隊商の護衛3
穏やかな笑みを浮かべた老人は少しボサついてはいるが美しい白髪が印象的で、蓄えた白い髭と紫の鋭い瞳がその穏やかさに威厳を加えている。
恰好としてはシンプルな分厚い布の服と濃茶色のマントだが、これがよく似合っている。
その手には長い木の棒らしきものを持っているが……杖をつくような足取りでもないところを見れば、それは武器であるのだろう。
細身ながらもがっしりとした体格は確かな実力を感じさせ「歴戦の冒険者」のような印象を振りまいてすらいる。
「一体何を揉めているかは存じませんが、しばらく旅をする仲間。その辺りで矛を収めては?」
「こ、こっちとしてはそうしたいけどよぉ」
「別に構わないよ。くだらない事した代償は払ってもらったしね」
そう言って肩をすくめるアリサに、カーラッツのメンバーらしき面々は明らかにほっとした表情を浮かべる。
たとえば、ここでアリサが「許さん」と言った場合には彼らとて後に引くことはできない。
カーラッツのリーダーであるバーツの仕掛けた悪戯が原因の自業自得とはいえ、本人に充分すぎる報復を与えてもまだ足りぬというのであれば黙っているわけにはいかないからだ。
冒険者稼業の人間にとって、ナメられることは今後の評判に直結する。
バーツの個人的な阿呆で制裁を受けたのであれば笑い話だが、それでパーティ全体に被害が及んだとなれば「無能」の烙印を押される。
とはいえ実力不明の「英雄」はともかくレクスオール神殿の神官騎士は確実に「ヤバい」というのが彼等全員の心情でもあった。
そして他の冒険者の面々としてはバカの起こした騒ぎに巻き込まれたくない為静観しているわけだが……ここまでくると、すでに関わるにもタイミングを逃している。
「では、解決ですな。いやあよかった」
「いいのかよ……つーか爺さん、その倒れてるのどうすんだよ?」
背後で嫌なものを見る顔でバーツを見ていた茶髪の少年に、老人は「放っておけばいいのですよ」と返す。
老人の印象が強すぎて薄れていたが、背後に居た少年と少女もまた印象的であった。
ツンツンとした茶髪頭の少年はいかにもヤンチャそうな顔をしており、その装備は胸元を覆う簡易的な胸部鎧と肩鎧、腕と腰を軽く覆う部分鎧と布の服にブーツ……といった「動きと防御力をどっちもそれなりに」という印象だが、纏う赤いマントと合わせれば「伝説の勇者」じみた印象をなんとなくカナメは抱いてしまう。
背中に背負った大剣は振り回すのが難しそうだが、それなりに使い込んでいるように見えるのと……何やら魔力を感じるところを見ると、見た目通りのものというわけでもないのだろう。
一方の少女の方は、こちらはどうにもよく分からない。
太くゆるく編んだ紫の髪と、眠そうな紫色の瞳。
ぼーっとした印象のする少女の恰好は布の服にブーツ、茶色のマントと老人の方とさほど変わらぬ恰好な上に、棒を持っているところまで一緒である。
ひょっとすると老人の娘か孫なのかもしれないが……これだけ特徴的であるにも関わらず、気が付くと視線から外れてしまうのだ。
「あ、えーと……仲裁ありがとうございます。俺はカナメです」
「これはご丁寧に。私はダルキンと申します。私のやったことといえば、途中から口を出しただけのこと。お礼を言われるには及びません」
そう言って微笑むと、ダルキンは自分の脇の下からすぽっと顔を出してくる少女に苦笑しながら「これは孫のルウネです」と紹介する。
「……ルウネです。よろしく」
「あ、はい。カナメです。よろしくお願いします」
いまいち掴みきれない少女だが、ここまで強烈に押しの強い女性にしか会っていないカナメにしてみると少しばかり新鮮な「ほわっ」とした気分になる。
「……カナメ様?」
背後からエリーゼのものらしき声が聞こえてきてビクッとなるが、自分は何も悪いことなんかしてないと再確認しながらカナメは最後の一人の少年に視線を向ける。
「えーと。カナメです。よろしく」
「おう、俺はエルトランズだ。エルでいいぜ、敬語もいらねえよ。よろしくな!」
このまま忘れられるかと思ったぜ、と言いながら肩をバンバンと叩いてくるエルにカナメはこういうタイプにも今まで会ってなかったな……などと不思議な感動を覚えてしまう。
「お三方はご一緒の冒険団ですの?」
カナメの横に寄り添うようにして立つエリーゼにエルは口笛などを鳴らし「いや、全然違ぇ。俺はさっき勧誘されてさ。こっちの二人もその時にな」と答える。
「私達はそもそも冒険者ですらありませんな。しかし、どうやら数が重要であるそうで」
ハハハと笑うダルキンにエルもつられたように笑い、どうしたものかと曖昧な笑みを浮かべるカナメの肩をエリーゼとは反対側からアリサが叩く。
「ま、冒険者なんて所詮自称みたいなものだし。よろしく、三人とも。私はアリサで、そこのはエリーゼ。あとはまあ……ゆっくり紹介するよ」
「へえ、アリサがリーダーなのか?」
「どうだろね。私はカナメだと思うんだけど、特に決めたことはないかな」
エルにアリサがそう返していると、魔法士らしい恰好をした女が遠慮がちに声をかけてくる。
「えーと……いいかしら。そろそろ担当を決めておきたいのよね。話し合いに参加してくれる?」
「ああ、そっか。ごめん」
アッサリとそう謝ってカナメの背中を軽く叩き促すアリサに、先程の容赦ない急所攻撃が強く印象付けられていた他の冒険者達は、一様にほっとした顔を浮かべるのだった。
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