第9話 風呂最高


 ギルベルトの元で石切り作業の仕事をする事になった俺は、明日分の積荷を

 載せ終わる。


 「よし 今日は終わるか」


 俺に言ったギルベルトは続けて、職人達に向かって大きな声で言った。


 「おーい 今日は終わるぞー」


 職人達は自分の周りにある道具を拾って作業場の建物、休憩所に入っていった。

 ギルベルトも向かうので後をついていく。


 「お疲れさん!」

 

 ギルベルトは職人達を労う。


 「明日から少しの間 手伝ってくれる事になった ケイゴだ みんな よろしく

 頼むぞ」


 ギルベルトがみんなに俺を紹介すると各自己紹介がはじまった。


 「俺はハンスだ よろしくな」

 三十歳くらいだろうか、この中で一番若い。さばさばしてる感じだ。中肉中背。


 「少年 よろしくのう」

 歳は……七十くらいか?みんなから『じっちゃん』と呼ばれているルイス。


 「ブルーノだ よろしく 分からない事があれば聞いてくれ」

 ギルベルトと同じくらいの歳か少し若いくらいだ。体系はギルベルトを一回り

 小さくした感じ。ハンスほど愛想は無いが落ち着いた雰囲気 嫌な感じはしない。


 この他に、馬を持込みで運搬専門の契約従業員のトーマス = エルスター。元貴族

 の家系らしい。一日一回の運搬で五日に一度、馬を休めるため休みを取る。職人達

 も、それに合わせて休むという。他にもコスト削減なのか、忙しい時は臨時で

 運搬を頼めるのが何人かいるらしい。


 「よろしく ケイゴといいます 短い期間ですが お世話になります」


 挨拶を終えると各自、作業場の隅に繋がれていた馬に乗って帰った。


 (…馬通勤か かっこいいな)


 俺とギルベルトは最後に作業場を出た。家に帰る途中、ギルベルトは話した。


 「…… 俺は あの人達に俺は支えられている 家族みたいなもんだ ケイゴも

 仲間や家族が出来たら大事にしろよ」

 「……ああ 大事にするよ…」


 (……お袋 由佳 何してるかな…… )


 『異世界』に来て、初めて家族を思い出した。


 「みんなに『じっちゃん』って呼ばれていたルイスじいさんな あの人は親父が

 切り盛りしてた頃からの職人なんだ 良くやってくれてるよ ブルーノは幼馴染み

 で二つ下なんだか嫁さんや子供も居て、俺のところで職人やってるんだ ハンスは

 早くに親父さんなくしてな お袋さんと妹の三人で暮らしてる じっちゃんは別と

 して ハンスやブルーノは石切り職人で安定した収入が望みなんだろうな まあ 

 みんな何かしらあるんだよ」 


 話を聞いてるうちに家に着いた。玄関の前にあるバケツで手を洗い中に入る。


 「おかえり 大丈夫だったかい?」


 アバナ婆さんが玄関で迎えてくれた。


 「ああ ただいま 大丈夫だよ 身体も順調だよ」

 「本当かい? そのまま風呂入っちゃいな 沸いてるよ」


 俺は、家に入らず風呂へ直行した。風呂場に入り窓を開け湯気を逃がした。桶で

 かけ湯をし湯に浸かる。 思わず声に出た。


 「プハー 風呂最高! 気持ちいいわー」

 「そうかい? 気持ちいいかい よかったよかった」


 俺は、びっくりした!

 アバナ婆さんに聞かれていた。どうやら湯加減が気になったらしい。


 「熱くないかい?」

 「うん 調度いいよ 風呂最高だわ ハハハ」

 「そうかい あがったら中に干してある手ぬぐいで 体を拭きな」

 「うん ありがとう アバナ婆さん」


 しばらく湯に浸かり温まった俺は、手ぬぐいで体を拭き着替えて家の中に戻った。

 テーブルには食事が用意されていて、ギルベルトはすでに飯にかぶりついてた。


 「おう ケイゴ 風呂は終わったか 飯食え 飯」

 「座ってお食べ」

 

 「いただきます」

 

 「なあ お袋 明日からケイゴ うちで手伝う事になったから」

 「大丈夫なのかい?」


 俺の方を向いて問いかける。


 「ああ じっとしててもしょうがないし……旅の資金も欲しいから…」

 「旅? 一体どこに行くんだい? 」

 

 「まあ落ち着けって お袋 ケイゴだって色々考えているんだ俺達は出来る事を

 協力してやればいいじゃないか」

 「……そうだね」


 ギルベルトがアバナ婆さんに俺がどうして旅をするのかを説明してたが、少し

 心配そうに考えながら続ける。


 「…そうだね… ここに居続けて記憶の戻りが早まるわけじゃないし 手がかり

 を探す旅もいいのかもしれんのう……」


 「…すまない アバナ婆さん 世話になりっぱなしで勝手な事まで言い出して」

 「いいんだよ ケイゴがやりたいようにしなよ あたしも協力するよ」

 「ありがとう」

 「よし! 俺も風呂にするかー ケイゴ 明日から朝早いからな 早く寝ろよ」


 食事を済ませたギルベルトは、そう言うと風呂に向かった。確かに仕事に備える

 のも悪くないが、さすがに寝れないだろ。さっき日が落ちたばかりなのに。


 (仕事か……ん? そういえば あっち側で勤めていた会社に連絡入れて

 無かったわ……まっいいか)

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