第5話 そして魔王は死にました

 俺たちは一ヶ月程の月日を掛けて魔王城に到着していた。出来るだけ早く到着することを目的にしていたので、一気に掛け進んだからだ。


 道中には魔物の妨害や襲われている人を助けるというイベントも多数ありながらの到着だった。この一ヶ月で魔王城に到着したのは遅いのか早いのか、比較対象が無いから分からないけれど、かなり早い方だと思う。


 戦いには少しだけ慣れたけれど、まだまだ改善するべき所が多く勇者の能力を身に着けたとは言い難い。勇者としては進歩しないまま最終地点へと到着してしまった。本来なら旅を経て勇者としての経験を積みレベルアップしていくのが常套手段なのだろうが、なにせ父さんの用意してくれた戦闘スーツが反則的に役立った事により、魔物との戦闘は苦の無いものになっていた。


 結果的に、勇者としての経験も必要なくラスボスへと辿り着くという事態になっていた。だが、俺にとっては今居る世界が現実だったので、楽であることに越したことはない。劇的なストーリーも必要なく、楽で安全に死ぬ危険性のない旅を進められるのならばソレの方が良いだろうという考えだった。


 さっそく警戒しながら魔王城の中を進み行き、立ちふさがる魔物を打ち倒していく。途中には少し手応えのありそうな魔物が待ち構えていたが、ほとんど全てを一撃で屠り進んでいった。


 ようやく最奥部らしき部屋へと到着すると、暗闇の中で更に部屋の中央奥にふんぞり返って玉座に座る魔王が居た。


「よく辿り着いた勇者よ」


 生きることに疲れた老人のような、けれど威厳たっぷりな声で話す魔王に向けて俺は躊躇なく銃口を向ける。そして、何か語りだそうとする魔王にお構いなくトリガーを引いた。すると、俺の構えた銃口からは弾丸ではなく青白く光るビームが発射されて、瞬く間に魔王の胸に打ち込まれた。


「がふっ、な、にっ!?」


 ジュッというような燃える音が聞こえたと思ったら、魔王は人間とは違う紫色の血を口から溢れたように吐き出していた。そして、胸からも吹き出すように紫色が体外へと流れ出ていた。


 良かった、用意していた武器が魔王にも通用して普通に攻撃が通った。最終のボスとなる魔王ならば、何らかの力で攻撃を耐えるか無効化するか、それとも反射するかの方法を危惧していた俺だったが、普通にダメージを与えられた。これなら、魔王討伐という目的は果たせそうだと一安心する。


 ふんぞり返って座っていたのが、今ではもたれ掛かるようにして座っているようにしか見えなくなった魔王。反撃を試みているのだろうか、精一杯に身体を蠢かせて腕を上げてコチラに向けてくる。だが、魔王が何か事を起こそうとする前に俺は一気に接近して無慈悲にとどめを刺す。


 魔王は人の形をしていたので、倫理的な問題を感じて攻撃するのに一瞬躊躇ってしまうが、口から流れ出ている血の色が赤色ではなく紫色をしているのを見た俺は思い直す。これは、人間ではなく魔物なのだと。



 そして、苦しんでいる魔王の頭に目掛けてビームを打ち込む。銃のトリガーを引くと、魔王の身体がビクンと仰け反った形になった後、座ったような姿勢のまま二度と動かなくなった。


 自分は合理主義者だと自覚はしていたけれど、ココまで残酷に事を処理できただろうか、そんな事を全て終えた後に思い悩んでいた。


 魔物に対してはとことん割り切って対処できる。もしかしたら、これも勇者としての能力の影響なのだろうか。


「これで、終わりか?」

「え!? えっと、多分終わりです」


 剣を構えて臨戦態勢を取っていた戦士が、あまりにあっさりと終わってしまった事態に手持ち無沙汰になっている様子だった。魔王城にやって来るこれまでも、魔物との戦闘の多くは苦戦もなく圧勝で終わっていた。しかし、最終戦となる魔王との戦いまであっさり終わるとは予想していなかったのか。


 だが、現実には王座に倒れ込んでいる魔王が目の前に居るのに変わりはなく、戦いは終わったのだろうと目で見て確認していた。


「それじゃあ、帰ろうか」

「えっと、はい、そうですね。……え? 本当にコレで終わりなの?」


 魔王戦があっさりと終わったことで、俺たちは達成感もなく帰路につく。仲間である戦士も魔法使いも僧侶も、そして俺自身も終わったという実感が無かったので、皆が終始どうするべきか戸惑いながらという帰還だった。


 ただ、魔王による脅威は実際に去っていいた。魔物は以前に比べると凶暴性が無くなり、近づいても攻撃て来なくなって、街や村も襲わなくなった。魔物に怯える人達は、徐々に少なくなっていった。


 結局、俺は召喚された場所に戻る頃になって、ようやく魔王の脅威が去ったことを実感するのだった。こうして俺がこの異世界に召喚されて、2ヶ月で全ての事態は解決して終わった。残すは、俺が無事に元の世界へと帰還するだけだった。


 けれど、最後の最後で少しの問題が発生した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る