食人竜の村 17
絶対的な布の量が不足しているというので、トーイは仕立て屋に麻布を買いに出かけた。その間、タジは村を見て回ろうとしたのだがトーイに止められた。
村長に村の一員として迎えられたとしても、見たことのない服装は村人から奇異な目で見られるし、それで第一印象が悪くなってしまっては村に馴染めなくなってしまう、というのが理由だった。
タジ自身は、奇異の目で見られようが村人に馴染まなかろうが意に介さないと思っていたが、そんな不服そうなタジの顔色を察したのか、トーイが諭すように語った。
「村に物流をしにきた行商人でもなく、自村を放逐された遍歴の職人でもなく、王国から派兵された兵士や傭兵でもなく、ましてや役人や聖職者でもないあなたは、その身分をどうやって証明するのですか?あなたは自分を証明するものがないことにもっと留意すべきです。私はあなたがどこから来てなぜあの泉にいたのかを詳しくは聞きませんでしたが、村には私のように何も聞かないという選択肢を取る人ばかりではありません。姿かたちだけでも村人としていることは、集団の中に溶け込むという点で大切なことだとは思いませんか?」
あまりにもっともな事だったので、両手を上げて降参を示す。
「しかし、待っているだけでは退屈だ」
「それなら炊事場から外に出た裏庭にまだ割っていない薪があるので、手斧で割っていただけませんか?私はそういう力仕事が……苦手なので」
少し考えて言った「苦手」という言葉にいじらしさが含まれているようで、健気さが見える。困ったような笑顔はわずかの間、トーイは「よろしくお願いします」と言った。
「それと、もしかしたら教会へお祈りに来る人がいらっしゃるかもしれませんが、自然になさっていてください。信心深い方たちですから、こちらからしなければ、不用意なことは決してしませんので」
村人に全幅の信頼を置いているような発言だが、タジはその言葉が逆に聞こえた。
この村のルールを守らない人には、容赦ない。
誰が容赦ないのか。もちろん、領主だ。この村の生殺与奪を握るあのドラゴンが許さないのだ。ルールを守らない人間は神の眷属への反逆者であり、その人間は、場合によっては殺される。
「それでは、少しの間留守をお願いします」
トーイが仕立て屋へ出かけると、教会は急に静かになった。
「……薪割りか」
がらんどうの教会に、声が寒いほどに響く。タジは炊事場の奥、薪が置いてあるという裏庭に向かった。
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