第6話 マナハ


 食事を終えた俺はアバナ婆さんに話しかける。


 「フラッシュって言うのは その石みたいな物の事?」

 「そうじゃよ その辺も記憶が無くなっておるのか……」

 「うん」

 「さっきのは『蓄積アイテム』と言って魔法を封印する石なんじゃ 

 セーブストーンと呼ばれておる」

 「セーブストーン?」

 「そうじゃ セーブストーンには他に種類があって水を蓄積するものや氷を蓄積

 するものがあるんじゃよ」


 「水や氷を?」

 「うむ まあ今日はこれくらいにして寝るかのう 明日もちっと詳しく教えるよ」


 「ああ 悪かった 色々ありがとう」

 (どうやら眠かったようだ、悪い事しちまった)


 「いいんじゃよ ケイゴも寝ろ」

 「うん おやすみ」

 「はい おやすみ」


 アバナ婆さんは自分の部屋へ戻っていった。


 俺も寝よう。今日一日、色々ありすぎて少し疲れてた。寝ようとした矢先に

 ギルベルトが風呂から帰ってきた。


 「フゥー さっぱりしたー んん? もう寝たのか?」


 ギルベルトがムッキムキの上半身裸でこちらを覗き込む。


 「ああ 今 寝ようとしたところだよ 大丈夫だ」

 「そっか 悪いな 俺も一杯だけ飲んで寝るわ」


 ギルベルトは、そう言うと食器棚からグラスを取り出し竈側へ移動した。

 ここからじゃ良く見えなかった。


 カラカラカラッ

 グラスの中の氷を回した時の音がした。どうやら氷も存在するらしい。

 そういえばアバナ婆さんがさっき言ってたな、水や氷って。


 トクットクトクトク

 今度は酒を注ぐ音がした。一体どんな酒なんだろう、嫌いじゃないので気には

 なったが黙って眠りについた。


 「おはよう ケイゴ 朝だよ」


 アバナ婆さんの声で起きた。上半身を起こしたが昨日の痛みが嘘のようだ。普通

 に動けそうだ。


 「あっ 駄目だよ急に無理しちゃ ゆっくり動かしな」

 「うん……でも、なんだか普通に動けそう…多少痛みがあるけど大丈夫そうだよ」

 「とにかく無理しちゃいけないからね」

 「わかった」


 そんなやり取りをするも自分で立ち上がり歩いてみた。うん、身体がギシギシ

 するもののなんとかなる。


 「あ ギルベルトさんは?」

 「もう仕事に出かけたよ 今日は石を馬車の荷台に乗せとかないといけない

 からってね ささっ 朝飯だよ こっちにこれるかい?」


 テーブルまで移動し椅子を引いて腰掛けた。


 (想像してた通りの間取りだ)


 竈があり玄関、隣が部屋になっている。食器棚には酒、ウイスキーなのか?

 どうも中の液体の色がそれっぽい。


 「いただきます」


 テーブルに出されていたパンとスープを食べる。スープは野菜中心で芋やネギの

 ような物と草?が入ってる。草をスプーンで掬いアバナ婆さんに尋ねる。


 「この草は何?」

 「草? ああ それはマナハじゃよマナハ ちゃんと食べられるから安心おし」


 話を聞くと、どうやらこの『マナハ』には魔力を回復させる力があるらしく、

 こうして料理に混ぜたり葉を直接口に咥え、吸う事で魔力を回復させるらしい。

 通常は一晩寝ればほぼ回復するらしい。


 「昨日、『フラッシュ』五つもインストールしてたから、今日はマナハ入りの

 スープにしといたんじゃよ」

 「そんなに頻繁に回復させないと駄目なもんなの?」

 「ああ 家は魔力が少ない家系だしのう でも便利な世の中になったもんじゃ 

 つい この間まで部屋の明りなんかロウソクだったしのう 氷も扱えるように

 なって本当に助かるよ」

 

 そう言うと立ち上がり食器棚の横にある石?で出来た小さ目の、貯蔵庫のような

 物の手前を開いた。開いた部分は木で出来ている様だ。

 中は鉄板二枚で区切られていた。下の層には瓶に入った調味料のような物や牛乳

 だろうか?白い液体が瓶に入ってる。

 上の層には細長い形状の入れ物に氷が入っていた。


 「ほら ここ見てみな」


 そう言われ、指差した鉄板の下の部分を見るとセーブストーンだろうか、ドライ

 アイスの煙の様なものを石の表面から出していた。鉄板には留め金があり

『セーブストーン』が落ちない工夫が施されている。

 『セーブストーン』の形状はフラッシュとほぼ同じで、石は少し青みがかかった

 色をしていた。


 「これがアイスじゃよ アイスの管理だけは、わたしが責任もってやってるのさ 

 初めの頃は調整に手間取ってね よく牛乳やら食材を凍らせちまったもんじゃよ」


 「アバナ婆さんがアイスのインストールを?」

 「そうじゃよ アイス担当じゃ あっはっはっ」


 パタン

 アバナ婆さんは貯蔵庫の扉を閉め食器の洗い物をはじめた。


 「洗い物が終わったら近くでマナハを摘んでくるんじゃが散歩がてら一緒に

 どうじゃ?」

 「ああ!ついて行くよ 出来る事は言ってくれ 俺 手伝うよ」

 

 「そうかい ありがとう」


 アバナ婆さんは嬉しそうに笑った。

 

 「風呂の水も変えないといけないね 『ウォーター』を持っていくとするかね」

 「『ウォーター』? それもセーブストーンなのか?」

 「うむ」

 アバナ婆さんが手に持っている『ウォーター』の色はアイスより濃い青色を

 していた。

 


「どうして?『フラッシュ』みたくインストールできないの?」


 不思議だったので聞いてみた。


 「何故だか『ウォーター』だけは水辺に行かないと使えないんだよ。多分だが 

 その近くにある水を その水質のまま蓄積してると思うんじゃ」


  (……なるほど近くの水の、水質そのままを蓄積か…賢いなセーブストーン)


 「よし 洗い物はおわりじゃ 出かけようかのう」

 「よし 行こう」


 (……異世界 次から次へと驚かされる事ばかりだ) 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る