ep.13 結構、刺さる


 マ、としか言いようがないんですがそれは。


「あ、そうね、もうあたし22だし?3歳差なんて誤差範囲?……いやいや崎田くん。7分の1を誤差とみなすのは流石に雑やしない?」

「3もないんじゃないんですかね。――優里乃さん、ストレートでしょ?」

「ストレート?」

「あ、留年・浪人してないかってことです」

「まあ、そうだけど……」

「じゃあ、同い年ですよ、まさに」


 ……苦労人?


 一留二浪。崎田くんは確かにそう言った。


「高校時代、結構荒れてたんですよね。髪の毛も今の優里乃さんくらいの明るさだったと思いますよ」

「マジか」

「まともに学校通ってなくて、一留」

「クソすぎ」

「そんでもって、まともに勉強してないしそもそも受験しなくてまず一浪」


 一年を容易に無駄にし過ぎ。


「だけど、ちょっといろいろあって、頑張ろうって思ったんですけどね。親にもこれ以上迷惑かけちゃいけないなって思って、国立の大学に絞ることにして、ここを目指したんです」


 高校三年間の勉強を一年で終えるなんて、俺にはムリでしたと言って彼は笑った。


「受験は大変でしたけど、勉強って意外とおもろいなって思ったんです。本当に、俺みたいなクズでもチャンスを貰えるんだったら――」

「待って、でもそう思ったのなら、あなたのやってることは矛盾してる」


 彼の言葉を遮った。


「矛盾?」

「うん。まあ、あなたにもいろいろ事情はあるんだろうし、あたしが口を出すことではないのは分かってるんだけど」

「いえ、言ってください」

「……働くことなんて、いつだって出来るのに」


 勉強が面白いと初めて思えて、だから大学に来た。――なのに、バイトばっかりで講義にも出られない生活を続けているんじゃあ、意味ないじゃん。少なくともあたしはそう思ってしまったんだけど、各ご家庭の事情もあるだろうしね、と付け足した。


 崎田くんがゆっくりと目を閉じる。怒ってるかな。当たり前だ、あたし、一体何者なんだ。何様。


 ――でも。

 あと4ヶ月で大学生活を終えてしまうあたしにとって、

 大学生活の半分以上を無駄にしてしまったあたしにとって、


 今の崎田くんの時間の使い方は、あまりにも勿体無さすぎる。



「――刺さりますね」

「うん、ごめん。あくまで一個人の意見だから」

「いえ、自分とは違う人の意見って、大事じゃないですか?」

「……素直じゃん?」

「もちろん、俺のことを何にも知らないやつが、無責任に発言してるんだったら腹も立ちますけど」


 そして、少しだけ表情を緩めた。


「優里乃さんは違うと、俺には感じます」



 あかん、惚れる。

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