30 theme ~ 30の小さな物語 ~

セツナ

ワガママ王子とじゃじゃ馬姫【王冠】


 東京の羽田空港。

 修学旅行の最終日のお土産を買う時間に、僕は幼馴染の綾と一緒のストラップを見ていた。


「わーっ! 伊織、見てみて、このストラップ可愛いー」


 僕はコソッと周りに居る中学の制服を着たクラスメートたちに変な目で見られてないかを確認してから、綾に向き直った。


「ストラップって……そんな小学生じゃ無いんだから」


 そうため息をつきつつ、綾の持つストラップでは無く、別のストラップを見ながら言った。


「小学生とは失礼な。女の子はずっとストラップが好きな生き物なんだよ? 分かってる?」


 そう言った綾を横目で見ると、綾は少し顔を膨らませていた。……まるで子供みたいだ。


「そんなの分からないよ。……って言うか、ストラップが好きな生き物って……。……で、見せたいストラップってどれ?」


 僕は綾の下げられた手を見ながら聞いた。


「あ、うん……」


 思い出したように綾は視線を自分の手に向けると、その手に握られたストラップを指でつかみ僕へと見せた。


「見せたかったのはこのストラップ。可愛くない?」


 そう、綾が僕に見せたのは王冠のモチーフがついた女子向けであろうストラップだった。


「可愛いけど……」


 僕はそう言いあぐねながら考えた。最近の女の子はこういうのが好きなんだろうか。……なんだか王冠って物凄く仰々しいイメージが僕はあるのだけど。


「けど、何よ」


 綾は僕の返事が気に入らなかったらしく、少し不機嫌そうに言った。

 それを見、僕はあわてて


「あ、いや、可愛いと思うよ、うん!」


 と、取り繕った。綾は怒らせると物凄く怖いのだ。

 すると綾はうれしそうに


「そう? それなら良かった。じゃあ買って来ちゃうね!」


 と、レジに走って行き、僕はそれを見送った。

 しばらくして、ストラップを買ってきた綾は僕の前で袋を開けると、ストラップを僕へ差し出した。


「はい」


「はい、って。……えぇっ!?」


 どういう事だ、と僕は目を丸くして言った。


「それって、お前のじゃなかったのか?」


 それに綾はすっとぼけたように


「えー、違うよ? 伊織にあげようと思って買ったんだよ」


 だから聞いたんじゃん、とニコニコ笑う綾。

 しょうがないから、僕はそれを受け取り


「ありがとな」


 と、言った。


「何で僕に王冠?」


 そう僕が聞くと綾は


「だって伊織、ワガママな王子様みたいなんだもん」


 と、またも意味不明な事を言って返した。

 貰いっぱなしも悪いので、じゃじゃ馬姫な奴には、先ほど僕が見ていたガラスのモチーフのストラップを買ってやった。

 綾は「本当、東京って可愛いものが沢山あるよねー」とか言ってニコニコと嬉しがっていた。

 そんな綾を、僕はほほましい気持ちで見ていた。

 綾から貰ったストラップをずっと大切にしよう、と思ったのは綾にだけは内緒だ。



 僕と君の

 修学旅行の宝物。



   -END-

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