第37話 千思万考

 ―― 『アインティーク』に向かう朝


 「テレジア 行くぞ」

 「うん!」


 俺とテレジアは、宿のおばちゃんに挨拶を済ませ中央広場の先にある惣菜屋で

 食い物を買い込んで『アインティーク』行きの厩舎へ向う。


 「おはよう」

 「やあ 予約のお客さん おはよう」

 「あれ? そんなに人いないんだね」

 「もう少し時間あるからね」

 「そっか」


 俺とテレジアは、宿屋の前のパン屋で買ったミルクとパスタパンを食べながら

 発車するのを待つ。


 「ねえ ケイゴ」

 「ん?」

 「『魔獣』狩りするのよね? だったら一緒に防具買いましょうよ! 防具」

 「防具? 俺はこのままで いいんだけど」

 「『アインティーク』にしか売ってない防具があるのよ」

 「なに?」

 「シールドコートよ! ほら 『カナル』からの乗り合い馬車で 二人組みの

 冒険者いたでしょ? その一人が着ていたコートよ」


 「……ああ あのコートか あれはいらねえだろ? 糞暑いぞ」

 「シールドコートはそんな暑くないわ 本当に皮と裏地しか無いから 軽いし」

 「ふーん」

 「シールドコートは魔法防御が付与されてるのよ この先『魔獣』が魔法を

 使うケースも出てくるから準備はしといて損はないわよ」


 「『魔獣』が魔法使ってくるのか それ面倒臭いな……」

 「普段は着なくてもいいから買えるなら買っといたほうがいいわよ」

 「シールドコートは コートしか無いのか?」

 「え? どういう事?」

 「例えば ベストとかグローブとかってあるのか?」

 「ああ! あるわよ ベストもグローブもあるわ」


 「コートでいくらくらいする?」

 「前は 金貨二十五~二十八枚だったわよ」

 「たっか! 高くね?」

 「まあ それだけの装備だしね この国では『アインティーク』の店しか取り

 扱ってないのよ」


 そんな話をしているうちに、俺達が乗る一号車は満席になり出発になった。

 客は女がテレジア入れて三人で俺を含めて九人、合計十二名の乗り合いだ。


 「『アインティーク』出発します 出ますよー」


 武具都市『アインティーク』へ、御者ぎょしゃの掛け声と共に馬車が動き始めた。


 (『アインティーク』で魔法陣が見つからなきゃ、ここに戻ってこないとなら

 ないな……都合良く見つかればいいんだけど…)


 ―― 街道を進む、乗り合い馬車は何事もなく『トヨスティーク』から

『アインティーク』への道のりを半分は超えた何も無い殺風景な場所で休憩を取る

 ようだ。


 「お客さん方ー ここやでひと休みしましょうー 水が欲しい方はどうぞ」


 御者は、荷台から横長の箱を取り出し『カナル』から乗った馬車同様に

『ウォーター』を称えて水を出した。俺達はバケツから溢れ出す水をもらい、手や

 顔を洗うと昼飯にした。すると、何か獣の鳴き声のようなものがした。


 ブオッブゥオオオー


 「何の泣き声だ?」


 俺はテレジアに蒸かし芋を食いながら尋ねた。テレジアは少し嫌な顔して

 答えた。


 「……あれは マジックボアね」

 「今のが Aランク『魔獣』の泣き声か」

 「そうよ 印をつけて渡した地図 まだ持っているでしょ?」

 「ああ! ちゃんと持ってるぜ」

 「そこの印の奥に行くと マジックボアだらけだから間違っても行かない事!」


 「なんで?」

 「魔法が効かない『魔獣』なんだから 二人じゃ無理よ!」

 「……ふーん」

 「確かにマジックボアを専門に狩る 冒険者パーティーも存在するんだけど

 七名くらいで組んで捕獲してるみたいよ」

 「何の為に捕獲してんだ?」

 「前に言わなかったっけ? シールドコートの材料なのよ マジックボアは」


 「たぶん聞いてない」

 「……マジックボアを生け捕りにしてシールドコートを作成してくれる店に

 持っていくと職人が生きたまま皮を剥ぐのよ ……ああ 気持ち悪い!」

 「ほほう それで?」


 「それが出来る職人が そうそういないのよ たぶん二軒くらいね 皮を剥いだ

 後に処分して『魔石』を回収するんだけど『魔石』より 生け捕りされた

 マジックボアが一年位前では 金貨五十枚 で買取してたって話なの」

 「まじか?」

 「……まじよ マジックボアは凄く大きいんだから! しかも物理で動けない

 ようにして ……非力なあたしには向いてないのよ」


 「気にすんなよ ゴリラみたいな女とは一緒にいたくないぜ 俺は 

 とりあえず『魔獣』狩りをしていくんだから 念のため対策だけはしていくか」

 「……ロープは必要ね 最悪武器とかで仕留めるしかないけど 動けない状態に

 したらロープで手と足を縛っとくしかないわ」

 「そうだな それと 冒険者がとうやって捕獲をするか 見てみたいけどな」

 「そうね 他にも何か無いか考えておきましょう」


 俺とテレジアはマジックボアと遭遇した時の対処を考えた。


 「お客さん方ー そろそろ出発しますよ 夕方には到着します」


 御者がそう言うと、再び乗り合い馬車は進み始めた。


 (確か組合でのAランク『魔石』換金は金貨十五枚のはず……プラス生け捕りで

 店に卸せたら七人パーティーでもおつりがくる金額になるな ただ、それだけの

 報酬なんだから捕獲は大変なのかな……ヤバかったらその場で仕留めちゃうか)


 【千思万考せんしばんこう】あれこれ考えても始まらない……

 テレジアもいるしなるだけ危険は避けていこう。

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