快進撃

 4階層に降りてからのカナメ達は、まさに快進撃という言葉がピッタリであっただろう。

 4階層、5階層、6階層。

 上部に広がる風景こそ違えど、その中空に広い空間がある事は変わらない。

 故に、竜鱗騎士ドラグーンで飛翔するカナメ達は最速で下へ降りる階段を探すことが出来る。

 モンスターの弓も魔法も、弱いものであればイリスの障壁ガード魔法で防げるし、飛んでいる以上近距離攻撃は届かない。

 7階層、8階層、9階層。

 強くなってくるモンスターも、中空を飛ぶカナメ達に手が出せない。

 そして、10階層……逆さの「壊れた廃墟の街」が天井にある其処は下級デルムドラゴンと呼ばれる飛竜達の領域。

 中空を舞うカナメ達にも容赦なく襲い掛かるが……容赦はないのは下級デルムドラゴン達だけではない。


矢作成クレスタ切り裂く風刃の矢ウィンブレイドアロー

氷槍降雨フェルスレイン!」


 カナメの放った風の刃が切り裂き、エリーゼの放った氷の槍が貫く。

 ドラゴンなどと呼ばれてはいても下級デルムドラゴンの生態や能力は「ドラゴン」とは大きく異なるのだが……それでも、簡単に倒せる相手ではない。

 ない、のだが……下級デルムドラゴン達では、カナメ達を止められない。

 なんとか回避した下級デルムドラゴンも竜鱗騎士ドラグーンの電撃を四方八方から受ければ耐えられるはずもなく、次々に落下していく。


「順調ですわね、カナメ様!」

「ああ!」


 止められるものなどない。この調子ならば、15階層までだって楽にいけるかもしれない。

 そんな事を考えるカナメに、アリサの声が響く。


「カナメ、階段!」

「全員停止! 階段に向かってゆっくり降下!」


 カナメの命令に従い竜鱗騎士ドラグーン達は地上へと降下し……その階段の近くへと降り立つ。

 そこにあるのは、確かに地下へと向かう階段。

 ……だが、今までのシンプルな階段とは大分意匠が異なる。

 石か何かで作られたと思われる囲いが階段の周りにつけられ、明かりは灯っていないが両側にランタンまでかかっている。

 

「……なんだろう。ここまで「どっちが上か分からない」感じだったのに、急に現実に引き戻してくるような……」


 雰囲気を壊す、とか台無し、とか。

 そんな言葉が思わずカナメの口をついて出そうになる。

 ダンジョンにそんなものを求める事自体が意味がないのは分かっているが、それでも言いたくなってしまう。

 だが、逆に言えば。こんなものがあるということは、此処から先は違うという宣言のような気すらもしてきてしまう。


「……まさか、罠とかじゃないよな?」

「三階層の例があるからね。無いとは言えないけど……何か奥の方に文字が書いてあるね」

「暗くて見えませんわね。明かりの魔法を使います?」

「ああ、お願いできる?」


 カナメに頷くと、エリーゼは照明の魔法で出来た光球をゆっくりと階段へ近づけていく。

 すると階段の中央程に光球が近づいた瞬間、光球は引き裂かれ両側のランタンへと吸い込まれていく。

 光を吸い込んだランタンは火が灯り、周囲を明るく輝かせる。

 階段を覆う囲いの奥に書かれていた文字もハッキリと照らし出され……エリーゼは、その文字を呆然としたまま読み上げる。


「……魔法士よ、私は貴方の来訪を歓迎する。この試練を越えし時、貴方に至上の栄光が与えられるだろう」

「なんだ、これ……」

「ハハッ、思った通りだ。このダンジョンには何者かの意思が介在している。まあ、ロクな奴じゃないだろうがね!」


 ラファエラが笑い、しかしカナメ達は笑う気になどなれない。

 全員の目がフェドリスへと向き……代表するようにカナメが口を開く。


「なんだかきな臭くなってきたけど……試練とかいうのは続行ってことでいいのか?」

「私にはそれを判断する権限はありません。ただ……」

「ただ?」

「私が見届け役を引き受けた「試練」とこの試練とやらには何の関係もありません。15階層に到達するまでは手を出せませんが……その先は私も戦人の一人として戦う事を誓いましょう」

「あ、そこは変わらないんだ」

「決まりですから」


 頑固なフェドリスにカナメは苦笑し、再び階段へと向き直る。


「でもまあ、確かに何も変わらないか。15階層まで進んで……その後は、その時考えよう」

「おや、問題を放置していいのかい?」

「解決できるなら解決するけど、どこまでやれば解決になるのか分からない問題に挑むのは現実的じゃない、と思う」


 ラファエラの投げかけてきた問いにカナメがそう答えると、ラファエラはふむと頷く。


「なるほど、確かにその通りだ。100階層まで進めば試練クリア、ということだってあるかもしれないし200階層まで進んでも試練クリアではないかもしれない。そもそもこの文章自体が何らかの罠だって可能性すらある」


 そう、たとえば「至上の栄光」とかいう何かも分からないモノを餌に、どんどん下へと潜らせようとしている可能性。

 あと1階層潜ればきっと……と思わせるつもりならば、この文章はダンジョン本来のものとして正しい。


「あー、まあ。それは判断できないけど。目的を設定しすぎると全部ダメになりかねないしさ。確実に、ってね」

「まあ、それが無難だね」


 頬を掻くカナメにアリサも同意し、意を決したようにカナメが階段へと最初の一歩を踏み出した。

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