第四話 まだ一緒には戦えねぇからよ
新たな魔法少女が現れてだいたい半月くらい。悪魔も二、三日に一度出現するほど境界の封印が弱くなっていて、本格的にまずい状況になっていた。
この出現頻度はかなり多い。覇王を名乗る悪魔が出てきた時でさえ、一週間に一度くらいだったのだ。あの時は五人の魔法少女がいたが、今はまだ例の少女に加えて二人確認されただけ。新人に任せっきりにするには負担がでかすぎる。
「おぉらっ!」
だからこうして、人目を凌いでコソコソと悪魔退治をしているのだ。
思ったより早いペースで力を取り戻しつつあるあたしは、軽く杖を振って低級悪魔を真っ二つにした。言葉も話せない悪魔なら、もう変身せずとも倒せるほどになった。元の半分くらいには力を取り戻せたと思う。
悪魔が完全に消え去ったことを確認して、地面に置いたエコバックを拾う。そして何気ない顔をして路地裏から出るのだ。
「そろそろ『路地裏の魔法使い』とか呼ばれてそうだな」
割と田舎町だから深夜なら大通りにも出られるが、日の高いうちは路地裏か山の中でしか戦えない。それでも、何もしないよりはいくらかマシだろう。
本日の買い物をパパっと済ませたあたしは、何となくこの間の公園に立ち寄っていた。あの日、一人の少女を救った大岩は今もそのままの形で残されていて、無駄に綺麗な囲いまで施されて記念碑のようになっていた。
「これ、どうせ名物とかになるんだろうな。『あの時の悪夢を忘れてはいけません』的な? 人って好きだよなぁそういうの」
今なら十倍くらいの大きさで出せるのだから、どうせならそっちを記念碑にして欲しい。勝手に置き替えてやろうかとイタズラ心が湧いた。
その時だった。
「っ!!」
どこかで魔界のゲートが開いた。一日に二度も開いたのは覇王出現以来で、しかも今回は並外れた嫌な気配。RPGに例えると一つの島ごと落とすレベルのボスキャラが出現してしまった。
そして、その気配は知っていた。
「まさか……アイツが来たのか!」
あたしが唯一負けた悪魔。仲間が駆けつけてくれなければ確実に殺されていた。その時に旦那と一緒だったから、旦那はトラウマになってしまったのだ。
激しい悪寒に身体が震える。当時のあたしと今のあたし、どちらが強いかわからないが苦戦を強いられることは確信出来る。
「ガイアロッド!!」
あたしはすぐさま変身を終え、天高く舞い上がった。エコバックの底に入れていたコートを羽織りながら敵を探す。今の若手魔法少女達にはまだ早い相手だ。彼女らが交戦する前に片付けなければならない。
しかし、あの悪魔のやらしいところは探知の難しさだ。あたしが魔法少女に復帰しているのを知っていたように、気配を薄く分散させている。これではおおよその場所は掴めても目の前にゲートを開くことは出来ない。
「相変わらず面倒臭ぇ! だから嫌いなんだ! ケルベロス!」
闇雲に飛ぶ。方角はわかっているのだから運良く見つかるかもしれない。ただ、今回出てきた犬コロは実力に見合わずかなり小さく素早い。普段はチワワくらいの大きさなのだ。
探索に手こずること五分。山の中で巨大な水柱が上がった。ケルベロスは水魔法を使えない。つまり、別の魔法少女が生み出したってことだ。
「遅かったか……」
続け様にいくつもの魔法が花火のように上がるその場所へ向かうと、状況は最悪のものとなっていた。
女の子が二人倒れ、それを守るようにこの前の少女が立ち回っている。やはり敵はケルベロス。ボロボロで今にも倒れそうな女の子を前に、飄々と歩いている。
「爆砕せよ! サウザンドロック!!」
触れると爆発する無数の石を召喚して発射。山の地形を変えるほどの威力を誇る弾丸が降り注ぎ、ケルベロスを丸呑みにしていく。
その隙に少女の元へ駆けつけたあたしは、すぐさま安否確認をした。
「おい、大丈夫か? 後ろの二人はまだ生きてるんだよな?」
「あ、あの時のおばさん……」
「お姉さんだ失礼なガキだな! 大丈夫か聞いてんだよ!」
「う、うん。大丈夫。二人とも気絶してるけど……」
「そうか、ならいい。ここはあたしに任せてお前は二人を連れて避難しろ。お前らの手に負える相手じゃねえ」
「……! 私は戦えます! 一緒に……」
「邪魔だって言ってんのがわからねえのか? さっさと離れろ」
「うぅ……」
今にも泣きそうな少女は、それでも武器を離さない。そりゃそうだ。コイツらからしたら今まで自分たち以外に戦える者がいなかった。ポッと出のあたしを信用するのは難しいのだろう。こうしている間にも、ケルベロスはいつ飛びかかってくるかわからないってのに。
落ち着け。クールに考えるんだ。この正義感に溢れる少女を引かせる理由を。
「お前、名前は?」
「か、川田……愛」
「そうか。愛、あたしはお前よりずっと前から戦ってきた魔法少……魔法使いだ。つまり仲間なんだ、わかるよな?」
「……うん」
「だから安心しろ。ビビるほど強えから」
「でも……一人でなんて」
「ん? お姉さんが信じられないのか? ま、今度一緒に戦ってやるからここは譲ってくれよ。戦い方も教えてやるからさ」
「…………死んじゃダメだよ?」
「死なねえよあんな雑魚相手に。ほら、ゲート作ってやったから入れ」
まだ半信半疑な愛の背中を押して無理矢理ゲートをくぐらせた。彼女が完全に入ってから残りの二人も投げ込んで、乱暴だったけどようやく避難が終わる。辛うじて砂煙が晴れないうちに一人になれたことで、次の魔法を唱える準備に入る。
「戦い方、か。まぁ教えないけどな。もうアイツらの前に出るつもりはないし」
教えている暇があるなら自分が強くなる方に時間を使いたい。覇王レベルになるのは確実だし、成長速度が違うのだから。
砂煙が徐々に晴れ、そこには当たり前のように無傷のケルベロスが尻尾を振って座っていた。
「噂で聞いたよ、魔法少女は健在だと。今の攻撃、きっとキミだろうと思っていたよ。久しぶりだねあかり。随分大きくなったね」
「再会を喜ぶほど仲良くなった覚えはねえぞ。悪いが消えてもらう」
「冷たいなぁ。あんなに本気でぶつかり合った仲じゃないか。それに、こんな街中で僕を消せるほどの攻撃は出来ないんじゃないかな?」
「あぁ、お互い本気出すと町壊れっからな。だからこうするんだよ!」
ガイアロッドの先に六つのクリスタルを召喚してゲートを出現させ、それとは別に小さな赤いクリスタルを準備。そのまま飛び上がり、ケルベロスに向けてゲートを思い切り振りかぶる。
「そんなの避ければいいだけだよね」
「避けてみろよ。【ガイアショック】」
「え……?」
砂煙に混ぜて隠しておいた五十を越える小さなクリスタルがケルベロスを囲う。そして手元の赤いクリスタルと共鳴し、同時に激しい振動が始まる。魔力の衝撃波がケルベロスをその場に留めた。
クロックロックとは桁違いの拘束性能。短時間だがあの覇王ですら動けなくなる代物だ。当然それより弱いであろうケルベロスが動けるはずはない。
身動き出来ずゲートに飲み込まれたケルベロス。確実に手応えを感じ、今度は自分がその中へ入った。
行先は誰もいない砂漠だ。
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