第2話

 そんなことを繰り返して時間が過ぎていく。知子はもう元の通り、見た目は平常に作業を続けている。ああ、やっぱり、と昇は少し残念に思い、またそれを恥じた。また顔色が赤くなってきた。完成させないと、と昇は焦った。意識して手を動かした。なんとかなりそうだ。あと五分、先生は作業中止と言うまであと五分だろう、後片付けもあるのだし。ふと、知子を見た。


 知子と目が合った。知子は笑みをほんの少しだけ浮かべている。


「昇君、できちゃったよ。昇君まだでしょう」


 友子は丸顔で、笑うと目が線になる。今、友子の目は線になりかけている。昇はまた顔が真っ赤になってきて目をそらして作業をした、というよりするふりをした。もう、完成といってもいいのだ。どこかの陶芸家ではあるまいに、何をもって完成とするかなど自分がすべき判断だ。


 知子は黙っている。でも時々観察されているように感じもした。気のせいだ、と昇は思い最後の粘土をひと欠きして完成とすることにした。できるだけ知子の方を見ないようにした。


「作業止め」


 と、女性教師は無気力に言った。


「片付けの時間です。皆さんの作品は、前の台に順番に載せていって」


 片付けして、この不器用な作品を提出しなきゃ、と昇は思った。昇が立ち上がったのと同時に知子も立ち上がった。不意の出来事で、腕が触れあった。また昇は動けなくなった。


 知子は静かに、しかし少し笑顔のまま、


「前の台に持って行ってあげるから、貸して」


 と言った。おずおずと昇は作品を載せた板を知子に渡した。もうずいぶんと長い間、顔が赤くなったままでどうしたらいいのか分からなかった。昇は自分たちの作業台を雑巾で拭き始めた。各自の粘土くずがずいぶんと雑巾に吸着された。知子はどう考えても不器用で、作業台の知子のスペースには荒い粘土のかけらが散乱していた。一つ一つ拾い集めて、袋にまとめた。知子が帰ってきた。


「ありがとう。掃除してくれたんだ」


「あ、ああ」


「顔赤いよ。熱ないかしら」


 知子はいきなり昇の額を触った。昇はその手を払いのけるほどの力が出なかったし、払いのける理由も思いつかなかった。知子はそれに気づかないかのように随分と長いこと額に手を触れていた


「熱はないみたい。大丈夫かな」


 相変わらず昇は硬直してごみ袋を持ったままだった。知子が勝手にごみ袋を手からとり、捨てに行った。普段から親切な子だ。だが、一方で助かった、と昇は思った。今日はこれが最終枠の授業、帰宅できる。知子が帰ってくる前に帰宅してしまおう。それは狡い考えだ、とも思ったが、そうするしかないように思えた。

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