第12話

「今から!?」

「戦闘が始まろうとしてるんだぞ! 正気か!?」

 オフィスにいる面々が揃って目を剥き、誠に詰め寄った。

 正気とは思えぬ発言だ、という事は理解している。誠だって、もし言いだしたのが別の誰かなら、その人の正気を疑うだろう。だが。

「……ジッとしていられないんです。このままだと中花さん達の立場が……世良さんが……」

「……」

 皆、誠の世良への気持ちは知っている。だからこそ、正気を問う喧騒は一気に沈静化した。

「……危険だぞ?」

「……承知の上です」

 静かに問うても、誠の答えは変わらない。恐らく、何を言っても変わらないだろう。

 ……いや、技術四班の面々は知っている。誠が慎重で、控えめな性格だという事を。そんな彼がこんな事を言うなど、時間は短くとも、よっぽど考えた末の事だ。その決意を覆す事など、容易にできる事ではないだろう。

 それを理解しながら、主任の堀田が試すように言う。

「言っておくが、いつもの逆行装置は出せないぞ。日本に数台しか無い上に、もし壊れでもしたら修理に何億もかかる。一台でも壊れたら、その分その後の街の復旧に時間がかかるしな。戦闘が終わっていない時に出すなんざ、とてもじゃないが許可できない」

 ぐっと、誠は息を詰まらせた。堀田が言っている事は事実であり、正論だ。誠の気持ちのためだけに税金を使って運用している機器を壊したり、街の復旧を遅らせる事などできない。

 悔しそうに顔を歪ませた誠を暫く眺めた後、堀田はため息を吐いた。

「……だがな。普段おとなしいお前が思い切って言っただろうに、ただ一言、却下、と言うだけってのは、俺としても心苦しい」

 そう言いながら、堀田は自分のデスクの引き出しを開けると、しばらくの間中をまさぐった。そして、鎖でまとめられたごつい鍵束を五つ取り出すと、誠に向かって放り投げる。

 誠は一つは何とか受け止めたが、あとの四つは取り落とした。それらを慌てて拾っていると、頭上から堀田の声が降ってくる。

「それはな、逆行装置の試作品の鍵だ。俺が趣味でメンテを続けてきたから、使おうと思えば今でも使える。……かなり古いからな。逆行に必要な時間はいつもの奴の倍以上だし、コックピットも狭くて一人しか乗れない。操作手順も複雑だ。けどまぁ……お前なら多分、操縦できるだろ」

 鍵を全て胸に抱えて、誠は堀田の顔を仰ぎ見る。堀田はニヤリと笑うと、右手の親指を天井に突き出して見せた。

「場所は、格納庫の奥にある〝開かずの扉〟の向こう。俺が備忘録代わりに作った簡単なマニュアルは座席に置きっ放しにしてある。あとは自分で考えて、頑張りな」

「……ありがとうございます、堀田主任!」

 礼を言い、誠は鍵束を手に走り出す。

 少しでも街を直して、戦士達の負担を減らす。世良達が辞めるような事態にさせたりしない。

 ただそれだけを、胸に抱いて。

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