食人竜の村 27
ミギのが狙いを定めて振り下ろした腕が地面に振り下ろされ、めり込む。人間ならトマトケチャップ状になっているだろう。しかしそこにあるべき人間の死体はなく、シッポのが片時も目を離さないようにしていたのも、ミギのの一撃によって視線が遮られてしまった。
「ミギの、お前のせいで人間を見失ったぞ」
「問題ねぇよシッポの。アイツならほら」
どけた右手の下に人間はいなかった。
その時、二頭の視線の端で何かが移動したのが分かった。二頭が同時に振り向くと、そこには羊の死体が一つ、血だまりの上に放置されているだけだった。
「いなくなっちまったなァ」
「何呑気してんだ、ミギの!アイツは完璧に親方を怪我させた人間だ、俺たちが油断して勝てる相手じゃ……ッ!」
言い終わらないうちに、シッポのは自慢の尻尾に痺れるような感覚があった。
「おい……」
一瞬の出来事は、ミギのでも把握が出来なかったらしい。しかし結果はそこにあった。
シッポのの自慢の尻尾は、根元のわずかな分を残して切断されていたのだ。
切断されているのを知覚したシッポのは、たちまちそこから熱と激痛とが襲ってきた。
「痛ぇ!ッ、おいミギの!捕まえるならちゃんと捕まえろ!」
「うるせえ、連携は完璧だった!アイツが一枚上手だったんだよ!」
「ミギの、お前の肩に乗せてた生贄はどうした?」
「あん?」
ミギのが気づくと肩にあった人間二人分の重さが無いことに気づく。
「おいおい、全然気づかなかったぞ……」
「集中しろ、ミギの。俺たちは今……狩られる側だ」
シッポのは認識を改めた。
二頭の考えは凡そ当たっている。タジはミギのによって振り下ろされた腕の作る死角、その一瞬の隙を狙って二頭の攻撃を躱し、ミギのの攻撃による風圧を利用してその肩にしがみつく二人組を救出、大路から一本入った脇道にそっと寝かせた。
タジの捕捉を確認するために右手をどけるミギの達の背後から高速で忍び寄り、回し蹴り一閃、シッポの自慢の刃の鞭尾はスッパリと蹴り千切られた。空間を切り裂くような回し蹴りは、周囲への衝撃波などの起こる余地もなく、ただそこに“千切った”という結果のみが残っていた。
「おい」
ピンと立った狼の耳を瞬時に動かして二頭が声の主の方を向く。そこには千切った尻尾を後方へポイと捨て、居丈高に二頭を睨むタジがいた。
「お前らはあのドラゴンの使いだろ、あいつはどこにいる?」
「親方なら療養中だ、お前のせいでな」
「おい、簡単に口を割るな」
ミギのの方が答えると、シッポのの方が狼狽える。
「こっちもケガ人がいる。余計な駆け引きはしたくない。場所を教えろ」
「はっ、バカか。簡単に教えるわけがないだ……」
ミギのが言い終わるよりも早く、シッポのの頭がはじけ飛んだ。
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