第22話 目的


 俺とテレジアは宿屋の階段を上がり、それぞれの部屋の前に立つとテレジアが俺

 に向かって、こう言った。


 「明日はちょっとした買い物に行きましょう あたしが案内してあげるわ」

 「買い物? 俺は何も必要ないぞ?」

 「部屋の中まで靴はいてる気? サンダルや草履に履き替えないと臭くなるわよ」


 そう言ってテレジアは笑った。


 「それじゃあ案内してもらうかな 起こしてくれよ」

 「うん おやすみ」

 「……おやすみ」


 俺は鍵を開け自分の部屋に入った、中は小さな机とベッド。トイレとシャワーは

 一緒みたいだが……暗くて良くみえない。


 (ロウソクだけでも買ってきとけばよかったな…失敗した…)


 そんな事を考えベッドに仰向けになっているとドアを叩く音がする。


 コンコン コンコンッ

 表からテレジアが俺の名前を呼ぶ声がする。俺はドアを開けた。


 「どうした?」


 テレジアは自身の解放した『フラッシュ』からは、光が皓々とさし薄暗かった

 俺の部屋の様子がハッキリ伺えるようになった。


 「やっぱり… ケイゴ あなた『フラッシュ』は?」

 「ないよ? あっ テレジア ロウソクもってないか? あったら貸してくれよ」

 「『フラッシュ』がない? ロウソク? ケイゴ あなた今までロウソクで生活

 してたの?」

 「……いや だって俺… 魔法なんて使えないんだけど?」

 「……え?」

 「そんな事よりテレジア ロウソ……」

 「無いわよ! きちんと説明して! 魔法が使えないってどうゆう事なの? 

 この国の人間なら必ず使えるのよ? おかしいわ!」


 (……んー どうするか…洞窟で倒れていて『記憶喪失』だって言ったほうが

 話は早いし、旅の目的も『記憶を取り戻す旅』って事で説明はつくんだよな……

 そして、指に嵌っている指輪も記憶を取り戻す手掛かりって事でいいんじゃ……)


 これ以上、隠し切れないと感じた俺は自分が『異世界』から来た事と

 長島さんとの『契約』の話以外をテレジアに打ち明ける事にした。


 「テレジア…… 座ってくれ」

 「どうしたの? 説明してくれるの?」

 「ああ……誰にも言うなよ? 約束できるか?」

 「……う うん」

 話を聞く事に少し緊張したテレジアを、机の椅子に座らせ俺はベッドに腰掛け

 ギルベルトの家で目覚めたところから話しはじめた。


 ―― ギルベルトの家で魔法が発動しなかった事や、自分の名前だけしか思い出せ

 なかった事(そこは嘘)も話した。大方、話を終わると俯いて聞いていたテレジアが

 口を開いた。


 「……そう 少し驚いたけど これであたしの質問に あやふやだったのが

 納得したわ……『記憶喪失』なんてなった人…はじめて見たわ…あたしもそういう

 障害が起こる事があるって聞いた事はあるの…何かのショックや見覚えがある物が

 きっかけで記憶を取り戻すことも……」


 (まるで病人扱いだな……まあ、しょうがないか)


 「うん わかったわ 明日その指輪の模様があるところに案内する!」

 「思い出したのか?」

 「いいえ! はじめっから覚えていたわ!」

 「……ああ そう そうなんだ…とにかくそういう訳なんだよ……頼むわ」

 「ええ まかせて あとは魔法よ!」

 「魔法? そりゃ使えればちょっとはかっこいいけど……」

 「組合に行くわよ! 『トヨスティーク冒険者組合』に!」

 「組合? 冒険者組合行って どうすんだよ? まさか このドサクサに託けて

 冒険者登録させる気か?」

 「違うわよ! 『割り札』よ」

 「……『割り札』」

 「そうよ! もしかしたらケイゴ あなた『スキル札』のインストールを

 してないのかもしれないわ!」

 「『割り札』……『スキル札』……なんの事だかさっぱりだわ…」

 「説明するわ ちゃんと聞いてね?」


 テレジアの話はこうだ。この国の人間は十五歳になると、それぞれ『割り札』と

 呼ばれるひらひらした札を冒険者組合で購入し『割り札』を自分の手で切るのだ

 という。「切る」というより「千切る」が正解みたいだ。千切られた『割り札』

 からは炎があがるが、この時の炎の色で自分の「魔法レベル」が確認できる

 らしい。


 「魔法レベル」は弱い順から「白、レベル1」「黄、レベル2」「青、レベル3」

 となるらしい国民のほとんどが「白、レベル1」だという。レベルが上がるほどに

「魔力」が強くなり魔法の威力が跳ね上がるらしい。マナの量もレベルに応じて

 跳ね上がり現状の日常生活では枯渇する事はほとんどないようだ。


 そして自分の「色、レベル」と同じ『スキル札』を購入し千切ると、それに合った

 何系統かの属性魔法が各一つづつ使えるようになる。使える属性は七つで

「火、水、風、地、氷、雷、光」だ。

 火=ファイア 水=ウォーター 風=ウィンド 地=ボム 氷=アイス 

 雷=サンダー 光=フラッシュ と、呪文は固定されている。これらを蓄積

 アイテム「セーブストーン」に魔法を封印する。インストールかリベイションを

 称え必要に応じて使い分けするのだという。


 テレジアの説明はだいたい、こんな感じだったが魔法を知らない俺でも分かる

 ように説明してくれた。


 「だいたい分かったでしょ?」

 「ああ ありがとう……ところでその『割り札』と『スキル札』いくらする?」

 「『割り札』が金貨三枚ね 『スキル札』はレベルで金額が変わってくるけど

 例え青札だったとしても 金貨二枚あれば十分よ!」

 「合わせて 金貨…五枚か…… すっからかんになっちまうよ……なあテレジア

 組合に行く前に『魔石』取ってからにしないか?」

 「しょうがないわね もう 『魔獣』のいるところに案内してあげるわ」

 「おおっ テレジア最高!」

 内心、俺は『魔獣』の情報を自分でかき集めなくて良かったと思って、つい言葉

 に出てしまっただけの 「最高!」だったのだが……

 

 「そっ そお? そんなに褒めても何も出てこないんだからね…」


 (何をそんなに赤くなってんだよ……テレジアさん…本当にそんなんで ナンバー

 ワンホステスだったの?)

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